獣王星(漫画・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『獣王星』とは1993年から2003年にかけて樹なつみが『LaLa』『メロディ』で連載した長編サバイバルSF漫画、およびそれを原作としたアニメ作品。
テラフォーミングが完了し、もう一つの星系・バルカン星系に人類が移住して太陽系との二大星系時代が到来した未来。エリート階級の暮らすコロニーで生まれ育った少年トールは両親を殺され、異形の植物が跋扈する死刑星・キマエラに追放されてしまう。真実を知るべく、トールが過酷な運命に翻弄されながらキマエラのトップ「獣王」を目指す姿を描く。

『獣王星』の概要

『獣王星』とは1993年から2003年にかけて樹なつみが『LaLa』『メロディ』で連載した長編サバイバルSF漫画、およびそれを原作としたアニメ作品である。2006年にフジテレビの「ノイタミナ」枠にて全11話でテレビアニメが放送され、KinKi Kidsの堂本光一が主演声優を務めたことで話題になった。テレビアニメ化をきっかけにザギを主人公にした特別編『DEATH GAME』が『メロディ』5・6月号に掲載された。
物語はトールがキマエラに落とされ四つの集団「輪(リング)」の一つ「茶・輪(オークル・リング)」の頭(トップ)となるまでを描いた11歳編を第1部、トールがキマエラのトップ「獣王」となり家族の仇であるオーディンと対峙、自身の出生とバルカン星系の真実を知るまでを描いた15歳編の2部構成になっている。
惑星を地球と同じ環境に改造する技術「テラフォーミング」によって居住可能となったもう一つの星系・バルカン星系に人類が移住した未来。バルカン星系のスペースコロニー「ユノ」に暮らす少年トールは両親を殺され、弟のラーイと共に死刑星キマエラへ追放されてしまう。両親を殺害し、二人をキマエラへ追放したのはトールの父と親しかったバルカン星系の首相オーディンだった。キマエラは異形の植物が存在する過酷な自然環境を持つ惑星で、キマエラに落とされることは殺すも同然のことだった。そこで生き残るには「獣」になるしかないという環境に、はじめは「獣」になんかなりたくないと思っていたトールだったが、コロニーで暮らしていた頃の常識がまるで通用しない星に徐々に生きるために誰かを殺すことをためらわなくなる。キマエラでの過酷な日々を送る中弟を失ったトールは、キマエラの住民である少女ティズと青年サードに助けられ、彼らの仲間に加わることになる。
何故両親は殺されなくてはならなかったのか、オーディンの目的は一体何なのか、トールは真実を知るべくキマエラのトップ「獣王」を目指すことを決意する。
始めは家族の仇を取るため、様々な仲間達との出会いや闘いを経て「獣王」となる道を歩むトールだったが、物語が進むにつれてだんだんバルカン星系や惑星キマエラの抱える秘密がトールの運命と関わってくるようになり、終盤には驚愕の事実が明かされ、トールはキマエラだけでなくバルカン星系の運命を背負う存在になっていく。
様々な魅力溢れるキャラクター、惑星キマエラの過酷な自然環境、トールに襲いかかる過酷な運命。何もかも失いながらも前へ前へ進むトールの姿は、生きる勇気を与えてくれる。

『獣王星』のあらすじ・ストーリー

キマエラへの追放

地球から150光年彼方に存在する恒星バルカンを中心とする「バルカン星系」は、地球と同じ環境に改造する技術「テラフォーミング」によって人類が住めるようになった。
主人公トールはある日弟のラーイと共に家に戻ると、両親が殺害されているのを発見する。そこへバルカン連邦軍の特殊部隊が現れ、二人は麻酔ガスで眠らされシャトルに乗せられる。

