雲のように風のように(アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『雲のように風のように』とは、第1回日本ファンタジーノベル大賞受賞作品『後宮小説』を原作としたスペシャルアニメ。
架空の古代中国の王朝「素乾国」の後宮に焦点を当てた作品で、原作が持つ斜陽の国家の中で展開する人間達の浅ましさや残酷さ、男女の哲学等といった難しいテーマを含めながらも、個性的なキャラクター達による小気味良いコミカルなシーンを雰囲気を壊すことなく多く含み、約80分間の制限の中子供でも楽しめる全年齢向けのエンターテインメントとして仕上がっている。

『雲のように風のように』の概要

『雲のように風のように』(くものようにかぜのように)とは、酒見賢一のデビュー作『後宮小説』を原作としたテレビスペシャルアニメ。
1989年『後宮小説』が読売新聞社、三井不動産販売共同主催の第1回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、その後三井不動産販売株式会社の創立20周年事業の一環として本作を原作としたTVスペシャルアニメが企画された。
原作内における渦巻く情念と陰謀、生々しいエロティシズムと性の哲学が織り交ぜられた所謂「大人向け」の描写やキャラクター設定を、コミカルな部分や爽やかな持ち味はそのままに子どもでもわかりやすく楽しめるようアレンジし、まとめ上げられた本作は非常に評価が高く、1990年3月21日に途中CMなしで日本テレビ系列で放送されて以降、今日までに根強いファンが多い。
劇場公開やリマスター版放送、VHS、DVD、Blu-ray化もされている。
総監督は鳥海永行で、DVD版に付属している冊子によれば女の子が主人公の作品を作成するのは本作が初である。
ジブリ作品の原画・キャラクターデザインを多数手がけた近藤勝也等アニメ業界の著名スタッフが多数参加しており、声の出演も著名の声優・俳優陣を起用している。

腹英三十四年。素乾国(そかんこく)十七代皇帝の崩御により後宮が解散され、大勢の妻が都を後にした。
後宮で権威を振るっていた宦官達は先の皇帝の正妃・琴(キン)皇太后の権力増大を危険視し、新皇帝の即位式を早めようと企て、全国から花嫁候補を集める「宮女狩り」を決行。
ある日、素乾国の地方にある小さな田舎・緒陀県(おだけん)にも宮女募集の御触れが張り出される。
町の陶器職人の娘・銀河(ギンガ)は「宮女は勉強ができ、正妃ともなれば綺麗な着物が着れて三食昼寝付き」だという噂を聞き、その夢のような生活に目を輝かせ「あたい、天子様のお嫁さんになる!」と決意する。
銀河は、宮女募集のために故郷・緒陀県に派遣された宦官の真野(マノ)の元に赴き、都に向かう。

『雲のように風のように』の概要あらすじ・ストーリー

皇帝崩御

腹英三十四年。素乾国(そかんこく)十七代皇帝が崩御し、後宮に遺された五百五十人にも及ぶ大勢の妻たちは、皇帝の崩御と共に後宮を取り壊す習わしに則り、解散した。
皇帝の座が空席となった今、宮廷内は大陰謀渦巻く巣窟となる。
琴皇太后は次期皇帝最有力候補である腹違いの皇太子を暗殺し、自らが生んだ子・平徹を皇帝にしようと早速動き出したのを、後宮で権威を振っていた宦官達は察知し危機感を募らせ、新皇帝の即位式を早めようと全国から花嫁候補を集める「宮女狩り」を決行する。

素乾国の地方にある小さな田舎町・緒陀県にも、宮女募集の御触れが張り出された。
町の陶器職人の娘・銀河は「宮女は勉強ができ、正妃ともなれば綺麗な着物が着れて三食昼寝付き」だという噂を聞く。
銀河はその話に目を輝かせ、その勢いで家まで走り「あたい、天子様のお嫁さんになる!」と父に宣言し、宮女募集のために緒陀県に派遣された宦官の真野の元に赴き、面接を突破した。
その夜、星空の下「宮女になったからとて銀河が幸せになれるとは思えない」と心配する父に、銀河は「そんなに幸せにならなくても賑やかな都を見て、色んな人たちと話ができればそれでいい。それから、何といっても三食昼寝付きだ」と無邪気に自分の望みを語るのだった。
銀河は、自分がいなくなったらお嫁さんを貰えと父に発破をかけ、真野とその部下たちと共に故郷緒陀県を後にする。

