【怪談】閲覧注意!「人生で一番怖かった話」特集!【洒落怖】

「夏の暑い夜を涼しく過ごすために怖い話を聞く」というのは、古くからよく行われてきたことである。そこでここでは、有名なものからあまり知られていないものまで、会談や洒落にならないほど怖い話を紹介する。
誰かや何かの気配を感じて眠れなくなる可能性もあるので、閲覧は自己責任でお願いしたい。

『歌本』

古本屋で小学校の時に使ってたのと同じ歌の本を見つけて、
なんだか懐かしいような気分になって思わず購入。

『あの青い空のように』や
『グリーングリーン』
といった当時好きだった歌が
昔と全く同じ体裁で掲載されていて、
家で一曲一曲思い出しながら歌ってみた。

当時一番のお気に入りだった
『気球に乗ってどこまでも』
の頁を開いた。

右下に余白があり、
そこにいたずら書きがされていた。

いかにも小学生が
少女漫画を真似て書いたようなヘタッぴな絵で、
男の子と女の子が描かれていた。

男の子の方には
「さとるくん」と書いてあった。

シャツに「3」と書いてあった。

女の子の方には何も書いていなかった。

僕はちょっと笑った。

僕の名前もさとるだ。

ほとんど消えてしまっていて読めなかったので
気にしていなかったのだが、
もう一度裏表紙の持ち主の名前を見てみた。

○木(本?)△子。

小学生の時にそれと似た名前の女の子は
クラスに二人居た。

一人は高木秀子。

名前は覚えているが
顔はほとんど覚えていない。

もう一人は仲本順子。

こっちは良く顔を覚えている。

なぜなら初恋の相手だからだ。

僕はちょっとドキドキした。

妄想に近いある可能性を思ったからだ。

もちろん、古本屋は小学校から程遠い都会にあるし、
歌本は恐らく日本中に出回っているものなので、
ありえないことなのではあるが、
あの仲本順子が僕のことを絵に描き、
音楽の授業中にいつも見ていたとしたら…。

なんだか甘酸っぱい気分になりながら、
次のページを開いた。

次のページは『大きなのっぽの古時計』だった。

その余白にも男の子と女の子の絵があった。

テーブルで一緒に御飯を食べている絵だった。

テーブルの上には御飯と味噌汁と魚が描かれていた。

次のページは『翼をください』。

男の子と女の子、そして赤ん坊が描かれていた。

どうやら元の持ち主は結婚を夢見ていたらしい。

次頁は『この道』。

男の子と女の子の絵が描いてあるのだが、
女の子の顔がぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。

クラスメートにいたずらされたのか、
それとも自分でやったのだろうか?

次頁は『早春賦』。

男の子は描かれておらず、
女の子が泣いていた。

テーブルの上に芋虫のようなものが描かれていた。

一体何が起こったんだろうか?