シャトルの脱出ポッドで目覚めたトールは、ポッドの声にこれから「キマエラ」という惑星に追放されることを告げられる。さらに声は両親を殺害したのはバルカン連邦の首相オーディンであること、そして「生き残りたければキマエラのトップ・獣王になれ」と告げる。
ポッドから脱出したトールとラーイはキマエラの海や砂漠を抜け、肌の色で区別された四つのテリトリーの一つ「茶・輪(オークル・リング)」の支配する街にたどり着く。しかし出会った男達に売り飛ばされそうになり、逃げた先のキマエラの森で浮浪の子供・野童(やどう)達と暮らす少年ザギに助けられる。

二人は野童の集団で暮らすことになるが、気の弱いラーイは野童達から暴力をふるわれる。トールはザギから生き残りたいなら弟を捨てるよう忠告を受ける。唯一の肉親である弟を見捨てられないトールは、弟を連れて野童の集団から抜ける。しかし生き残るためにトールは殺人をするようになり、足を引っ張ってばかりのラーイに対しストレスを溜めるようになる。知らない間に「茶・輪」の領域に足を踏み入れていた二人は、大人達に捕まりそうになる。トールは大人達を攻撃し、その隙に逃げ出すも体力が限界を超えて倒れてしまう。そこへ女性のみの集団「黄・輪・女(サン・リング・フィメール)」の代理の頭(トップ)・ティズが現れてトールを助ける。

「茶・輪」の砦で目を覚ましたトールは、青年サードと出会う。弟が無事逃げたことをサードから聞かされて一旦は安心するトールだったが、頭に処刑されることを不安に思う。そのことについて、サードから「ティズがトールを『夫』に指名したため処刑は免れた」と告げられる。驚いたトールは「自分の運命は自分で決める」とサードの元を飛び出す。しかし、トールは初めて見る砦の中で迷ってしまい「茶・輪」のメンバーに絡まれる。そこへティズが現れてトールを庇うも、トールは彼女を突っぱねる。

弟を探すため外へ出たトールは、砦周辺に広がる巨大樹ムーサの腐葉土が積もった沼にはまってしまう。そこへ、自身を侮辱されたことで頭に血が上っていたティズが彼を追いかけてきて彼女と諍いになる。すると砦の前に広がるムーサの沼に異変が起こり、まだ小さい芽でしか無かったムーサ達が一斉に成長していく「発芽」が始まり、二人は巻き込まれてしまう。トールはティズの腕を掴み、何とかムーサにしがみついていた所へエアバイクに乗ったサードに助けられる。トールに命を救われた恩から、ティズはトールの下につくことを決意する。
傷が癒えたトールは、ラーイの身を案じ探しに向かう。そこで「白・輪(ブラン・リング)」へ向かう途中のザギと再会し、彼からラーイが死んだことを聞かされる。トールは弟を見捨てた後悔に苛まれるも、家族の仇を取るためオーディンへの復讐を誓うのだった。

ティズから元バルカン星系の住民だったコリンの話を聞いたトールは、彼に会いに行くことにする。二人はコリンのもとへ向かう途中、迷い込んだ果実種の森で「黄・輪・女」の頭チェンと出会う。チェンはティズの離反に立腹しており、連れ戻しに来たのだった。だがそこへ凶暴な植物カリプトの根が襲ってきたため、トールはティズを連れてその場を逃げる。何とか森の奥へ逃げた二人だったが、そこへチェンが現れる。ティズを守るためトールはチェンと勝負することになり、彼女に勝利する。チェンは負けを認めるが、彼女の負けを認めない部下がトールへ銃を向けようとする。しかしそこへ振動に反応するベラ・ソナーがトール達を襲い、トールはチェンと協力してベラ・ソナーを倒す。

その後、トールはコリンの暮らす洞窟を訪れる。コリンは10年前オーディン暗殺計画に巻き込まれ、キマエラへ追放された人物だった。コリンはトールにオーディンに地球連邦との不穏な噂があることを話す。キマエラは政治犯の刑場ではないかとコリンは考えており、トールの両親が殺害されたのも、何らかの理由でオーディンの逆鱗に触れたからではないかと推測を語る。トールはオーディンが周囲の人間達から多くの恨みを買っていたこと、父親について何も知らなかったことに気付かされ、自身の無力さを痛感する。