都へ

道中、銀河達の一行は山間にある瓜祭村(かさいむら)という村の旅籠に駐屯していた。
天候の問題もあったが、近辺に住み着く山賊たちの噂に足止めを喰らっていたのだ。
真野は銀河の子供っぽい言葉遣いや礼儀作法について指導していたが、一歩も外へ出ることなく遊び相手もいない銀河は退屈で我慢ができないと部屋を飛び出し、階段で転びかけたところを真野に護衛の依頼で呼びつけられた義教団の渾沌(コントン)に支えられる。
義教団は平勝(ヘイショウ)という男を団長とするならず者の団体ではあるが、報酬次第で人助けも請け負うという言葉通り与えられた護衛の任を完璧にこなし、何事もなく銀河達を無事に都まで送り届けた。
満面の笑みで無邪気に手を振って渾沌達に別れを告げる銀河に対し、平勝は先程声をかけた際に受けた銀河の言動や仕草の幼さに面食らっていたため「あんな山猿みてえな娘が皇帝の花嫁になれっかよ」と呆れ返っていたが、渾沌は逆に皇帝の妃になれるような予感を抱く。

後宮

都に到着した銀河は、多くの人と物、そして荘厳な王宮など、初めて見るものに目を輝かせた。
真野は後宮の入り口で銀河に暫しの別れを告げ、案内役の老婆の方へ一人で行くように促し、自分の出世の夢を託して送り出す。
銀河のそのお気楽な言葉遣いと落ち着きのない後ろ姿に真野は一抹の不安を抱きつつも、新皇帝は変わり者がお好きかもしれないと希望を抱く。

案内婆に手を引かれて長く暗いトンネルのような後宮の入り口を通る銀河は、いつまでも辿り着かない上にいくら話しかけても黙り込む老婆に次第に苛立ち、とうとう癇癪をおこす。
無言でお互いの手をつねりあいながら進むと出口が近づいたのか前方に光が差し込み、肌寒くなってくる。
銀河は立ち止まりその光を眺めて目が眩みかけるが、突如自分に話しかけてきた聞き覚えの無い涼やかな声で持ち直し、「歩きながら話そうではないか」という声の主の提案で再び歩き出す。
声の主は非常に品のいい話し方で、また良い香りがした。
この門の名が「垂戸(たると)」であるということ、気味悪がられがちなこの場所は声の主にとってはかえって心地よく、一人になりたいときには都合がよく、時に銀河のような面白い人物にも出会えることが語られる内に、三人は垂戸を抜ける。
明るいところで初めて見た声の主は、柔らかな雰囲気でいて非常に美しい容貌をしており、名を「双槐樹(コリューン)」と言った。
双槐樹は近々再会することを予言し、研修中の花嫁候補たちが暮らす寮「娥舎(ガシャ)」まで案内婆に連れて行ってもらうよう言い残してから去って行った。
その途端、ずっと沈黙を守っていた案内婆が自らの手を力強く握りっぱなしの銀河の手を勢いよく振り払い、垂戸の中で案内婆は喋ってはならない決まりがあることを知らず一人でぺらぺらと喋り続けた銀河に対しての文句や、長いトンネルの中で気も狂わんばかりになる多くの娘達と比べるとその胆力についての評価等、先程とは打って変わって機関銃の如くまくしたてた。
案内婆は娥舎の案内は宦官・亥野(いの)の役目だからその場で待つように言い、激励と文句と皮肉をひとしきり銀河に浴びせた後再び垂戸に消えていった。

