レッドベリルにさよなら(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『レッドベリルにさよなら』とは、みちのくアタミによるボーイズラブ漫画作品。舞台は高度成長期の日本。小林昭彦(こばやしあきひこ)は、天涯孤独な身の上で生きるのが嫌になっていた。事故で危うく死にかけた昭彦は、津田和重(つだかずしげ)に命を救われる。和重は不老不死の吸血鬼だった。昭彦は和重の世話を焼くようになり、次第に惹かれていく。人間と吸血鬼のまま、共に生きていくことは出来るのか。大切に想っている相手を置いて逝くことができるのか。限りある命の人間とは相容れない吸血鬼と人間との恋愛を描く。

『レッドベリルにさよなら』の概要

『レッドベリルにさよなら』とは、みちのくアタミによるボーイズラブ漫画作品。
雑誌ダリアに2016年10月~2019年2月に連載された。出版社はフロンティアワークス。レーベルはダリアコミックスe。みちのくアタミ氏の作品傾向は、恋愛関係は甘く、性描写は強め。美しい絵柄が好評。本作では3巻から絵のタッチが少し変わったとも言われている。天涯孤独な身の上で施設育ちの小林昭彦(こばやしあきひこ)は、幼い頃から「いらない子」と周囲の子どもたちに言われ、寂しく育ったが、辛くても笑顔で乗り越えてきた。しかし、どれほど頑張っても理解してもらえず、必要とされないと孤独に押しつぶされそうになっていたとき、工事現場の落下物によって危うく死にそうになる。そのとき、昭彦を助けてくれたのが、津田和重(つだかずしげ)だった。和重は身体に工事現場の鉄材が刺さっても死ななかった。和重は江戸時代から生きている吸血鬼だった。昭彦は、命の恩人である和重にお礼をしようと和重のアパートの部屋に通ううち、和重に惹かれるようになる。昭彦と和重は、互いを想うようになるが、不老不死である和重は、愛する者に先立たれる悲しみに耐えることが嫌で昭彦を遠ざけようとする。不死なのに死を望んでいる吸血鬼の和重と、誰にも必要とされず、自分の価値が見いだせずにいた昭彦との恋愛が描かれる。人間界にはなじめず化け物扱いされる吸血鬼である和重と、親も兄弟もいない孤独な昭彦の身の上は、決して明るくはない。そのため、ストーリーはシリアスだが、全体的な雰囲気は殺伐としておらず、ギャグを交えたふんわりしたムードで展開する。

『レッドベリルにさよなら』のあらすじ・ストーリー

昭彦と和重の出会いから、ふたりが互いの想いに気付くまで

小林昭彦は幼い頃から施設育ちで天涯孤独な身の上。子どもの頃は、周囲の子どもから「いらない子」だから親に捨てられたといじめられ、孤独に育った。しかし、所属していた施設の園長先生から、辛くなったときは笑うようにと言われ、いつか自分を必要としてくれる人に出会えると慰められ、その言葉を胸に生きた。高校卒業後は、キャバレーでの仕事に就き、真面目な職務態度が認められていた。ところが、それをやっかんだ仲間の店員たちに大勢で殴られ、もめ事を起こしたとして店を解雇された。昭彦は自分の存在価値を信じられなくなり、必要とされない寂しさに押しつぶされ、人生を投げ出しそうな気持ちになった。そんなとき、通りかかった工事現場の鉄材が落ちてきて、危うく死にそうになった。そのときに昭彦を突き飛ばして、落下する鉄材から助けてくれたのが、津田和重だった。和重は昭彦の代わりに鉄材の下敷きになり、そのうち1本の鉄材が身体に突き刺さっていたが死ななかった。和重は、人間の血液を吸って生きる不老不死の吸血鬼だった。昭彦は自分が生き延びたことを和重が喜んでくれたことで、生きていくことが楽になったと感じた。昭彦は、和重にお礼をしたいと言うが、和重はそれなら自分を殺してくれと言う。和重は、これまでに様々な方法で自殺を試みたが、どうしても死ねなかったことを昭彦に話す。和重は、妻や娘や友人など、自分の大切な人たちが先に死んでいくことが耐えられなくなっていた。

