ayatani11o1@ayatani11o1

ayatani11o1
ayatani11o1
@ayatani11o1
6 Articles
3 Reviews
0 Contributions
0 Likes
ayatani11o1

ayatani11o1のレビュー・評価・感想

大瀧詠一
9

発売40周年記念『A LONG VACATION』

1981.3.21に発売された『A LONG VACATION』が、
2021.3.21に発売40周年を記念して『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』発売された。
限定版もあり、ファンのみならず是非手に入れたいアルバムだ。
革命を起こしたといわれるナイアガラサウンドは、時代を感じさせない。
大瀧詠一のサウンドは爽快な夏のひと時を想像させるものが多い。
『A LONG VACATION』は、代表作「君は天然色」から始まる。
この曲のカバーはとても多いが、誰が手掛けても、なぜかすべて大瀧詠一節になっているのは面白い。
他に「カナリア諸島にて」「恋するカレン」「FUN×4」「さらばシベリア鉄道」などを収録している。
このアルバムの収録曲以外にも、多くの歌手に曲を提供している。
松田聖子の「風立ちぬ」は、松田のファンを男性だけでなく女性にまで広げた曲のひとつであろう。
また、大瀧詠一と長年の友人である松本隆との作品は、アイドルをアイドルに終わらせない魔力がある。
さらに森進一の「冬のリヴィエラ」、往年の大俳優小林旭に提供した「熱き心に」などは、ジャンルを超えた歌手に歌い継がれる名曲である。
大瀧詠一の名は知らなくても、三ツ矢サイダーのCMに流れていた曲を知らない人はいないのでなないだろうか。

星野源 / Gen Hoshino
10

未開拓の名曲を、よりたくさんの人に聞いてほしい

星野源さんといえば、いまでこそ知らない人がいない日本を代表するアーティストである。
現在では本の執筆から俳優業までハイレベルになんでもこなす、マルチな才能をこれでもかと豊富に持った天才であることは間違いないが、それでもやはり本業の音楽は超がいくつもつくほどの音楽オタクであることは推しておきたい。
いまさらおすすめするほどでもないのでは、というのも間違いはないとおもうが、いまだからこそ星野源さんが素晴らしいのはどれを手にとってもハズレのない楽曲にあると再プッシュしたい。
代表曲を挙げれば、知らない人がいないと言っても過言ではない「恋」「SUN」、ドラマの主題歌にもなった「アイデア」「Family song」など、描けばタイアップに引っ張りだこのそのずば抜けた楽曲センスは、前身はSAKEROCKというインストバンドで活動していたときから片鱗を感じることができる。
現在は解散したバンドだが、「エメラルドミュージック」「sayonara」といった曲は、いまの星野源さんの曲とよく似たようなパートがでてくるので、歌なしの曲が苦手な人でも星野源さんが好きという人はぜひ掘り下げて聞いてみてほしい。
そしてアルバム、カップリング曲に収録される楽曲は挑戦的な曲調が多いので、星野源さんの実はやりたいことはこれなのかといった作曲目線で楽しむのもそういった変わり種の楽しみ方である。
やはり第一線級で活躍するアーティストはどれだけ掘り下げてもスキがない。
まだ未開拓の名曲をいろんな人に聞いてほしいという意味でおすすめだ。

82年生まれ、キム・ジヨン
9

82年生まれ、私も

韓国の世界的ベストセラー小説を基に、韓国のある一人の既婚女性の物語。
日本のしがない男である私。
住んでる国も価値観も違う。作品に共感する事が出来るのか…?
ところが!
性別や国は違えども、生き方の悩みは同じ。万国共通。
悲しみも苦しみも、喜びも幸せも、とても共感してしまった。
劇場公開時から観たい!と思っていたのだが(本当は隣町まで観に行こうと思っていたのだが、コロナがまた拡がり始めた時期だったので断念)、いや〜、いい作品であった。

韓国で1982年生まれの女性に多いという“キム・ジヨン”。
本作の主人公もその一人。
両親、姉、弟、平凡な庶民家庭に生まれ育ち、大学卒業後はOLに。
デヒョンと結婚し、出産した事で退職。専業主婦に。
育児と家事をこなしながら、夫と幼い娘と平穏に暮らす毎日…。
一見、家庭に入った女性の“教科書”のような生き方に思えるが…