銀河は宦官の亥野の案内で未だ建設中の後宮内にある娥舎に通される。
娥舎は四人部屋で、銀河の部屋には既に一人ルームメイトが案内されていた。
勉強ができることに胸をときめかせながら銀河が部屋の扉を開けると、中にはプライドの高そうな美女が鏡台で美しい髪を梳いていた。
彼女は貴族出身で名を「世沙明(セシャーミン)」と言った。
世沙明は見るからに田舎娘の銀河を見下し意に介さないといった態度をとるが、銀河の無邪気でマイペースな一挙手一投足に早速調子を崩される。
だが続けざまに入ってくるルームメイトは、銀河以上に個性的な女たちだった。
故郷の慣習として扉を叩いて開けてもらえないと部屋に入れないからと廊下で寝そべっていた茅南州(かなんしゅう)出身の碧眼の美女・江葉(コウヨウ)は銀河以上にマイペースな性格で、銀河が扉を開けるやいなや早々に部屋に入りベッドに入って煙管をふかした。
双槐樹と瓜二つのミステリアスな美女・玉遥樹(タミューン)は、部屋に入った瞬間に着物の両袖に隠し持つ双頭の短刀で演武を披露し、武に長けていることを示した上で「時々別行動をとるが気にするな」と一方的に言った。
自らの常識を超えた癖の強いルームメイト達に、世沙明は「変なのばっかし!」と鏡台に突っ伏して嘆くのであった。

女大学

新皇帝即位の儀の翌日、素乾国唯一の女の学校である後宮の女大学の講義が開始となる。
宮女候補生たちは教師を担う知識・教養全般を受け持つ素乾国随一の学者・瀬戸角(セト・カクート)先生と、生理学・運動を受け持つ角先生の助手・菊凶(キッキョウ)を紹介される。
若い女生徒たちには老齢の角先生よりも若く妖しい美貌のある雰囲気を持つ菊凶が人気だったが、銀河は娥舎に戻った後、角先生の授業の方が面白く奥深くて気に入ったことを、玉遥樹に打ち明ける。
銀河の話を微笑みながら寝台で聞く玉遥樹の顔に、銀河は「玉遥樹て、本当に双槐樹に似てるわね」と呟く。
すると玉遥樹が血相を変えて詳細を問い質し、二人だけの秘密としながら自らが双槐樹の姉であることを打ち明けて外に出てしまった。

角先生のある講義で、生徒たちは「男と女の違いについて」を問われる。
指名された女生徒たちは体つきや心で決まるとそれぞれに応えるが、角先生はそれに理論づけて否定した上で、答えは自分で見つけるように言う。
銀河はそれに反発し、角先生にちゃんとした答えを、無ければせめて角先生にとっての答えを教えるように抗議するが、角先生は自分の答えに辿り着くのに50年費やしたことを理由に拒否し、銀河はそれを「ケチ」だと一蹴した。
その夜、追放間違いなしだと落ち込む銀河の元に、角先生から呼び出しがかかる。
銀河が亥野につれられて角先生の部屋に辿り着くと双槐樹が入れ替わりのように出て、互いは驚きつつも再会を喜ぶ。
双槐樹は「先生に呼ばれてきた来たの?」という問いで不貞腐れた顔で黙り込む銀河の様子で叱られに来たと察し、肩を叩いて去っていった。
銀河は蔵書に埋め尽くされた角先生の部屋に入り、半分は読んだものでもう半分は角先生が書いたものだと知り驚愕する。
席に着いた銀河は小さくなりながら昼間のことを詫び、追放になる前にあの答えを知りたいと思ってるのだと言う。
だが角先生は追い出す気はなく、銀河に自分の答えを教えるために呼んだのだと伝えた。
銀河が期待に胸を膨らませて聞いた角先生の男と女の違いの答えは「子供を産むこと」だった。
予想外のあっけない答えに、そんなことを考え付くのに50年もかかったのかと銀河は自分の母が18歳で自分を生んだことを交えて返す。
だが角先生は子を育むための宮殿である子宮を持つのが即ち女性であるということを結論付け、それこそが玄妙な哲学であるということを熱弁し、銀河を返した。

