はしっこアンサンブル

はしっこアンサンブルのレビュー・評価・感想

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はしっこアンサンブル
9

キワモノではない、正統派学園漫画

かつて『げんしけん』で人気を博した木尾士目氏の作品です。もともと彼の作風はニッチな切り口から独特の世界観に持っていくイメージが強かったのですが、この作品はちゃんと青春漫画しているなと感じました。理系思考で空気の読めない合唱オタクの木村と、内気で低い声がコンプレックスの藤吉、この二人の主人公が出会いから始まる物語です。

序盤はキャラクターの強い面々が中心のストーリー展開です。木村を筆頭に、ヤンキーの折原、ピアニストを挫折した倉田、柔道一家の長谷川など…正直工業高校という一般的な舞台を選んだにしては、やりすぎな設定を詰め込みすぎという感じもしたのですが。
それでもストーリーはテンポよく進み、学園ものの作品として気持ちよく読むことができました。それぞれのキャラクターもストーリーでしっかり掘り下げる場面もあり、感情移入がしやすいのも評価できます。

この作者は今までキャラクターの内面をややえぐい程に描写する傾向があったのですが、今作は不快感を感じさせるほどではなく、かつ十分説得力のある描写で非常に良いバランスで描かれていたと思います。

今作のもう一つの魅力は「合唱」シーンの描写です。音や歌を紙面で表現するのは難しいと思いますが、今作は「合唱」シーンの描写が本当に素晴らしかった。見開きの多用や音符での表現、書き文字の配置など、描写で可能な試みは全て取り入れて、しかもハイレベルでまとまっていると感じました。また題材を合唱曲だけでなくJ‐POP曲を多めにすることで読み手が共感しやすくなったのも好印象でした。

ストーリーでは漫画的な、常識的にありえない展開もあるのですが、テンポの良さに助けられ一気に読むことができました。この作者の作品は全て読んでいますが、1ファンとして良作を描いてくれたことを喜ばしく思います。