想像が膨らんだ。

次頁は『あの素晴らしい愛をもう一度』。

悪趣味にも、葬式の祭壇のようなものが描かれていた。

もう男の子も女の子も居なかった。

歌本のいたずら書きはそれで終わりだった。

まさかとは思いながら
卒業アルバムを引っ張り出してみた。

仲本順子…、
久々に写真でみても
いまだに胸がときめく。

初恋だからしょうがない。

やっぱり可愛い。

高木秀子も探してみた。

が、見当たらなかった。

5年のときにクラスが変っていたはずだが、
他のクラスにも写っていなかったし、名簿にも無かった。

気になって仕方が無かったので、
当時PTA役員をやっていた母親に
高木秀子を覚えているかどうか聞いてみた。

「覚えてるよ。
でも、ほらあの子亡くなったでしょう、
5年生のとき、事故で。」

すっかり忘れていた。

そういえば女の子が亡くなって
ちょっと騒ぎになったことがあった。

あれが高木だったのだ。

母親は続けてこう言った。

「でも、ホントは自殺だったらしいわよ。
警察の方で事故扱いにしてくれたんだって。
かわいそうにねぇ」

それは初耳だった。

嫌な予感が急に現実味を帯びてきた。

居ても立っても居られず、
当時のクラスメイトの岡村に電話をした。

岡村も自殺の噂は知っていた。

全然関係ないことだけどと、
彼はこう言った。

「そういえば、長島監督、大丈夫かね、
お前ファンだったじゃん。
いつも背番号3のジャイアンツTシャツ着ててさ。」

言われて思い出した。

僕自身は全く興味なかったのだが、
そういえば巨人ファンの父親が買ってきた
Tシャツを良く来ていた。

そうするとやはりあの男の子は僕で、
女の子は…。

いや、まさか。

急に怖くなって手にしていた歌本を放り投げた。

「俺たち、あの子に悪いことしたよな。
良くいじめてたじゃん。
顔に習字の墨汁ぶちまけたりしたっけ。
お前なんか、給食の中に毛虫いれたりしてさ。覚えてるだろ?」

もちろん、忘れていた。

そして、歌本は間違いなく高木秀子のものだと確信した。

『ヤマノケ』

出典: msp.c.yimg.jp

一週間前の話。
娘を連れて、ドライブに行った。
なんてことない山道を進んでいって、途中のドライブインで飯食って。
で、娘を脅かそうと思って舗装されてない脇道に入り込んだ。

娘の制止が逆に面白くって、どんどん進んでいったんだ。
そしたら、急にエンジンが停まってしまった。

山奥だからケータイもつながらないし、車の知識もないから
娘と途方に暮れてしまった。飯食ったドライブインも歩いたら何時間かかるか。
で、しょうがないからその日は車中泊して、次の日の朝から歩いてドライブイン
行くことにしたんだ。

車内で寒さをしのいでるうち、夜になった。
夜の山って何も音がしないのな。たまに風が吹いて木がザワザワ言うぐらいで。

で、どんどん時間が過ぎてって、娘は助手席で寝てしまった。
俺も寝るか、と思って目を閉じてたら、何か聞こえてきた。

今思い出しても気味悪い、声だか音だかわからん感じで

「テン(ケン?)…ソウ…メツ…」って何度も繰り返してるんだ。

最初は聞き間違いだと思い込もうとして目を閉じたままにしてたんだけど、
音がどんどん近づいてきてる気がして、たまらなくなって目を開けたんだ。

そしたら、白いのっぺりした何かが、めちゃくちゃな動きをしながら車に近づいて
くるのが見えた。形は「ウルトラマン」のジャミラみたいな、頭がないシルエットで
足は一本に見えた。そいつが、例えるなら「ケンケンしながら両手をめちゃくちゃに
振り回して身体全体をぶれさせながら」向かってくる。

めちゃくちゃ怖くて、叫びそうになったけど、なぜかそのときは
「隣で寝てる娘がおきないように」って変なとこに気が回って、叫ぶことも逃げることも
できないでいた。

そいつはどんどん車に近づいてきたんだけど、どうも車の脇を通り過ぎていくようだった。
通り過ぎる間も、「テン…ソウ…メツ…」って音がずっと聞こえてた。

音が遠ざかっていって、後ろを振り返ってもそいつの姿が見えなかったから、ほっとして
娘の方を向き直ったら、そいつが助手席の窓の外にいた。
近くでみたら、頭がないと思ってたのに胸のあたりに顔がついてる。思い出したくもない
恐ろしい顔でニタニタ笑ってる。

俺は怖いを通り越して、娘に近づかれたって怒りが沸いてきて、「この野郎!!」って
叫んだんだ。
叫んだとたん、そいつは消えて、娘が跳ね起きた。

俺の怒鳴り声にびっくりして起きたのかと思って娘にあやまろうと思ったら、娘が
「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」
ってぶつぶつ言ってる。

やばいと思って、何とかこの場を離れようとエンジンをダメ元でかけてみた。そしたら
かかった。急いで来た道を戻っていった。娘はとなりでまだつぶやいている。

早く人がいるとこに行きたくて、車を飛ばした。ようやく街の明かりが見えてきて、
ちょっと安心したが、娘のつぶやきが「はいれたはいれた」から「テン…ソウ…メツ…」に
いつの間にか変わってて、顔も娘の顔じゃないみたいになってた。

家に帰るにも娘がこんな状態じゃ、って思って、目についた寺に駆け込んだ。
夜中だったが、寺の隣の住職が住んでるとこ?には明かりがついてて、娘を引きずりながら
チャイムを押した。

住職らしき人が出てきて娘を見るなり、俺に向かって「何をやった!」って言ってきた。
山に入って、変な奴を見たことを言うと、残念そうな顔をして、気休めにしかならないだろうが、
と言いながらお経をあげて娘の肩と背中をバンバン叩き出した。