銀河は娥舎に帰る途中、亥野と別れて近道を走っていると双槐樹が賊共に襲われている場面に遭遇する。
同時に駆け付けた玉遥樹と共に、銀河は道端に落ちていた煉瓦を用いて助太刀に入り、隙をついて賊を一人倒す。
玉遥樹は双槐樹に背中合わせで身構え、自分が姉として身を案じ娥舎に入り込んでいたことを明かす。
賊が去った後、双槐樹は自らのために必死に戦ってくれた銀河に礼を言って抱きしめる。

挙兵

瓜祭村では、山賊退治が縁で県知事の娘婿となった幻影達(イリューダ)と名を変えた平勝が、書庫蔵で本の虫となっている渾沌を訪ねる。
役所勤めに飽き飽きとした幻影達は、今の裕福な生活や地位を捨ててでも、その名の如く幻でもいいから夢を追いかけたいのだと渾沌に訴える。
渾沌はその言葉に幻影達の本気を見て、自らも本に飽きてきたと書を捨てて二人で原っぱまで馬を走らせる。
そこで渾沌は昔の仲間を集めて挙兵でもしてみようと幻影達に持ち掛け、上層部は私腹を肥やすばかりで若い皇帝にはそれを押さえつける力はなく、民は重税や労役で苦しんでいるのだと持論を展開した上で、故にこれから自分たちは世直しの反乱をするのだと幻影達をその気にさせた。
銀河達が6か月の授業を終え卒業試験を翌日に控え、自らの官職や夫となる皇帝の人物像にそれぞれ想いを馳せる中、退屈しのぎの気まぐれで起こした幻影達の挙兵は瞬く間に三万五千の兵が集まり、反乱軍は着々と侵攻していった。
その勢いは素乾国の関所を次々と陥落させ、いよいよ都にほど近い難攻不落の北磐関(ほくばんかん/ほくはんかん)にまで攻め入ろうとしていた。

銀正妃

真野は正妃となった銀河の元に大喜びで駆け付ける。
だが美しい着物を纏い、念願の三食昼寝付きを得た銀河本人は浮かない顔をしていた。
銀河はただ夢中になってやってきたことながら、顔も知らない皇帝の妻となる現実に向き合った時、「正妃になったからとてお前が幸せになれるとは限らない」という父の言葉を思い出し、逃げ出したくなってしまったと真野に弱音を零した。
その夜、寝室で緊張した面持ちで皇帝を待つと、双槐樹が皇帝として訪ねてきた。
双槐樹を女だと思い込んでいた銀河は大いに驚いたが事実を受け入れ、一方で皇帝であるにも関わらず垂戸にいたことを疑問に思う。
そこで初めて、双槐樹は義理の母・琴皇太后による策略で命を狙われていることを銀河に伝えた。
双槐樹は刺客から逃れるために専務の無い時間は後宮に身を潜めていたがそれもばれてしまい、居場所のなくなった双槐樹は角先生と相談して信用のおける銀河をまだ子供であることを承知で双槐樹の気の置ける友人として正妃に選び、安全地帯を作ったのだという。
内は権力争い、外は幻影達の反乱で双槐樹は胸を痛めていた。特に反乱軍に関しては、頼みの綱が北磐関に送り込んだ信頼のおける王斉美(おうさいび)将軍のみであるとのことだった。
いずれこの部屋も脅かされるのではという銀河の不安に、双槐樹は「大丈夫、銀河は強いから」と微笑む。そこに玉遥樹も現れ、私もまた隣の部屋にいるから安心だと銀河に伝えるのだった。

銀河は綺麗に片付いてしまった角先生の部屋を尋ね、夫婦生活の近況を報告する。
無邪気な友人同士の楽し気な関係を聞いた角先生は、当分世継ぎは期待できないなと溜息をもらした。
銀河は去り際、角先生から皇太后と結びついた菊凶を破門したことを双槐樹に伝えるよう言われる。
それには何も答えず部屋に戻る途中、銀河は自らの身体の変化に違和感を覚え、そのままうずくまる。