将門(まさかど)が和重を見つけて会いに来てから

昭彦は、和重の部屋に通って世話をするうちに、和重に惹かれていることに気がついた。和重のほうも、人間としての食事は必要もないのに昭彦が作った食事を食べ、風邪を引いたと聞けば気にするようになる。いっぽう、街を歩いていた昭彦とすれ違った、吸血鬼の将門(まさかど)は、昭彦から漂ってきた匂いで、かつて自分が血を吸って吸血鬼にした和重が昭彦の身辺にいることに気づいた。
和重が初めて将門に出会ったのは、半世紀以上も前のことだった。将門は、ある日突然、和重の家の軒先に瀕死の状態でやってきた。将門から「お前に血をもらえなかったら死ぬ」と言われ、和重は逆らえずに血を吸われた。吸血鬼に変えられてしまった和重は、血を見て喉の渇きを覚える自分に戸惑ったが、隠れて鶏の血を飲んで飢えをしのいだ。将門からは、食事の仕方や吸血鬼としての生き方を教えるからついてくるようにと言われたが、和重は拒否して家族のもとに留まった。
将門は昭彦の後をつけて、和重の住む部屋に辿り着く。和重は、突然訪ねてきた将門に、いい餌を手に入れたじゃないかと言われ、怒って将門を追い返す。しかし、将門は再び和重の前に現れ、昭彦を吸血鬼に変えて仲間にすれば、寂しい思いをせずに済むと言って説得しようとする。ついには、将門は包丁で和重の首を切りつけて重傷を負わせ、大量の血が必要になるように仕向ける。昭彦も、和重の助けになるなら構わないと言うが、それでも和重は昭彦の血を吸おうとはしなかった。和重にとって、将門はこの世で一番憎い相手だと言い、将門とは関わるなと昭彦に言う。それを聞いた昭彦は、ある意味で和重にとって特別な存在である将門に嫉妬を覚え、想いが抑えられなくなって和重を押し倒して、口づける。
和重は口づけを嫌がったわけではと言いながら、昭彦に対して怒りをぶつける。

昭彦と和重の想いが通じ合い、二人は共に生きていくと決心する

和重が怒った理由がわからなかった昭彦は、昭彦が身を差し出して和重を救おうとしたことを怒ったとわかって愕然とする。和重は化け物(吸血鬼)になって怖がられ、愛する人に先立たれる身の上が辛く、自分以外に同じ思いをさせたくないと思っていた。昭彦は、それでも和重を失うのだけは嫌だと、自分の恋心を和重に伝えた。和重は、昭彦の自分への熱烈な想いに押し切られるようにして、心を開く。和重は、昭彦と過ごす時間を心地よく思い始めていたが、長い間避けていた、人との絆が生じているのに気付き、また失うことを恐れて、もう昭彦には会わないと告げる。和重は昭彦に、一緒に幸せになりたいから覚悟を決めてくれと説得され、二人は身体の関係を持つ。
和重と昭彦が恋人同士になったらしいことを、将門はいつも共に行動している半吸血鬼の師夏(もろなつ)から聞いて知っていた。和重を吸血鬼にしたときから、将門は、いつか和重が吸血鬼としての本能に負けて、理性を保てなくなる日が来ると思い、様子を伺ってきた。和重は、かつて吸血鬼になった後、将門からの誘いを退け、家族に打ち明けて、家族と暮らすことを選んだ。そのため、やがて妻と娘が先立つのを見送ることになったのだった。将門は、再び、和重と昭彦のもとを訪れ、和重を残して先に逝けるのかと昭彦に言う。