住職が泊まってけというので、娘が心配だったこともあって、泊めてもらうことにした。
娘は「ヤマノケ」(住職はそう呼んでた)に憑かれたらしく、49日経ってもこの状態が続くなら
一生このまま、正気に戻ることはないらしい。住職はそうならないように、娘を預かって、
何とかヤマノケを追い出す努力はしてみると言ってくれた。妻にも俺と住職から電話して、
なんとか信じてもらった。住職が言うには、あのまま家に帰っていたら、妻にもヤマノケが
憑いてしまっただろうと。ヤマノケは女に憑くらしく、完全にヤマノケを抜くまでは、妻も
娘に会えないらしい。

一週間たったが、娘はまだ住職のとこにいる。毎日様子を見に行ってるが、もう娘じゃないみたいだ。
ニタニタ笑って、なんともいえない目つきで俺を見てくる。
早くもとの娘に戻って欲しい。

遊び半分で山には行くな。

『鹿島さん』

出典: www.ublegend.com

時は第二次世界大戦の日本敗戦直後、日本はアメリカ軍の支配下に置かれ各都市では多くの米兵が行き交う時代でした。

ある夜、地元でも有名な美女(23歳の方)が一人、加古川駅付近を歩いていた時
不幸にも数人の米兵にレイプされその後殺すにも苦しみながら死んでいくのを楽しむため体の両腕・両足の付け根の部分に銃弾を叩き込み道路上に放置したまま立ち去りました。

瀕死の状態をさまよっていた時、運良くその場を通りがかった地元でも有名な医者に発見され腐敗していた両腕・両足を切り落とすことを代償に一命を取りとめました。

しかし、自分の美しさにプライドを持っていた女は生きることに希望が持てず国鉄(当時)加古川線の鉄橋上へ車椅子で散歩につれられているスキをみて車椅子を倒し、両腕・両足のない体で体をよじらせ鉄橋の上から走ってきた列車へ身投げし自殺しました。

警察、国鉄から多くの方が線路中で肉片の収集をしましたが、不思議なことに首から上の部分の肉片は全くみつからなっかたとのことです。

しかし時代が時代だったもので数日経過すると、その事件を覚えている者はほとんど居なくなりました。

事件が起こったのは、数ヶ月後のある日です。

朝は元気だった者がなぜか変死を遂げるようになってきました。
それも一軒の家庭で起こるとその近所で事件が起こるといった具合です。

警察も本格的に動き出し、事件が起こった家庭への聞き込みではなぜか共通点がありました。
それは死亡者は必ず、死亡日の朝に「昨日、夜におかしな光を見た」というのです。

実際に当時の新聞にも記載された事件であり加古川市では皆がパニックになりました。
加古川所では事件対策本部がおかれ事件解決に本腰が入りました。

そこである警察官が事件が起こった家庭を地図上で結んでみると、あることに気がつきました。
なんとその曲線は手足のない、しかも首もない胴体の形になりつつあったのです。
こうなると当然 次はどのあたりの者が事件に遭うか予測がつきます。

そこで前例にあった「光」を見た者は警察に届け出るように住民に知らせました。
やはり、曲線上の家庭では「光」を見たといい死んでいきました。
しかし、実は「光」ではなかったのです。

死者の死亡日の朝の告白はこうでした
「夜、なぜか突然目が覚めました。するとかすかな光が見え、見ているとそれはますます大きな光となります。目を凝らしてみると何かが光の中で動いているのが見えます。物体はだんだん大きくなりこちらへ近づいてきます。その物体とはなんと、首もない両腕・両足のない血塗れの胴体が肩を左右に動かしながら這ってくる肉片だった。ますます近づいてくるので怖くて目を閉じました」というのです。

次からも、その同じ肉片を見た者は必ず死にました。
そこで次は自分だと予想した者が恐ろしさのあまり加古川市と高砂市(隣の市)の間にある鹿島神社(地元では受験前など多くの人が参拝する)でお払いをしてもらいました。
すると「暗闇のむこうに恐ろしい恨みがあなたを狙っているのが見えます。お払いで拭いきれない恨みです。どうしようもありません。