挑戦(トライ)

元々自身より周囲に人望のあるサードに嫉妬していた「茶・輪」の頭は、宴会でサードに言いがかりを付ける。サードに嫉妬をぶつける頭の態度にトールは怒りを表し、「あんたに頭がつとまるくらいなら僕にもできる」と怒鳴る。これを見たサードが「挑戦(トライ)だ」と周囲に宣言する。その宣言に戸惑うトールだったが、自分を見て笑みを浮かべるサードに嵌められたことに気づく。

サードに嵌められたトールは彼に抗議する。サードは「自分はトールを頭として選んだのだ」と自身の過去を話す。サードはかつてオーディン暗殺事件に関わったことで仲間達と共に極寒の夜のキマエラへ追放され、一人だけ生き残った壮絶な過去があった。さらにサードは暗殺事件にトールの父クライン博士が関わっていたことをトールに告げる。

次の日、トールと頭による挑戦の試合が始まる。チェンと違いパワーのある頭の攻撃にトールは徐々に追い詰められ、右肩を負傷するもサードのサポートで遂に頭を倒す。
新しい頭の誕生に砦内が沸き上がる中、トールは体力が限界を超えて倒れてしまう。出血が酷いトールは生死を彷徨い、ティズもサードも必死に看病する。生死を彷徨う中、ラーイの夢を見たトールは彼を追いかけるうちにティズの呼び声で目を覚ます。目を覚ましたトールを見て安堵と喜びの表情を浮かべるティズとサードに、トールはキマエラに追放されてから初めて希望を抱くのだった。

キマエラの秘密

月日が流れ15歳になったトールは「茶・輪」の発展に力を注ぎ、「銀鷹(シルヴァーク)のトール」と呼ばれ周囲からも一目置かれていた。ある夜、砦に「夜・輪(ナイト・リング)」の伝令が駆け込んでくる。「夜・輪」は最近勢力を伸ばしつつある「白・輪」の襲撃を受け頭は死亡、「黒・輪・女」も傘下に入るという壊滅状態になっていた。「白・輪」の現在の頭は残虐にして冷酷無比な性格から「白狼鬼(ブラン・ロウ)」と呼ばれ恐れられていた。白狼鬼対策のため「黄・輪」の頭ユウキの元を訪れたトールは、共同戦線を張ることにする。

「黄・輪」のテリトリーを白狼鬼率いる「白・輪」が襲撃してくる。頭同士の戦いでユウキの攻撃を交わした白狼鬼は隠し持っていた仕込み剣でユウキを倒し、さらに「黄・輪・女」の頭であるチェンを始末しようとする。間一髪で間に入ったトールは白狼鬼を非難するが、自身の名前を呼ぶ白狼鬼に驚く。その正体はなんとザギだった。ザギは「刃・塔(ダガー・パゴダ)で伝えたい話がある」と告げるといったんその場を去る。

指定された先の「刃・塔」でトールはザギから、獣王の秘密を聞かされる。ザギはキマエラへ追放される前にいたヘカテの研究所で、冷凍保存処置を施され眠りについている歴代の獣王達を目撃していた。獣王の指令も実はバルカン連邦が下しているもので、「獣王とは獣同士で共食いさせるための餌のような存在で、はじめから獣王など存在していない」とザギは告げる。キマエラは無法の死刑星でありながら、管理されていたことにトールは衝撃を受ける。

ザギの目的は、バルカン連邦がキマエラや獣王を利用して何を企んでいるのかを知ることにあり、そこで独立戦争を起こしてトールをそのカリスマに仕立てようと考えていた。
そこへセカンドのカリムが現れたためいったんその場を立ち去るトールだったが、扉越しに二人の諍いを耳にする。カリムはトールのことでザギに何か訴えていたが、ザギに冷たくあしらわれ殴られる。

