3ykikipon@3ykikipon

3ykikipon
3ykikipon
@3ykikipon
2 Articles
1 Reviews
0 Contributions
0 Likes
3ykikipon

3ykikiponのレビュー・評価・感想

天保十二年のシェイクスピア
10

井上ひさしの超大作、豪華なキャストの音楽劇

シェイクスピアの戯曲全37作を、『天保水滸伝』の世界に豪華のっけ盛りした野心作。
すべての演劇の要素が盛り込まれています。
悲劇、喜劇、音楽劇、歴史劇、不条理劇、アングラなど、すべてが闇鍋のように入っています。
伝説の初演時はあまりの長さに終電の時間が迫り、観客が泣く泣く席を立ったとか。
その後、井上ひさし氏の生前に上演した時も、あの長さ、もうちょい何とか…と話し合って時間をなんとか絞り込んだ曰く付きの大作です。
あらすじは、老いた老侠客、鰤の十兵衛(ブリ・テンの王、つまりリア王)の財産の生前分与です。
2人の娘とその婿たちはおべんちゃらを言い、末の娘(実は養女のお光、つまりコーデリア)はおべんちゃらが言えず、結果家を出ていきます。
ここからがすごいです。とにかく人がどんどん死んでいきます!なのにやけに明るい!(宮川彬良さんの名曲もありますが)
ストーリーは身内の殺し合いから無関係の巻き添えまでやたらに死んでいくのですが、合間合間に笑いが起きます。
ハムレットに相当する「きじるしの王次」が明治以降の多くの名訳(迷訳)を一気に演じる場面、客席は大爆笑です。(浦井健治さん、流石でした!)
ですが、やはりこの舞台の主役は「佐渡の三世次」です。シェイクスピアのすべての悪役を凝縮させた存在です。
醜い容貌に不自由な体、ねじ曲がった心と、なによりも奸智に長けた頭脳と巧みな弁舌。
乱れた渡世で立身出世を目指しながら、この舞台の登場人物の中でこれほど真っ直ぐ死に向かって生きているのは、やはり彼でしょう。
悪どい奴なのに、憎めず何故だか愛おしく哀れにさえ見えてくる。高橋一生さん、すごい役者さんでした。