唯一貴方を守る手段があるとするならば、夜、肉片が這ってきても絶対目を閉じずに口で鹿島さん、鹿島さん、鹿島さんと3回叫んでこの神社の神を呼びなさい」といわれました。
その夜、やはり肉片は這ってきましたが恐怖に耐え必死に目を開いて「鹿島さん」を 3回唱えました。

すると肉片はその男の周りをぐるぐる這った後、消えてしまいました。
通常、話はこれで終わりますが、やはり恨みは非常に強く、その男が旅へ出てもその先にて現れました。

その後、その方がどうなったかは知りません。

ただ非常にやっかいなことにこの話は、もし知ってしまうと肉片がいつかはその話を知ってしまった人のところにも現れるということです。
私(兵庫県出身)が知ったのは、高校時代ですが私の高校ではこの話は人を恐怖に与えるためか、迷信を恐れるためか口に出すことが校則で禁止されました。
皆さんはインターネットで知ったので鹿島さん(地元では幽霊の肉片を鹿島さんと呼ぶ)を見ないことに期待します。

もし現れたら必ず目を閉じず「鹿島さん」を3回唱えてください。…

『頑張り屋な男子生徒』

私は数年前まで中学校の教員をやっていた者です。

学校というところは、
大勢の人間が行き来するだけに
さまざまな『気』が澱んでゆく場所のようです。

よい意味で清々しい気もあれば、
悪意に満ちた気もある…

これはそんなことではないかなという私の体験です。

私が教員になったばかりの頃ですから、
今から15年以上前になります。

当時一人の病弱な男子生徒がいました。

先天的に腎臓に障害があり、
小学校時代から定期的に人工透析を
受ける生活を続けていた彼は、
自分の病を正面から受け止めて精一杯生きている少年でした。

「頑張り屋」…当時の彼を知る周囲の一致した評価です。

教室では誰もが自然に、彼に一目置いていました。

体がきつい時でも笑顔を絶やさず、

決して人の悪口を言わない。

話も面白いし、

友人の悩みごとの相談にものってあげる。

学校を休みがちだったにもかかわらず

勉強でも上位の成績を維持していましたし、

それを鼻にかけることもない。

誰もが嫌がる秋の恒例行事『駒ケ岳縦走』も、

病をおして三年間とも参加するなど、

大人の我々から見ても

彼の頑張りは尊敬に値するものでした。

それは学校祭も駒ケ岳縦走も終わった

晩秋のことでした。

ある日の放課後のことです。

部活動も終わり、

生徒も下校した6時過ぎでした。

すでに日は落ちて、校舎の中はもちろん

外も真っ暗になっている時間帯です。

日直だった私は一人で校舎内を見回っていました。

面倒なので懐中電灯などは持っていませんでした。

築20年を経た古びた鉄筋校舎の明かりは、

廊下のちかちかと薄暗い蛍光灯だけです。

当然、教室の中は真っ暗です。

私の担任していた3年2組の教室の前まで来た時、

校庭の常夜灯に照らされて窓際の机に人影が見えました。

正直ぎょっとしましたが、

やがてそれが彼であると気づいて

私は躊躇なく教室に入って行きました。

「なんだ○○、驚かすなよ。忘れ物か?」

そんな声を掛けたのだと思います。

返事はありませんでした。

「電気くらい点けろよ…びっくりするじゃないか。」

言いながら教室の電気を点けました。

古ぼけた蛍光灯が点るまで、

一瞬の間がありました。

見ると、彼は自分の机に座ったまま

黙ってこちらを見ています。

私は必要以上に大声になっている自分に気づきながらも

続けて彼に話しかけました。

なぜだか、話しかけずにはいられない気分で…

「真っ暗じゃないか。何を忘れたんだ?」

彼はまだ黙っています。

座ったままです。

でもこちらをじっと見ています。

「もう遅いから、早く帰りなさい。あったのか、忘れもの…」

言いながら彼に近づいていきました。

その時ふっと、

彼の表情が変わったように思いました。

「…何を忘れたんだ」

自分の声が、

無残にも尻すぼみになるのが判りました。

そこに居る少年が、

いつもの柔和な表情をしていないことに

気づいたからです。

それは…厳しい表情でした。

いや、厳しいというより

何か「邪悪な」といった表現がしっくりする表情です。

目がすっと細くなり、

薄い唇の端が引きつって震えている。

硬い頬に歯を喰いしばったような筋肉のすじが浮き上がり

色白の顔には額の血管までもがはっきりと浮き出して見えました。