二人の諍いを耳にしたトールはザギを諌めるが、ザギはカリムに追放を言い渡す。カリムがザギにトールについて訴えていたのは、ザギにとって彼が「絶対」の存在だと思ったからだった。「白・輪」ではザギが「絶対」の存在で逆らった者は皆粛清されてきたため、カリムを含むメンバーは彼を恐れていた。ザギが彼にとって「絶対」の存在を作れば皆からザギへの恐怖心が消え、トールを新たな「頭」として望むかもしれないことを彼女は恐れていた。トールは「自分は頭になるつもりは無い」と答え、ザギに殴られ怪我を負ったカリムを心配するが、彼女に突っぱねられる。

ティズの元へ戻ったトールは、彼女にザギから聞いた獣王の真実と独立戦争について伝える。明かされた内容にティズは驚くも、「ザギは絶対トールのためにならない」とザギへの不安を口にする。ここでティズは、コリンから聞かされたコロニー住民の短命についてトールに話す。バルカン星系で一番環境が整っているコロニーの住民は、手術を受けなければ20歳までしか生きられないことを聞かされたトールは、自分にはあと5年しか残されていないことを知る。

トールの恋

ブリザードが激しくなる中、ティズはカリムが外にいるのを見つける。そのことを知ったトールはブリザードの中を飛び出し、カリムを探しに向かう。トールはこのままブリザードの中にいれば命を落とすと彼女を説得するも、カリムは彼を拒絶する。そこへクレバスが現れ、トールとカリムは共に「ムーサの狭間」と呼ばれる空間に落下してしまう。
ムーサの根がクッション代わりとなって一命を取り留めた二人だったが、「ムーサの狭間」は一度入り込んでしまうと生きて脱出することは不可能な場所だった。

それでも脱出を諦めないトールは狭間を調べる。このままだと死ぬしかない状況に平然としているカリムにトールが疑問をぶつけると、「白・輪にもう戻れない以上、生きるしかできない」とカリムは答える。
野童だった頃、自分の目標を持ち歩むザギの姿に惹かれたカリムは彼についていく道を選んだ。ザギを慕っていたカリムだったが、トールが現れたことで自分が不要になったと憎しみをぶつける。トールはカリムに「ザギは自分を道具としか見ていない」と告げ、「下らない嫉妬からの八つ当たりは辞めろ」と叱咤する。トールの叱咤に頭を冷やしたカリムは、彼への態度を和らげる。
その後、ムーサの狭間を彷徨う中カリムとトールは互いについて打ち明け、急速に惹かれあっていく。トールはカリムに「茶・輪」へ来ないかと誘い、プロポーズする。

その後、地上へやっと脱出することができたトールとカリムは捜索中だったティズ達と再会する。トールはティズに、カリムを「茶・輪」へ引き取り彼女と結婚することを打ち明ける。トールに元々好意を寄せ、彼の子供を産みたいと思っていたティズは「トールの子供を産むのは自分だ」と訴える。しかし、トールから「妹のように思っているから指名を受け入れられない」と告げられ、ティズはショックを受ける。
トールはザギに計画に乗ることを告げ、さらにカリムを自分の元へ引き取ることを伝える。ザギの計画に乗ったトールの姿にサードは疑問をぶつけてくるが、トールは「自分にはもう時間が無く、ただ真相を知りたい」と告げる。

トールの元へ向かうことを決めたカリムだったが、ザギへの想いを捨てきれずに苦悩していた。そこへザギが現れ、「自分とトール、どちらの子供を産みたいんだ」と尋ねられる。その問いにカリムは返事に窮してしまい、その様子にザギは「トールについていけ」とその場を去ってしまう。カリムはザギの後を追いかけるも何者かが現れ、ナイフで刺され命を落とす。カリムの死にショックを受けたトールは、外へ飛び出しザギをナイフで攻撃する。これを見たサードは、「獣王戦だ」と宣言する。
その場にいる者達が見守る中、遂にトールとザギによる獣王戦が幕を開ける。先にトールが攻め、ザギも剣を抜いて応戦するもトールのスピードに追いつけず、二人の戦いは徐々に拮抗する。そこへザギは奥の手である腕に隠した仕込み剣でトールを攻撃してくるが、トールは彼の攻撃を避け、遂に彼を倒す。トールは何故カリムを殺したのかとザギに問い詰めるが、ザギはカリムを殺していなかった。困惑するトールにザギは「サードを信用するな」と忠告する。