時々物忘れや夕方になると鬱気分になる事がしばしば。主婦業も大変。その疲れ…?
正月は夫の実家へ。嫁は我が家以上にあれやこれや進んでしなければならず、更なる気疲れや心労が重なる。加えて、姑のちょっとした言動に過敏に反応すらしてしまう。
私の亡き母も姑とは仲良かったが、小姑からは会う度にあれやこれや口うるさく言われていた。かく言う私も。落ち着きなかった小さかった頃の事やもうどーでもいい前の事を何度も何度も何度も何度も何度も蒸し返す、大キライな小姑(叔母)であった。
…さて、私の突然の思い出こそどーでもいいとして、映画の話に。
夫の実家で突然、“事件”を起こしてしまうジヨン。それはまるで、自身の母が憑依したような言葉を発する。つまり、自分の息子を正月に実家でのんびりさせるなら、私の娘も実家で休ませてよ!…みたいな。
しかもジヨンには、その時の記憶は無い。
この時一回きりと思いきや、その後も時折起きる。亡くなった先輩や祖母の言葉を…。
やはり本人には全く記憶が無い。
心配したデヒョンは妻に真実を隠し、それとなく精神科に行く事を勧めるのだが…。

“奇病”とでも言うべきジヨンの病気は何なのか…?
病名や病気の詳細自体は分からなくとも、原因は分かる。
韓国現代社会が抱える男女差別、ジェンダー差別。
日本でもまだまだ根深いが、もしこれが現実だったら、韓国は深刻。
OL時代、憧れのカッコいい女性上司(チーム長)が居た。彼女に対しての、男性上司の無神経バカ発言。チーム長もよく、皮肉は言ったものの堪えたもんだ。
就職前、父から「嫁に行け!」。女は家庭に入るもの。
チーム長と再会したジヨン。彼女の立ち上げたばかりの小さな会社から誘いを受ける。妻の意思を尊重する為、デヒョンが育児休暇を取ろうとする。すると、姑が大激怒。「息子の将来をどうしてくれるの!?」
未だ古臭い考えに縛られたままの年代。新しい時代の流れを受け入れられない…いや、自分の考えが絶対的に正しく、頑として受け入れない。
勿論、全員がそうではない。味方になってくれたのは、母。同性親子だからこそ気持ちが通じ合う。
他にも性/ジェンダー差別問題がチクチクと突き刺さる。見てて胸が痛いほど。
男は前、女は後ろ。男は社会に出て働き、夢も果たせるけど、ほとんどの女性は家庭に入り、“女性だから”という理由で夢破れ…。
これは何も韓国だけの事じゃない。日本だってまだまだ同じ。世界レベルでは、ジェンダー意識は非常に低いとか。
だから、訴える事がとても響く。
そしてその訴えこそ、ジヨンの病気の原因。
この社会への、性/ジェンダー差別に苦しむ女性たちの心の声…いや、本音なのだ。

女性の生きづらさが描かれているが、だからと言って男性に全て否がある訳ではない。
会社での立場。
育児休暇を取ろうとするデヒョン。
先に育児休暇を取った会社員は復職したら、居場所が無くなっていた。
男尊女卑も社会問題だが、これも一つの問題。
ひょっとして、日本だって同じかもしれない。

チョン・ユミの繊細な名演!
一挙一動、表情、視線、佇まいまで、全てに吸い込まれる。
勿論、その美しさにも釘付け。
彼女と夫役コン・ユは『新感染 ファイナル・エクスプレス』などで3度目の共演。妻を支える夫を温かく演じる。
優しい母、陰湿な義母、個性的な姉、キャリアウーマンのチーム長…女性の登場人物が印象的に描かれている。

本作が長編デビューとなるキム・ドヨンの演出も繊細にして見事。
ジヨンの現在と過去を交錯させつつ、感情をすくい、染み込ませる。
アメリカではオスカー最有力と言われる『ノマドランド』のクロエ・ジャオ、日本では『すばらしき世界』の西川美和や『朝が来る』の河瀬直美、世界各国でも多才な女性監督が活躍中。
もう映画監督=男とは言わせない!

ラスト、イヤミそうな男がジヨンにイヤミを言う。“ママ虫”と。
それに対し、ジヨンは反論する。
「あなたに私の何が分かるの?」
これは男女問わず、差別社会全てに言えるのでないだろうか。
イヤミを言われ、塞ぎ込んでいるばかりではそれこそ心の病になってしまう。
理不尽な差別や問題に立ち向かう。訴える。
そして、目的や夢を持つ。

夫が育児休暇を取り、再び働き始めたジヨン。
アジア圏では珍しい形だろう。
そう、アジアは遅れている。日本では未だ女性が国のトップにすら立っていない。
女性が働く姿、夢を追う姿、その為に頑張る姿って素敵だ。
私の職場にも働く女性の方々はたくさん居る。
女性の生き方や自由が当たり前になる、輝かしいそんな社会になるように。
作品のラストは訴えではなく、いつしか輝いていたような気がした。

余談ながら、私も82年生まれなのである。