昭彦の大怪我、そしてふたりの最後の決断まで

昭彦は、吸血鬼にはならないという和重の望む形でそばにいると決意したつもりでいたが、将門の言葉が気にかかり、和重に隠れて一人で将門に会いに行く。将門は、和重の代わりに自分が吸血鬼にしてやると昭彦に提案するが、昭彦は断る。昭彦は、将門に会いに行ったことが和重に知られ、責められるが、吸血鬼にしてもらうつもりはないと話して、互いに理解し合う。少しでも長く一緒にいられるようにと昭彦は思う。いっぽうの和重は、昭彦には和重と一緒にいるよりも、もっと普通の幸せが似合うのではないかと悩んだ。
昭彦は、急須を落として怪我をして出血した際、和重が過剰に反応したのを見て、和重がしばらくの間、血液を摂取していないことを知る。市場の関係で血液パックが届くのが遅れているためだった。昭彦は、和重に黙って、夜の間にもぐりの医師に血を抜いてもらいに行く。そのあいだ、昭彦が夜中にいないことに気づいた和重は、昭彦の不在を心配して、部屋まで探しに行く。そして、昭彦の部屋で、将門の家の電話番号を見つけて、昭彦は将門の所へ行ったと考える。実際は、将門の所へは昭彦は行っていなかったが、将門は返事をぼやかし、自分が所有するビルの屋上に、和重を呼びよせる。ギリギリまで採血してふらついている昭彦は、師夏から聞いて、和重と将門が会っているビルの屋上へ行く。

遠い昔、将門に会って半吸血鬼になる前、師夏は長崎の出島に住んでいた。師夏の母親、紫乃(しの)は芸者で、仕事で長崎に滞在していた外国人、乙名(おとな)の妾だった。乙名は、本国へ帰国が決まったとき、船荷に隠して密かに紫乃と師夏を日本から出国させようと考えたが、見つかってしまった。紫乃と師夏は、引き離されて牢獄に入れられた。師夏は牢獄で囚人たちに乱暴されそうになったが、女に頼まれて殺した罪で同じ牢獄に入ってきた将門に助けられた。将門と共に牢獄から逃げ出した師夏は、母親の紫乃も連れて出たいと言って紫乃のいるはずの牢獄に行くが、紫乃は囚人の男たちに乱暴された後、首をつって死んでいた。将門は、師夏を屋敷に連れ帰るが、師夏は母親の死を嘆いて首を切って自害しようとした。そこで将門は師夏の血を吸って、師夏を半吸血鬼に変えたのだった。

昭彦と師夏が、和重と将門が会っているビルの屋上へ行くと、二人は言い争っていた。そのとき、将門を宥めようとする師夏が首に巻いていたマフラーが風で飛んでいき、それを取ろうとした師夏がビルの屋上から落ちそうになる。昭彦は、師夏を助けようと師夏の手を掴むが、貧血気味で支えられず、二人とも屋上から落下した。師夏は昭彦にかばわれて無事だったが、昭彦自身は見るからに重傷で助かりそうになかった。まだ息がある昭彦を見て、吸血鬼にすることで助けようとする将門を阻み、和重が昭彦の血を飲んで吸血鬼にしようとする。傷も塞がったはずだが、昭彦はまだ反応しない。和重は昭彦を抱きしめて泣く。
(場面変わって2017年へ――冒頭の、和重が小林家の墓参りをしている場面に戻る)和重は、墓参りから自宅のマンションへ帰る。マンションには、デイトレーダーらしき仕事をしている昭彦がいる。人としての昭彦は死んだが、吸血鬼として和重と暮らしている。

『レッドベリルにさよなら』の登場人物・キャラクター

小林昭彦(こばやしあきひこ)

天涯孤独で、孤児院で育つ。18歳。身長180cm。キャバレーで働いていたが、首になり、洋食屋で働くようになる。人当たりが良く、言葉遣いも丁寧で、年齢よりも大人びた印象。家事が得意。辛いときには笑顔で乗り越えてきた。

津田和重(つだかずしげ)

江戸後期生まれの吸血鬼。見た目の年齢は24歳前後。身長176cm。血液製剤は裏ルートで高額なものを買っている。日中は視力が低下するため、眼鏡をかけることがある。吸血鬼であることを良いとは思っておらず、人間から直接、血液を飲むことを嫌い、パック入りの血液製剤で血液を摂取している。

将門(まさかど)

見た目の年齢は28~30歳の吸血鬼。和重を吸血鬼にした張本人であり、和重から疎まれている。和重よりもずっと長く生きているため、吸血鬼としての生き方に納得しており、余裕がある。餌として師夏を側に置いている。生きていくのが退屈なため、日々の暮らしの中で刺激や楽しみを求めている。

師夏(もろなつ)

見た目の年齢は14歳の半吸血鬼。人間の食べ物で生きていくことができる。歳は取らず、傷の治りも早いが、不死ではない。半吸血鬼にされた当初は、死なせてくれなかったと将門のことを恨んでいた。

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