真実

ト遂に獣王となったトールは、ティズとサードと共にヘカテを訪れる。ヘカテを訪れた三人の前に、トールの母イヴァの同僚だったドーン・ロキ博士という人物が現れる。ロキ博士はトールを戦艦アズガルドへ連れて行く。一方、ティズとサードの前にヘイムダル大佐という軍人が現れ、任務完了の辞令だとサードにオーディンのサインを渡す。そのサインを見たサードは笑みを浮かべる。

戦艦アズガルドで、トールは遂に宿敵のオーディンと対峙する。オーディンはトールに彼の出生やバルカン星系の真実を話す。
バルカン星系では、人類の短命化だけでなく自然出産する力が無くなりつつあることが問題になっていた。このまま手を打たなければ60年後に人類は滅亡してしまうため、「バルカン星系の環境に適応するバルカン型人類を造る」という目的から「ミドガルド計画」が発足した。惑星キマエラに目をつけ、歴代の獣王達をバルカン型人類を造るためのDNAのサンプルとして冷凍保存した。トールの正体は、バルカン型人類を造る実験で誕生した「最後の子供(ラスト・チャイルド)」であり、クライン家とは血が繋がっていなかった。クライン夫妻はミドガルド計画に参加しており、イヴァはトールを代理出産した。ロキ博士は「獣王の遺伝子から造られたトールは、本来ならサードと同じ容姿で生まれるはずだったが、あらゆる方法を用いて生き残ろうとする本能がイヴァのDNAを読み取って彼女の姿に擬態して誕生した」と語る。イヴァはトールのことを可愛がっており、彼をキマエラへ送ることに反対したために夫と共に殺害されたのだった。
オーディンから自身の出生を聞かされたトールは、自分のためにクライン家は抹殺されたのだという残酷な真実に打ちのめされる。

オーディンはバルカン型人類を救うにはトールのDNAが必要なのだと語る。さらに、オーディンはキマエラ人の正体を話す。キマエラ人の正体は今から350年前、キマエラに移住した移民達だった。彼らの存在は忘れ去られていたが、驚異的なキマエラの自然環境に適応し、バルカン星系で唯一自然出産できるキマエラ人にユノは目を付け、遺伝子を採取するべくキマエラを優秀な遺伝子を育てる牧場として監視下に置いたのだった。
バルカン星系の現状を知ったトールは、「なぜ地球連邦に事情を話して地球へ帰らないのか」と疑問を口にする。その疑問にオーディンもロキ博士も表情が強張り、トールは彼らが何かもっと重要なことを隠していることを察する。

そこへ、一人の軍人がトール達の前に姿を現す。トールと同じプラチナブロンドの髪とブルーグレーの瞳を持つ軍人は「シグルド・ヘザー」と言い、サードの正体だった。ヘザーは幼少期に見た地球に憧れを持ち、地球へ行くためミドガルド計画に参加してトールを獣王に育てる役目を担った。さらにヘザーは、反オーディン派であるギリング元帥のもとに二重スパイとして入り込み、3年前ギリング元帥が企てたクーデターを失敗させるため、クライン博士を首謀者として仕立て上げたのだった。サードが今まで自分を欺いていた事実にトールはショックを受ける。
船室に戻ったトールは自身の出生の真実を全てティズに話す。苦しむトールを心配したティズは、コリンから聞いたパンドラの箱の話をする。ティズはトールの苦しみを理解してあげたいと告げる。トールはいつもそばにいたティズの存在の大きさに気づき、彼女に「キマエラに戻り子供を作ろう」と告白する。