机の上に置いた白い指が、

神経質に震えているのも判りました。

やがて彼は口を開きました。

「はい。もう帰ります。」

「あ、ああ。気をつけてな。」

私が先に教室を出ました。

彼が口をきいたことで

何故かほっと安堵の想いが湧き上がった私は

肩越しに振り返りつつ彼に話しかけました。

「で、何を取りにきたんだ?」

言いながら振り返ったそこには…誰も居ませんでした。

がらんとした無人の教室。

同時に私は思い出したのです。

彼は先週から具合が悪くなり、

県外の病院に入院していたことを。

翌日、彼が亡くなったという知らせがありました。

そして級友たちに見送られて彼が旅立った葬儀の翌日。

一枚の写真を持って、

女子生徒たちが憤慨しながら

私のところにやってきました。

それは今年の駒ケ岳縦走での集合写真でした。

「先生みてください、これ!!」

それは山頂で撮ったクラスの集合写真でした。

先日から購入希望を募るため、

教室の掲示板に貼り出してあったもの。

青空の下、連なる峰々を背景に

それぞれ思い思いの格好で

ポーズするクラスメイトたち。

しかしその顔には…

画鋲を無数に突き刺した痕がありました。

全員の顔に、ブツブツと乱暴に穿たれた傷痕。

…いや、正確には

「一人を除いて」

ボロボロの写真の中には、

彼の笑顔だけがあったのです。

これは私の単なる錯覚に違いないと思いたいのです。

でもあの教室での彼の表情を思い出す度に

ひやりとするものが私の心に甦るのも事実なのです。

『カン、カン』

出典: msp.c.yimg.jp

270 :あなたのうしろに名無しさんが…:02/08/21 23:11
幼い頃に体験した、とても恐ろしい出来事について話します。

その当時私は小学生で、妹、姉、母親と一緒に、どこにでもあるような小さいアパートに住んでいました。
夜になったら、いつも畳の部屋で、家族揃って枕を並べて寝ていました。

ある夜、母親が体調を崩し、母に頼まれて私が消灯をすることになったのです。
洗面所と居間の電気を消し、テレビ等も消して、それから畳の部屋に行き、
母に家中の電気を全て消した事を伝えてから、自分も布団に潜りました。
横では既に妹が寝ています。

普段よりずっと早い就寝だったので、その時私はなかなか眠れず、しばらくの間ぼーっと天井を眺めていました。
すると突然。静まり返った部屋で、「カン、カン」という変な音が響いだのです。
私は布団からガバッと起き、暗い部屋を見回しました。しかし、そこには何もない。
カン、カン
少しして、さっきと同じ音がまた聞こえました。どうやら居間の方から鳴ったようです。
隣にいた姉が、「今の聞こえた?」と訊いてきました。空耳などではなかったようです。
もう一度部屋の中を見渡してみましたが、妹と母が寝ているだけで部屋には何もありません。

271 :270続き:02/08/21 23:14
おかしい…確かに金属のような音で、それもかなり近くで聞こえた。
姉もさっきの音が気になったらしく、「居間を見てみる」と言いました。
私も姉と一緒に寝室から出て、真っ暗な居間の中に入りました。
そしてキッチンの近くから、そっと居間を見ました。
そこで私達は見てしまったのです。
居間の中央にあるテーブル。いつも私達が食事を取ったり団欒したりするところ。
そのテーブルの上に、人が座っているのです。
こちらに背を向けているので顔までは判りません。
でも、腰の辺りまで伸びている長い髪の毛、ほっそりとした体格、身につけている白い浴衣のような着物から、
女であるということは判りました。
私はぞっとして姉の方を見ました。姉は私の視線には少しも気付かず、その女に見入っていました。
その女は真っ暗な居間の中で、背筋をまっすぐに伸ばしたままテーブルの上で正座をしているようで、ぴくりとも動きません。
私は恐ろしさのあまり足をガクガク震わせていました。
声を出してはいけない、もし出せば恐ろしい事になる。
その女はこちらには全く振り向く気配もなく、ただ正座をしながら私達にその白い背中を向けているだけだった。

私はとうとう耐え切れず、「わぁーーーーーっ!!」と大声で何か叫びながら寝室に飛び込んだ。
母を叩き起こし、「居間に人がいる!」と泣き喚いた。
「どうしたの、こんな夜中に」
そう言う母を引っ張って居間に連れていった。