部屋に帰った銀河はぼんやり窓の外を眺めていた。先に起こった身体の変化によるものか、その雰囲気は今までのやんちゃさがなりを潜めてる。
そこに双槐樹から北磐関が陥落し、王朝の滅亡を防ぐために自らの危険を承知で昼夜宮中に於いて軍の指揮を執るという報告を受ける。
王朝の危機と自らの使命の重さに、双槐樹は自分と銀河が永久に夫婦にはなれないかもしれないと憂う。
その時、寝室に賊共が忍び込む。双槐樹は振り向きざまに短銃で一人仕留めるが、フリントロック式で一発しか弾が無いことを見抜かれていた。
玉遥樹が騒ぎを聞きつけ全て片付けるが、その賊が菊凶の影響を受けた宦官だと言うことに気付いた双槐樹は安全な場所がもうどこにもないことを悟る。
その背中を見て、銀河は一つの決心をする。

後宮軍隊

権力争いと私腹を肥やすことに腐心して弱り切っていた朝廷の軍では破竹の勢いで押し寄せる反乱軍を押し寄せることができずほぼ壊滅状態となり、役人や宦官達、都の金持ち達は市井の貧しい人々を残して逃亡してしまった。
そんな中、銀河を始めとする女達は後宮を守るために角先生に戦い方の教えを乞う。
角先生は兵法を学ばなかったため戦い方は教えられないとした上で、兵器庫に眠る先の皇帝・腹宗の道楽であった大砲や銃などの兵器コレクションが戦力になると伝える。

一方、幻影達の元に皇太后の使者として菊凶が訪ね、幻影達たち反乱軍を歓迎し、現皇帝である双槐樹を排し11歳の我が子・平徹を十九代素乾国皇帝に据えようとするという皇太后の奸計を包み隠さず伝える。
渾沌はそこで、北磐関を楽に攻め入ることが出来たのには王斉美将軍が何者かに暗殺されていたお陰だから礼を言いたいと菊凶を謀り、謀殺の犯人である皇太后と側近の大臣・栖斗野(セイトノ)、そして菊凶の名を炙り出し、敵を目前に己の欲のために自国の清廉潔白な軍人を殺す腹黒共への拒否と見せしめとして反乱軍の隊長に菊凶の首を刎ねさせるよう命令する。
そうしていよいよ宮廷内に入り込んだ反乱軍の声を聞き、双槐樹は皇太后に自らの後悔や覚悟を簾越しに語るが、皇太后は既に毒を煽って平徹と無理心中をしていた後だった。

銀河達は煤だらけになりながら慣れぬ大砲で後宮への出入り口の一つである乾生門を破壊し、唯一の門となった垂戸に大砲を運び出す。
美しくか弱い後宮の女達を一方的に蹂躙できると期待して長いトンネルを抜けた反乱軍たちは自分たちに向く女達と大砲を目の前に呆然とし、垂戸と共に爆風で吹き飛ばされる。
それを見た幻影は後宮を裏から攻めるのは無理だと判断し、塀に縄梯子を駆けるなどして侵入を試みるが、投石器や鉄砲、そして玉遥樹の矛の餌食となり思うようにいかない。
攻めあぐねている幻影に、渾沌はここが潮時だと「反乱遊び」を止め、金目の物を持って瓜祭村に帰ってまた楽しく遊ぼうと提案する。
だが幻影達は自らが皇帝になると玉座に座り込んでしまう。彼はこの進軍中に野心が芽生え、いつしか遊びが本気になっていた。
長い付き合いの仲に亀裂が入ったと感じた渾沌は、幻影の先の無い野望に「そんなところに座れば、第二第三の幻影に首を狙われるだけだぞ」とその場を去る。
渾沌はそのまま広場に出ると、自軍が何やら騒がしかった。
そこには反乱軍に取り囲まれていた双槐樹がおり、白旗を上げて城と自分の命さえも引き換えに中にいる者たちの命の保証を幻影達に取り次ぐよう訴えた。
その訴えと入れ替わのように、玉遥樹は戦闘に疲弊した隙を突かれて、反乱軍に斃されてしまう。