一方オーディンはギリング元帥とコンタクトを取っていた。ギリング元帥は地球連邦との関係とキマエラの存在を隠している理由について問い詰めるが、オーディンはギリング元帥の妄想に過ぎないと否定する。ギリング元帥は激昂し、ヘカテのメインコンピュータ「ワルキューレ」の自転加速装置を動かしてしまう。自転加速装置が発動したら、マグニチュード10以上の地震が発生し、キマエラ人が全滅するという最悪の事態が引き起こされる。「ワルキューレ」の指令はキマエラに存在する3つのプラントに伝達され、それぞれのプラントから地核自転を恒久的に加速される「ボール」が射出されるのだが、この「ボール」が制御を失えば暴走して惑星を破壊してしまう程の威力を起こしてしまう。そうなると、「ワルキューレ」に直接中止命令を出すしか選択肢が残されていないのだった。
ここで、トールは「最後の子供」で最も死なない人間である自身が「ワルキューレ」に接触できるとヘカテへ向かうことを決意する。
トールはティズにキマエラの住民達のことを頼み、彼女に再会を約束してヘザー達と共にヘカテへ向かう。その頃、キマエラでは赤道付近に存在するプラントの「ボール」が発動したため大地震が起こる。ムーサ達がその影響で次々と倒れていき、ザギは何かがキマエラで起きようとしていることに気づく。

最後の戦い

ヘカテの研究所イオIIに突入したトール達の前に「ワルキューレ」が生物兵器として成長を促進させたカリプトやベラ・ソナーが現れる。キマエラの食肉樹に怖気つく兵士達にトールは渇を入れ、応戦し何とか退ける。
キマエラへ戻ったティズはトールからの手紙をザギへ渡し、手紙を読んだザギはキマエラの真実を知る。ティズはチェン達にキマエラの危機を伝える。しかし、避難場所となる軌道エレベーターにはその場にいる人間しか助けられないことから輪同士で諍いが起こるが、ザギは彼らを一喝する。

イオIIを進むトール達の前に蘇生された獣王達が襲撃してくる。獣王達は皆生気が無く、ただ反応して襲ってくる姿にトールは戦慄する。トールは、獣王達の蘇生を阻止するため冷凍装置を破壊していく。
そこへ宇宙空間の立体映像が現れ、イヴァの声を借りた「ワルキューレ」の声が響く。「ワルキューレ」は、バルカン連邦がずっと伏せていた真実を告げる。
それは今から130年前、巨大隕石の直撃で地球は宇宙から消滅してしまったという衝撃の事実だった。これ以上の絶望をバルカン星系の住民達に植え付けたくないとバルカン連邦は「地球がもう存在しない」という事実を長年公表できずにいた。オーディンがミドガルド計画を進めたのも、人類の消滅を防ぐためだったのだ。
「ワルキューレ」の明かした真実に、ヘザーはオーディンにずっと騙されていただけでなく憧れていた地球がもう存在しないことに絶望する。ヘザーに自分の姿を重ねたトールは、「自分で選んだ人生の決着くらい自分でつけろ」と彼を叱咤する。

そして「ワルキューレ」に辿り着いたトール達だったが、ギリング元帥によりパスワードが消去されていたためアクセス拒否を起こす。このままだとキマエラの壊滅は免れないことから、トールは「ワルキューレ」を破壊しようとする。しかし、「ワルキューレ」はヘカテの全エネルギーを賄うカノン動力炉と直結しており、破壊すれば動力炉が暴走し緊急シールドがロックして脱出できなくなるという弱点があった。そこへヘザーが「点検用ハシゴを登り、屋上にある緊急用ヘリポートで脱出できる」と提案し、「ワルキューレ」を破壊する。

