映画「チャイルド44 森に消えた子供たち」に描かれる楽園の在り方

楽園において殺人は起こりえない。スターリン独裁政権下における理想国家、ソ連において殺人はありえないものでした。殺人は民主主義国家にのみ起こるもの。根深い理想論が官僚たちを醜悪な事件の隠ぺいに走らせ、歪んだ国家像が浮かび上がる。映画「チャイルド44 森に消えた子供たち」をご紹介致します。

あらすじ・ストーリー

スターリン政権下にある1953年のソ連。9歳から14歳までの子供たちが変死体となって発見される事件が発生する。現場は山間の線路沿いに限定され、全ての被害者は裸で胃が摘出されており、直接の死因は溺死であった。秘密警察の捜査官レオ(トム・ハーディ)は、親友の息子が犠牲となったことから捜査に乗り出すことに。だが、それを契機に元同僚に追われ、妻ライーサ(ノオミ・ラパス)にいわれのない犯罪の容疑が掛けられてしまう。窮地に立たされる状況で、真相をつかもうとする彼だが……。

出典: movies.yahoo.co.jp

原作は世界的大ベストセラーを記録し、日本でも「このミステリーが凄い大賞」に選ばれている

毎度のことながら、映画を観たあとに原作があると知りました。このミステリーが凄い大賞にも選ばれているとか。しかしここで少し疑問。この映画は厳密に言うとミステリー作品ではないように思われるのですが、どうなんでしょうかね。もちろん原作は分かりませんが、少なくとも作中でスポットライトが当たっているのは、官僚たちの殺人を事故で片づけようとする、理想論の醜い発露であって、謎解きが主題ではありません。犯人は中盤で顔を出しますしね。

殺人は起こりえない。だからこれは殺人ではなく事故だ。たとえ殺された形跡があろうとも、全てを事故で片づける。理想に振り回される人々と、その理想を幻想だとして真実を追い求める人々を描いています。濃密なストーリー展開で、片時も目が離せませんでした。殺人が野放しになる世界。合法でも違法でもなく、そもそも殺人という概念が存在しない。一見理想的な世界に見えますが、こんなに怖い世界もないでしょう。

殺人犯の動機が語られないまま物語が閉じてしまったのが残念

この手の物語は最終盤で犯人の動機が明らかになったりするのですが、この作品においてはそれがありませんでした。何か目的があったのか、それとも単なる快楽殺人だったのか、それすらも明らかになりません。確かに物語の芯を考えればその部分はいらないかもしれません。しかし、一視聴者としては消化不良の感はやはり否めません。そこに至るまでの道程が濃密だっただけに、そこだけ薄味になってしまっていて疑問符の多い余韻が漂います。

まとめ

原作を読んでいなくても十分楽しめる作品です。現に私も原作を読んでいませんが普通に観賞できましたから。国家の在り方の多様さも実感することができます。民主主義に慣れ切った私には少々インパクトが強かったのですが、こういう理想もあり得るのかと感じましたね。楽園に殺人はありえない。この言葉こそが、この映画のメインテーマとなっています。ぜひご観賞ください。

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