銀河は玉遥樹の戦死報告と共に、双槐樹が単身停戦交渉に出向いたことを真野から聞く。
仲間の死と夫の覚悟、だがそれでも止まない賊共の攻撃に銀河もまた銀正妃として幻影に直接交渉に出向く覚悟を決め、一人で乗り込む。
銀河は双槐樹と同じ短銃を自分に向け「指一本でも触れたら死ぬ」と敵の男たちの中を突っ切り、首謀者がいる部屋だと敵兵に案内された皇帝の執務室に辿り着く。
だがそこに幻影の姿はなく、代わりに不貞腐れながら書物を読みふける見覚えのある男がいた。
互いに瓜祭村で会った顔見知りであったことを認識し、幻影達と名乗っている男の正体もその時に出会った「図体ばかりでかい人」である平勝であることを銀河は知ることとなった。

双槐樹(コリューン)の最期

銀河は渾沌の案内で、城の外れにある双槐樹が幽閉されている馬小屋に案内され、幻影達が双槐樹を殺すつもりでいることを伝えられる。
銀河が一人で馬小屋に入ると、奥には双槐樹がいた。銀河は双槐樹の胸の中に飛び込み、何故妻である自分に相談もせず一人で幻影に会いに行ったのかと泣きながら抗議する。
双槐樹は子供の銀河には大人の世界は理解できないと言うと、銀河はもう子供ではないと繰り返し訴える。それを聞いた双槐樹は銀河の言わんとしていることを悟り、抱きしめてそのまま倒れこむ。
僅かに夫婦の時間を過ごした銀河は、双槐樹が持っていたものと同じフリントロック式の銃を渡し、双槐樹に必ず逃げるよう懇願して馬小屋を後にするが、双槐樹は生きるために渡したその銃で一人自害してしまう。
銃声を聞いて駆けつけ愛する夫の亡骸に寄り添って泣く銀河の背中を見て、渾沌は後宮の女たちを助ける決意をする。
銀河と渾沌は双槐樹が使った銃を使って幻影達たちの前に「正妃に囚われた人質」という体裁で現れ、「女たちを開放しなければ渾沌を殺す」と一芝居を打つ。
幻影達は結果として後宮の者を開放するが、それを素乾国を離れる馬車の中で渾沌は「良き協力者のおかげで助かった」と使用済みのフリントロック銃の特徴を見せ、幻影達が長く付き合い慕った「渾兄哥(コンあにい)」への餞別として弾が無いことを知っていた上で助けてくれたのだと銀河に解説した。
滅亡した素乾城では自分の欲のことしか頭にない幻影達が、去って行った銀河達を尻目に自分は自分で新しい女たちを集めてやると宮女狩りを宣言する。

エピローグ

ここからは、記録として語られるに留まる。
幻影達は新周という名の王朝の初代皇帝となったがその玉座は温まることなく三年後滅ぼされ、故郷の瓜祭村で刑死する。
その後、稀代の英傑・黒耀樹が台頭し天下統一を果たすまでは群雄割拠の乱世が続く。
黒耀樹は、1638年旧素乾城を拠点に新王朝「乾朝」を建て、神武帝として即位する。彼は、銀河が馬小屋におけるたった一度の契りによって身籠った双槐樹の子であった。
銀河のその後の行方は誰も知らない。だがその自由奔放な生き様は各所に伝説を残し、彼女を知る者からはいつでも若く溌溂としていたと口々に語られた。
波乱に満ちた人生を経て尚、銀河は生涯を通し「天子様のお嫁さんになる」と飛び出したあの頃と変わらぬ、子供のままの銀河だったとして伝えられていた。

『雲のように風のように』の登場人物・キャラクター

銀河(ギンガ)

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