その頃、戦艦アズガルドでキマエラの様子を見守っていたオーディン達は、画面で発芽時以外成長しないはずのムーサが一斉に根を広げ、まるで意志を持っているかのように根を「ボール」まで伸ばしていく現象を見る。
キマエラでは軌道エレベーターに次々と住民達が避難していき、「ボール」による地震が発生していた。住民達を誘導するティズとザギに「夜・輪」の住民がザギを襲撃し、庇ったティズは銃弾を浴びてしまう。そこへ地割れが発生し、ザギはティズと共に裂け目へ落下する。
イオIIでは「ワルキューレ」の破壊で誘爆が発生しベラ・ソナーが現れ、ロキ博士はトール達を逃がすために囮となる。
戦艦アズガルドにいたオーディン達は、ムーサが「ボール」を根で絡め食い止める光景を目の当たりにする。地割れにより「ムーサの狭間」に落下したザギはティズの下へ駆け寄るも、ティズはザギの腕の中で息を引き取る。

トールとヘザーは屋上へ続く非常用出口に辿り着き、手動切換えスイッチを動かすも、階下の爆発でバランスを崩してしまい落下する。このままだと二人とも助からないため、ヘザーは自分の手を離すようトールに訴える。しかし離そうとしないトールに、サードの人格が現れる。地球が滅亡していたことにヘザーは絶望するも、自身を叱咤したトールの存在の大きさに気づかされる。そしてトールのために生きることを決意したのだった。サードはカリムを殺したことを告白すると、トールを逃がすため自ら命を断つ。

外へ脱出したトールだったが、施設のあちこちが崩壊しており脱出用のヘリポートは瓦礫の下敷きになっていた。帰る手段を断たれたトールの前に幽体のティズが現れ、彼をシャトルへ導く。
ヘカテから脱出したトールは、余命わずかのオーディンと対峙する。トールは、地球が滅亡したその時から地球型生物の滅亡も決まっていた上に、キマエラ人が元が同じ地球型人類でもキマエラに受け入れられた存在だったのではないのかと推測を語る。キマエラへ帰るトールにオーディンは別れを告げる。

キマエラでは刃・塔崩壊と共に輪制も無くなり、キマエラ人は新たな道を歩みつつあった。ある日トールはチェン達と森で植物に襲われた一人の孤児の少女を助ける。トールは少女に、希望の意味を込めて「ティズ」と名付けるのだった。

『獣王星』の登場人物・キャラクター

主要人物

トール・クライン

CV:堂本光一(青年期) / 高山みなみ(少年期)
主人公。バルカン星系のスペースコロニー「ユノ」の出身。銀色の髪に藍色の瞳が特徴。ラーイとは双子の兄弟。パイロットとなって太陽系へ行くという夢を持つ。父のクライン博士と親友だったオーディンに両親を殺され、ラーイと共に死刑星キマエラに落とされたことから運命が一転する。「茶・輪(オークル・リング)」の頭(トップ)となってからは「銀鷹(シルヴァーク)のトール」の異名で呼ばれる。
身体能力が高く、コロニーにいた頃は体操や武術の成績は常にトップの成績だった。また強運と言っていいほどの生命力を持つ。キマエラに落とされた当初は誰かを殺すことを躊躇っていたが、コロニーの常識がまるで通用しないキマエラでラーイと共に生き抜いていくためにやがて殺人を犯すことを躊躇わなくなる。慎重に相手を観察し行動を取るが、非情に撤しきれない一面を持つ。

ラーイ・クライン

CV:高山みなみ
トールの双子の弟。泣き虫で気が弱いが自己主張が激しい。喧嘩っ早い兄と違い女子に人気がある。バルカン星系の人類の短命化に疑問を持っており、イオ研究所(ラボ)に入り原因を突き止めたいと考えている。キマエラに落とされてからはトールの足を引っ張るだけの存在となり、やがてトールからも疎まれるようになる。「茶・輪(オークル・リング)」のテリトリーに侵入した諍いに巻き込まれた際トールが隙を作ったことで脱出に成功するも、崖から落ちて死亡する。その時ラーイが所持していたにおい袋は後にザギによってトールの手へ渡る。アニメ版では死因が変更されており、トールの目の前で植物に飲み込まれる。

ティズ

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