ヴァイオレット・エヴァーガーデン / Violet Evergarden

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』とは、2015年から刊行された暁佳奈原作の小説である。2018年に京都アニメーション制作でアニメ化、2019年・2020年に映画化された。原作小説は、京都アニメーション大賞初の大賞受賞作品である。
代筆業を生業とする「自動手記人形」である主人公が、依頼を通じて失った感情を取り戻しながら、大切な人から告げられた言葉の意味を探していく物語。
アニメ化・映画化の際はアニメオリジナルキャラクターやストーリーが多数採用されている。
2020年の劇場版は京都アニメーション放火殺人事件とコロナ禍の影響で2度の延期となるも無事公開され、興行収入は21億3000万円。
「京アニクオリティ」と称される程の映像美にファンも多く、英語・スペイン語・フランス語・ブラジルポルトガル語でも吹替翻訳されている。

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ヴァイオレット・エヴァーガーデン / Violet Evergarden
10

誰もが心揺さぶられるエピソードと映像美満載の圧巻アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

日本屈指のアニメ制作会社、京都アニメーションが誇る名作『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。原作小説も大人気だが、アニメ版はテレビ放送だけに留まらず、2作品の映画も制作され、ファンを熱狂させた。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、その名をもつ1人の少女の成長を描いたファンタジー作品だ。ヴァイオレットは大規模な戦争を「戦闘人形」と評されるほどの圧倒的な戦闘力で生き抜いた少女だが、人形と言われるとおり、感情表現の乏しい女の子だった。
そんな彼女は、戦場で育ての親である大切な上官を失う。紆余曲折の末、その上官の友人で退役後に郵便会社の社長となったホッジンズのもとに引き取られる。
この作品世界にはまだ電話がなく、主な連絡手段は手紙だった。しかし、文字の読み書きが不自由な人も多く、手紙の代筆を行うのも郵便会社の大切な務めだ。ヴァイオレットは戦争で失った両腕を義手にして、その代筆業務を行う「自動手記人形」と呼ばれる職に就く。しかし、もとが「戦闘人形」だった彼女には、依頼主の心情を汲み取り、心のこもった手紙を書くことはなかなかできなかった。特に、大切な上官から言われたことのある「愛してる」がさっぱり分からないのだ。ヴァイオレットは愛を伝える手紙が苦手だった。
だが、たくさんの依頼主との交流と、ひとの心の機微に触れながら、ヴァイオレットは自分のなかにも豊かな感情があることに気付いてゆく。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、文字どおりヴァイオレットが主人公なのは間違いないが、毎話登場する手紙の依頼主たちもそれぞれ重要なキーマンだ。ときには素直になれない男女の仲を取り持ち、ときには余命わずかな母から娘への想いを数十年ぶん書き綴る。「自動手記人形」としての経験が、ヴァイオレットの中にあった感情を揺さぶると同時に、視聴者も心動かされずにはいられないだろう。たくさんのエピソードがあるので、大切なひとがいる人、夢を追いかけている人、身近なひとを失った人、いずれの視聴者にもどれか心に刺さるエピソードがあるはずだ。
また、その感動的なストーリーを描く、圧巻の映像美にも注目したい。ヴァイオレットの心が揺れるとき、同じく瞳も揺れる様子は、まさに「目は口ほどにものを言う」だ。泣き出しそうなとき噛みしめる唇が震えるのも、動揺したとき微かに握りしめられる指先も、どれも繊細な描写だが、よく心情表現ができている。
また、風の描写も素晴らしいのだ。ヴァイオレットの心が弾むのにあわせ、緑豊かな木々が風に吹かれる。心のざわつきに合わせ、背中から追い風が大きく吹き、その苦しげな顔を髪が覆い隠す。ただ美しいだけの映像でなく、ほんの些細な描写にも意味をもたせる、妥協のない演出だ。
テレビ版は13話あるが、まずは映像美を堪能するもよし、じっくり世界観に没入するもよし。どのような楽しみ方をしても、もう1度はじめから観たくなるに違いない。そのあとは自然と映画版にも手が伸びてしまうだろう。
ぜひ、ヴァイオレットと共に「愛してる」を探す旅に出てみてはいかがだろうか。
その際はお手元にティッシュの用意を忘れずに。