エリスの聖杯(ラノベ・漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『エリスの聖杯』は「小説家になろう」で常盤くじらによって書かれた小説及び漫画作品であり、2019年に「GAノベル/SBクリエイティブ刊」より発行された。誠実がモットーの子爵令嬢、コニーは小宮殿の夜会で婚約者の浮気を目撃。更に窃盗の濡れ衣まで着せられてしまう。窮地に陥る彼女の元に10年前処刑された稀代の悪女の亡霊が現れ、瞬く間に形勢を逆転。しかし亡霊は見返りを求めるのだった。登場人物全員に膨大な背景と思惑があり、それぞれの生き様が鮮やかに実感を伴って描かれており、物語に重厚感があることが魅力。

『エリスの聖杯』の概要

『エリスの聖杯』は「小説家になろう」で常盤くじらによって書かれた小説及び漫画作品であり、2019年に「GAノベル/SBクリエイティブ刊」より発行された。2017年10月に執筆が開始され、2020年10月に後日談まで執筆し完結、桃山ひなせによってコミカライズされている。
誠実だけがモットーの子爵家の令嬢、コンスタンス・グレイル(愛称:コニー)はハームワース子爵が主催する小宮殿(グラン・メリル=アン)の夜会に参加する。そこで婚約者のニールが男爵令嬢パメラと浮気しているところを目撃。落ち込むコニーは更にブレンダ・ハリスの髪飾りの窃盗という濡れ衣まで着せられてしまう。窮地に陥るコニーの元に、10年前処刑された稀代の悪女、スカーレット・カスティエルの亡霊が現れる。かつて類まれなる美貌と由緒正しき血統圧倒的カリスマ性で社交界の至宝と謳われたスカーレットは、コニーに憑依するやいなや瞬く間に形勢を逆転し危機を救う。しかしスカーレットはコニーを救った見返りを求めるのだった。
登場人物全員に膨大な背景と思惑があり、それぞれの生き様が鮮やかに実感を伴って描かれている。個性豊かな登場人物たちとスカーレットが展開する緻密な謎解きが交錯することで物語に重厚感を与えている。

『エリスの聖杯』のあらすじ・ストーリー

婚約者の浮気と処刑された亡霊と出会う小宮殿の夜会

誠実だけがモットーの子爵家の令嬢、コンスタンス・グレイル(通称:コニー)はハームワース子爵が主催する小宮殿の夜会に参加した。そこで婚約者のニール・ブロンソンが男爵家のパメラ・フランシスと浮気しているところを目撃する。落ち込むコニーは更にブレンダ・ハリスの髪飾りの窃盗という濡れ衣まで着せられてしまうことになる。助けを求めるも誰一人味方をしてくれず、目を逸らされるコニー。絶体絶命の窮地に陥る彼女の元に、10年前に子爵令嬢暗殺未遂で処刑された稀代の悪女、スカーレット・カスティエルの亡霊が現れる。かつて類まれなる美貌と由緒正しき血統、圧倒的カリスマ性で社交界の至宝と謳われたスカーレットは、コニーに憑依する。ブレンダの髪飾りを受け取った瞬間に周りにいた人物全員に話しかけ、「調べはすぐにつくし、見て見ぬ振りをした者たちも同罪。そんなあなたを見てお母様はなんと言うでしょうね?」と問いかける。その言葉を皮切りに、ブレンダの髪飾りはコニーが盗んだのではなくただ預かっていただけだと言うことが証明される。ニールとの浮気現場に関してもパメラから「ニールとはただ口付けをしていただけよ!」と自供させ、瞬く間に形勢を逆転し危機を救うのだった。
翌日目を覚ましたコニーの前に現れたスカーレットは、助けた代償を要求する。それはコニーのこの先の人生を賭けて、スカーレットを免罪で処刑に追い込んだ者たちへの復讐を手伝うことだった。一度は断るコニーだが、実家の借金をなんとかするという目的もあいまってスカーレットの復讐に付き合うことになるのだった。

痴情のもつれとランドルフ・アルスターに再会するエミリア・ゴードウィンの夜会

スカーレットを陥れた人物を探るために、スカーレットの友人であり3年前に自殺したリリィの実家を訪れるコニー。そこでリリィが残した鍵と「エリスの聖杯を破壊せよ」というメッセージを発見する。その意味は分からないままであった。帰り際にはリリィの夫で、犯罪機関を取り締まる捜査機関である王立憲兵局に属しているランドルフ・アルスター少佐に呼び止められる。
翌日になると、浮気したコニーの元婚約者であるニールがグレイル邸にやってきた。あろうことか、ニールは浮気したことでブロンソン商会にまで影響が出ていると苦情を言う。しかしコニーは「私に何かできる?ブロンソン商会の人に罪はないから」とニールを助けることを考える。呆れたスカーレットは貴族特有の賄賂を使うことで商会を助けることができると教えるのだった。
スカーレットに関する情報収集をするため、スカーレットの知人だったエミリア・ゴードウィンの夜会に参加する事になる。夜会では痴情のもつれから流血沙汰の喧嘩となる場面に出くわしてしまうが、夜会に出席していたランドルフによってその場はおさめられる。早々にお開きとなったが、最後にエミリアから情報を集めるのにうってつけだという「ジョン・ドゥ伯爵の夜会」を紹介されるのだった。

