新九郎、奔る!

rb46-yz8のレビュー・評価・感想

レビューを書く
新九郎、奔る!
9

新しい視点で描かれる北条家の始まり

戦国時代のさきがけとして知られる北条早雲の物語です。
この漫画が画期的なのは、時代物特有の面倒な役職表記や複数ある人物名の表記の仕方です。
たとえば主人公である新九郎の父は伊勢備前守盛定(いせびぜんのかみもりさだ)ですが、このままでは読者には長すぎて覚えられません。なので、この漫画では伊勢備前守と書いてふりがなで「いせもりさだ」と表記しています。また、単に備前守とかいて「もりさだ」と読ませたりもします。こうやって、苗字と役職名と名前を視覚的にリンクさせてくれます。そのおかげであまり混乱もなくストーリーにすっと入っていけます。日本語の多重性を利用したこの表記の仕方に驚きました。
肝心のストーリーも、さすが歴戦のゆうきまさみ先生で、面白いギャグシーンも入れつつ、決めるべき歴史的な流れはきっちり抑えてくれています。
通称・北条早雲といわれる伊勢宗瑞は、今までは伝説的な逸話などが多いのですが、今作では最新の研究に基づいて構成されています。なので、本当の伊勢宗瑞像により近い話が読めると思います。
かといって堅苦しい話が続くわけでもない、主人公である新九郎の活躍や、若いながらも熟慮を重ねる努力家の一面に、思わず応援したくなる魅力を感じます。姉の伊都や近寄りがたい雰囲気の父の本妻須磨など、登場人物がどれも生き生きとして、すぐにでも先を読みたくなる面白さです。
よく大河で取り上げられるような華々しい戦国時代の夜明けである、応仁の乱あたりの歴史を、わかりやすくかつ魅力的に知ることのできる良い漫画です。