居間の明りを付けると、姉がテーブルの側に立っていた。
さっきの女はどこにも居ません。テーブルの上もきちんと片付けられていて何もありません。
しかし、そこにいた姉の目は虚ろでした。今でもはっきりと、その時の姉の表情を覚えています。
私と違って彼女は何かに怯えている様子は微塵もなく、テーブルの上だけをじっと見ていたのです。

275 :270続き:02/08/21 23:16
母が姉に何があったのか尋ねてみたところ、「あそこに女の人がいた」とだけ言いました。
母は不思議そうな顔をしてテーブルを見ていましたが、「早く寝なさい」と言って、3人で寝室に戻りました。

私は布団の中で考えました。アレを見て叫び、寝室に行って母を起こして、居間に連れてきたちょっとの間、
姉は居間でずっとアレを見ていたんだろうか?
姉の様子は普通じゃなかった。何か恐ろしいものを見たのでは?そう思っていました。

そして次の日、姉に尋ねてみたのです。
「お姉ちゃん、昨日のことなんだけど…」
そう訊いても姉は何も答えません。下を向いて沈黙するばかり。
私はしつこく質問しました。
すると姉は、小さな声でぼそっとつぶやきました。
「あんたが大きな声を出したから…」

それ以来、姉は私に対して冷たくなりました。
話し掛ければいつも明るく反応してくれていたのに、無視される事が多くなりました。
そして、あの時の事を再び口にすることはありませんでした。
あの時、私の発した大声で、あの女はたぶん、姉の方を振り向いたのです。
姉は女と目が合ってしまったんだ。きっと、想像出来ない程恐ろしいものを見てしまったのだ。
そう確信していましたが、時が経つにつれて、次第にそのことも忘れていきました。

276 :270続き:02/08/21 23:17
中学校に上がって受験生になった私は、毎日決まって自分の部屋で勉強するようになりました。
姉は県外の高校に進学し、寮で生活して、家に帰ってくることは滅多にありませんでした。

ある夜、遅くまで机に向かっていると、扉の方からノックとは違う何かの音が聞こえました。
カン、カン
かなり微かな音です。金属っぽい音。
それが何なのか思い出した私は、全身にどっと冷や汗が吹き出ました。
これはアレだ。小さい頃に母が風邪をひいて、私が代わって消灯をした時の…
カン、カン
また鳴りました。扉の向こうから、さっきと全く同じ金属音。
私はいよいよ怖くなり、妹の部屋の壁を叩いて「ちょっと、起きて!」と叫びました。
しかし、妹はもう寝てしまっているのか、何の反応もありません。母は最近ずっと早寝している。
とすれば、家の中でこの音に気付いているのは私だけ…。
独りだけ取り残されたような気分になりました。
そしてもう1度あの音が。
カン、カン

私はついに、その音がどこで鳴っているのか分かってしまいました。
そっと部屋の扉を開けました。真っ暗な短い廊下の向こう側にある居間。
そこはカーテンから漏れる青白い外の光でぼんやりと照らし出されていた。

279 :270続き:02/08/21 23:19
キッチンの側から居間を覗くと、テーブルの上にあの女がいた。
幼い頃、姉と共に見た記憶が急速に蘇ってきました。
あの時と同じ姿で、女は白い着物を着て、すらっとした背筋をピンと立て、
テーブルの上できちんと正座し、その後姿だけを私に見せていました。
カン、カン
今度ははっきりとその女から聞こえました。
その時、私は声を出してしまいました。
何と言ったかは覚えていませんが、またも声を出してしまったのです。
すると女は私を振り返りました。
女の顔と向き合った瞬間、私はもう気がおかしくなりそうでした。
その女の両目には、ちょうど目の中にぴったり収まる大きさの鉄釘が刺さっていた。
よく見ると、両手には鈍器のようなものが握られている。
そして口だけで笑いながらこう言った。
「あなたも…あなた達家族もお終いね。ふふふ」