人身売買が行われていたジョン・ドゥ伯爵の夜会

ジョン・ドゥ伯爵の夜会は通称名無しの夜会と呼ばれおり、仮面をつけて出席することが通例となっている。仮面は高価でありコニーには買うことが難しいため、スカーレットが使っていた仮面を盗みにスカーレットの実家に潜入する。コニーは洗濯女中の格好をすることで無事に仮面を入手する事に成功する。
コニーは手に入れた仮面をつけ、以前にスカーレットが使用していた「エリス」と言う偽名を使って夜会に参加する。夜会では異国の商人たちによって子供の人身売買が行われており、王立憲兵が乗り込んでくる事態となる。しかしコニーは混乱によって血を流した女性を見捨てられず、逃げ遅れて憲兵に剣を向けられてしまう。そこへランドルフが再度登場し、コニーを救うのだった。
リリィの実家に忍び込んだことやゴードウィンの夜会、そしてジョン・ドゥの夜会など最近のコニーの行動に疑問を持ったランドルフはコニーに情報を提供するよう迫る。コニーは情報を提供する代わりに実家の借金をなんとかするための金銭を要求する。貴族間での大きな金銭の譲渡は目立ってしまうため、ランドルフはコニーに対し「見せかけの婚約」を提案し、コニーは勢いで了承するのだった。

コニーがでたらめな理由で私刑にあう口なき貴婦人たちの茶会

ジョン・ドゥ伯爵の夜会の主催者であった四大貴族のデボラ・ダルキアン公爵夫人からコニーに一通の手紙が届いた。それは査問会をするための召喚状であり、スカーレット曰くデボラの醜悪な遊びだという。ランドルフにも行かなくていいと言われたが、身の潔白を証明するためにコニーは参加する事になる。ランドルフと話し合った後は、彼の古い友人であるエンリケ王太子とその妻セシリア妃がランドルフの新しい婚約者に会いたがっていたために、謁見することとなったのだった。
後日、口なき貴婦人たちの茶会という名の査問会に招かれたコニーは、デボラたちがでっち上げた罪状で理不尽に裁かれそうになる。しかしスカーレットがコニーの体に乗り移り反撃したことと、ランドルフに頼まれたという四大貴族のアビゲイル・オブライエン公爵夫人に助けられ査問会を無事に終えることができるのであった。
査問会からの帰路の途中、コニーはメイフラワー社の記者に絡まれる。「幻覚剤を使用している」「ランドルフと婚約したのは新聞に載って目立ちたいから?」などとあまりに身に覚えのないゴシップをペラペラと次から次に喋る記者に「この人は一体何を言っているの?」とコニーは当惑する。後日その記者が書いた記事を友人の子爵令嬢ミレーヌが見せにやってくる。さらにはその記事を本気にした市民団体からコニー宛に抗議文が届き、抗議文を書いた本人に突撃されたりするが、親友のケイト・ロレーヌが現れ「コンスタンス・グレイルは私をそんなふうに扱った事はない」と庇ってくれるのだった。

親友ケイトの誘拐

ランドルフとコニーが王太子夫妻と謁見した後日、隣国のファリスから内密に第七王子がアデルバイドに入国していた。しかし王立憲兵局がその情報を得た時には第七王子は姿を消していた。セシリア妃を訪問したソルディタ共和国の商人が隣国ファリスの第七殿下を誘拐した可能性があった。その商人の行方を追うコニーたちは、商人繋がりでニール、そしてソルディタ共和国にパイプがあるというウォルター商会を訪問する。その帰り道、偽御者に襲われそうになるが、アビゲイルの腹心でもあるオルダス・クレイトンの発砲により助かるのだった。その後偽御者はランドルフたちが追っていた犯罪組織「暁の鶏(ダェグ・ガルス)」であることが判明する。自分が危険な立場にいると自覚したコニーは、自分を心配してくれるケイトを遠ざけようとする。その願いは虚しくケイトは攫われ、脅迫状がコニーに届くのだった。コニーはスカーレットの言うままにランドルフにSOSを発し、ケイトを助けに向かう。
ケイトが連れ去られた先の小屋に現れたのは、ケイトを攫った男の仲間でサルバドルと呼ばれる男だった。サルバドルは「コニーのせいでひどい目にあったね」と声をかけるが、ケイトはコニーを信じることを貫く。そして脅迫状に書かれていた場所にコニーはやってきた。コニーが来たことでケイトは解放される約束であったが、殺害されるためにケイトは離れた場所へ連れられて行ってしまう。しかし、先ほどのSOSに気づいたランドルフによりケイト救出に成功する。一方ケイトを誘拐した犯人は、ランドルフたちに尋問される前に仲間である暁の鶏の手のものによって殺害されてしまうのであった。

