新九郎、奔る!

新九郎、奔る!のレビュー・評価・感想

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新九郎、奔る!
9

新しい視点で描かれる北条家の始まり

戦国時代のさきがけとして知られる北条早雲の物語です。
この漫画が画期的なのは、時代物特有の面倒な役職表記や複数ある人物名の表記の仕方です。
たとえば主人公である新九郎の父は伊勢備前守盛定(いせびぜんのかみもりさだ)ですが、このままでは読者には長すぎて覚えられません。なので、この漫画では伊勢備前守と書いてふりがなで「いせもりさだ」と表記しています。また、単に備前守とかいて「もりさだ」と読ませたりもします。こうやって、苗字と役職名と名前を視覚的にリンクさせてくれます。そのおかげであまり混乱もなくストーリーにすっと入っていけます。日本語の多重性を利用したこの表記の仕方に驚きました。
肝心のストーリーも、さすが歴戦のゆうきまさみ先生で、面白いギャグシーンも入れつつ、決めるべき歴史的な流れはきっちり抑えてくれています。
通称・北条早雲といわれる伊勢宗瑞は、今までは伝説的な逸話などが多いのですが、今作では最新の研究に基づいて構成されています。なので、本当の伊勢宗瑞像により近い話が読めると思います。
かといって堅苦しい話が続くわけでもない、主人公である新九郎の活躍や、若いながらも熟慮を重ねる努力家の一面に、思わず応援したくなる魅力を感じます。姉の伊都や近寄りがたい雰囲気の父の本妻須磨など、登場人物がどれも生き生きとして、すぐにでも先を読みたくなる面白さです。
よく大河で取り上げられるような華々しい戦国時代の夜明けである、応仁の乱あたりの歴史を、わかりやすくかつ魅力的に知ることのできる良い漫画です。

新九郎、奔る!
7

北条早雲をぜひ大河に。

2019年6月現在、単行本で2巻まででています。

「パトレイバー」や「じゃじゃ馬グルーミンUP」のゆうきまさみ氏がえがく歴史大河漫画。

今まで題材としてあまり使われることがなかった、北条早雲。いわば戦国下克上の先駆けとなる人物にスポットを当てた漫画。

少年時代は室町幕府のお偉いさんのお家柄というところで、1467年に京都を舞台に起きた応仁の乱にもしっかりスポットがあたっていることから歴史の勉強にもうってつけです。

応仁の乱の中身事態が、単純な将軍跡継ぎ問題というわけではなく、いろんな権力闘争がまざり、誰が敵で誰が味方だったかがかなりぐっちゃぐちゃなのでコミカルにストーリー展開されることで面白わかりやすく把握できるのではないかと感じました。

まだまだ途中だけど…。

人物のかき分けもしっかりされているし、キャラクターもそれぞれ特徴もってかき分けてくれているので、今のところ読みやすくわかりやすいです。今後の展開に関してもある程度歴史をかじっている人には少しわかるような伏線が張られていたりするので、それがどういった形で回収されていくのかを読んでいく楽しみもあります。

漫画で読んでて、北条早雲って人の生涯はかなりイベント目白押しなんだから、いい加減大河ドラマになってもいいと思うんだけどなぁと。

単行本だと出版スパンが少々長目なのが少し残念。

新九郎、奔る!
10

パトレイバーのゆうきまさみが送る新感覚の戦国歴史漫画

伊勢新九郎盛時――またの名を、北条早雲。
戦国大名の先駆けと言われた男の生涯を描いた大河歴史漫画です。

物語は応仁の乱直前の京都から始まります。新九郎の生まれた『伊勢家』は代々足利幕府の高官を務める家柄で、新九郎の伯父・伊勢貞親は権謀術数を用いる腹黒オヤジっぷりを発揮します。また新九郎の父・伊勢盛定は伊勢貞親の手足となって謀略の片棒を担いでいますが、貞親と違ってどこか抜けてて憎めない人物として描かれています。

そんな父と伯父の元で、権力にまつわる汚い面を目の当たりにしながらも新九郎は真っすぐに育ちますが、やがて新九郎自身も足利将軍家にまつわる様々な権力闘争に否応なしに巻き込まれていきます。
世の中の汚さや不条理に悔しい思いを噛みしめながらも、家臣や郎党と言った仲間と力を合わせて難局を乗り切ろうとする新九郎の姿に強く引き込まれていきます。

歴史の表に現れない暗闘を描きながらも、ゆうきまさみの独特なタッチと軽快なコメディ構成のおかげでとても読みやすくなっています。
歴史を題材にした漫画はあまり詳しくない人には馴染みにくい物ですが、現代風の言葉遣いと、随所に散りばめられたブラックジョークのおかげで思わずクスリと笑わされてしまいます。
また、「盛定スクリーン」という解説パートが非常に分かりやすく、歴史に詳しくない人でも充分に理解できるように配慮されています。

足利義政、山名宗全、細川勝元など、歴史の教科書で見た覚えのある人物がそれぞれ個性的で魅力的に描かれており、歴史ファンならずとも一気読みしてしまうこと請け合いです。
しかも、最新の歴史研究によって提唱された新説をふんだんに採用しており、読んでいるだけで歴史ファンも思わず唸ってしまうほど知識が身につきます。

戦乱の時代に翻弄されて自分の無力さに涙する伊勢新九郎が、どのようにして北条早雲へと成長していくのか。
その先を見届けたくなる作品です。