次の日、気がつくと私は自分の部屋のベッドで寝ていました。
私は少しして昨日何があったのか思い出し、
母に、居間で寝ていた私を部屋まで運んでくれたのか、と聞いてみましたが、何のことだと言うのです。
妹に聞いても同じで、「どーせ寝ぼけてたんでしょーが」とけらけら笑われた。
しかも、私が部屋の壁を叩いた時には、妹は既に熟睡してたとのことでした。
そんなはずない。
私は確かに居間でアレを見て、そこで意識を失ったはずです。
誰かが居間で倒れてる私を見つけて、ベッドに運んだとしか考えられない。
でも改めて思い出そうとしても、頭がモヤモヤしていました。
ただ、最後のあのおぞましい表情と、ニヤリと笑った口から出た言葉ははっきり覚えていた。
私と、家族がお終いだと。

474 :270:02/08/22 23:33
異変はその日のうちに起こりました。
私が夕方頃、学校から帰ってきて玄関のドアを開けた時です。
いつもなら居間には母がいて、キッチンで夕食を作っているはずであるのに、居間の方は真っ暗でした。
電気が消えています。
「お母さん、どこにいるのー?」
私は玄関からそう言いましたが、家の中はしんと静まりかえって、まるで人の気配がしません。
カギは開いているのに…掛け忘れて買い物にでも行ったのだろうか。
のんきな母なので、たまにこういう事もあるのです。
やれやれと思いながら、靴を脱いで家に上がろうとしたその瞬間、
カン、カン
居間の方で何かの音がしました。
私は全身の血という血が、一気に凍りついたような気がしました。
数年前と、そして昨日と全く同じあの音。
ダメだ。これ以上ここに居てはいけない。恐怖への本能が理性をかき消しました。
ドアを乱暴に開け、無我夢中でアパートの階段を駆け下りました。
一体何があったのだろうか?お母さんは何処にいるの?妹は?
家族の事を考えて、さっきの音を何とかして忘れようとしました。
これ以上アレの事を考えていると、気が狂ってしまいそうだったのです。

すっかり暗くなった路地を走りに走った挙句、私は近くのスーパーに来ていました。
「お母さん、きっと買い物してるよね」と一人で呟き、切れた息を取り戻しながら中に入りました。
時間帯が時間帯なので、店の中に人はあまりいなかった。
私と同じくらいの中学生らしき人もいれば、夕食の材料を調達しに来たと見える主婦っぽい人もいた。
その至って通常の光景を見て、少しだけ気分が落ち着いてきたので、私は先ほど家で起こった事を考えました。

475 :270:02/08/22 23:35
真っ暗な居間、開いていたカギ、そしてあの金属音。家の中には誰もいなかったはず。アレ以外は。
私が玄関先で母を呼んだ時の、あの家の異様な静けさ。あの状態で人なんかいるはずがない…
でも、もし居たら?私は玄関までしか入っていないのでちゃんと中を見ていない。ただ電気が消えていただけ。
もしかすると母は、どこかの部屋で寝ていて、私の声に気付かなかっただけかもしれない。
何とかして確かめたい。そう思い、私は家に電話を掛けてみることにしたのです。

スーパーの脇にある公衆電話。お金を入れて、震える指で慎重に番号を押していきました。
受話器を持つ手の震えが止まりません。1回、2回、3回…コール音が頭の奥まで響いてきます。
『ガチャ』
誰かが電話を取りました。私は息を呑んだ。耐え難い瞬間。
『もしもし、どなたですか』
その声は母だった。その穏やかな声を聞いて、私は少しほっとしました…
「もしもし、お母さん?」
『あら、どうしたの。今日は随分と遅いじゃない。何かあったの?』
私の手は再び震え始めました。手だけじゃない。足もガクガク震え出して、立っているのがやっとだった。
あまりにもおかしいです。いくら冷静さを失っていた私でも、この異常には気付きました。
「なんで…お母さ…」
『え?なんでって何が…ちょっと、大丈夫?本当にどうしたの?』
お母さんが今、こうやって電話に出れるはずはない。私の家には居間にしか電話がないのです。
さっき居間にいたのはお母さんではなく、あのバケモノだったのに。
なのにどうして、この人は平然と電話に出ているのだろう。
それに、今日は随分と遅いじゃないと、まるで最初から今までずっと家にいたかのような言い方。
私は電話の向こうで何気なく私と話をしている人物が、得体の知れないもののようにしか思えなかった。
そして、乾ききった口から何とかしぼって出した声がこれだった。
「あなたは、誰なの?」
『え?誰って…』
少しの間を置いて返事が聞こえた。
『あなたのお母さんよ。ふふふ』

『歯型』

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