スカーレット処刑の秘密を告白

ケイト誘拐事件の後、コニーはゴードウィンの夜会で話を聞きそびれていたアイシャ・ハクスリー子爵夫人に10年前のことを聞き出すため、まずは公爵家のアビゲイルに取り次ぎを頼む。アビゲイルの屋敷に招かれ、ルチア・オブライエンと名乗るおませな女の子と出会う。スカーレットが見えるというルチアのせいでスカーレットとの今までの話を説明する事になる。そしてアビゲイルとルチア、オルダスとの関係性と過去の話を聞くこととなる。ルチアはアビゲイルの姪であり、アビゲイルの義弟の娘であった。ルチアは幻覚剤中毒者の父親によって5歳になるまで虐待されて過ごしていた。アビゲイルに救出されて以降はアビゲイルと夫、オルダスの3人でルチアを守り育ててきたのだった。
翌日、ランドルフの部下であるカイル・ヒューズからの助言でランドルフは婚約者となったコニーをデートに誘うが、その場所は歴史資料館であった。しかも前妻のリリィと来たことがあると言われ、コニーはしょんぼりするがランドルフはその様子に一切気が付かない。その後移動したカフェで経過報告を行い、ランドルフからもしかしたらアイシャが暁の鶏と関わっている可能性があるかもしれないから注意するよう忠告される。
一方、アイシャにとってスカーレットは憧れてやまない女神のような存在であり、どうしてコニーがスカーレットに似ているという話になるのかと憤慨していた。アイシャは気分を落ち着かせるために幻覚剤を吸い、小刀を忍ばせてコニーを出迎える。アイシャはスカーレットの話を聞かれると予想していたが、それに反して匂いで幻覚剤を吸っていることがバレてしまう。焦るアイシャに追い打ちをかけるように、コニーではなくまるでスカーレットがそこにいるかのような不思議な感覚が襲ってくる。そうしてアイシャは10年前に自身が行ったこと、つまり憧れのスカーレットとエンリケ殿下が婚約破棄されないために、セシリアの屋敷の水瓶に従姉妹から盗んだ気付け薬を仕込んだ事実を告白するのだった。しかし、スカーレットのためと思ってしたことは全て自分のためにやったことだとアイシャは気付かされてしまう。胸に忍ばせていた護身用のナイフで自殺を図ろうとするが、コニーがそれを阻止し罪を償うべきであると諭す。その後アイシャは気絶してしまい、コニーたちはハクスリー邸を後にする。アイシャへの怒りを露わにするスカーレットだったが、私こそアイシャを許せないというコニー。スカーレットの処刑の謎が残っているからと、改めて彼女の復讐に付き合うと宣言するのだった。

『エリスの聖杯』の登場人物・キャラクター

主人公

コンスタンス・グレイル

コンスタンス

子爵令嬢。誠実がモットーの16歳。榛(はしばみ)の髪と若草色の瞳の少女。愛称はコニー。地味でさえなくてパッとしない見た目。小宮殿の夜会で婚約者に浮気されたうえに泥棒に仕立て上げられて泣きそうになっているところをスカーレットの亡霊に助けられる。成り行きで彼女の復讐に付き合わされる羽目になる。

スカーレット・カスティエル

スカーレット

享年16歳、四大貴族の一つであり絶大な権力を持つカスティエル公爵家の令嬢。生前はどんな振る舞いをしても許されており、その美しさから社交界の至宝とされていたが同時に悪女だと評判だった。一度見たもの、聞いたことは忘れない抜群の記憶力を持つ。エンリケ王子の婚約者だったが、10年前にエンリケと急速に仲を深めた当時子爵令嬢のセシリア王太子妃の暗殺未遂でサンマルク広場で斬首刑に処された。小宮殿の夜会で亡霊となってコンスタンスの前に現れる。「自分を処刑に追い込んだ不届き者たちに復讐するため」にコンスタンスに命令する。傲慢な性格で誰かを呼ぶときは大抵「お前」と呼ぶ。

コンスタンス関係者

南奈緒
南奈緒
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