ヒーリング・プラネット

ヒーリング・プラネットのレビュー・評価・感想

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ヒーリング・プラネット
10

忘れてしまった何かを取り戻せる作品。

現在の30代のアニメ好きなら小学生の頃に観たであろう、あの有名な『まもって守護月天!』。その作者の漫画作品。優しい線で描かれた漫画は可愛らしくほのぼのとした雰囲気を醸し出している。そんな作画にぴったりな本作の主人公・高校生の千寿院さとりはおバカで何を考えているのか分からない上に、周りの話を聞かない我が世界を生きるタイプ。ある日、自分のカバンに付いていた海老のお寿司のキーホルダーが動き、ものすごく可愛い生き物になって彼女を「先生」と呼ぶ。彼女は異次元カウンセラーに突然任命されたのだ。それは次元を超えてやってきた『心の病んでしまった患者』の『心を癒す職業』なのだ。そして、彼女は「自分の大好きな海老のお寿司のキーホルダーがすごく好きで、それが動いたりしゃべったりしていることが嬉しい」と言う。そんな彼女の初めての患者は、自分と正反対の明るくて誰とでも仲良くなれる妹に対してコンプレックスを持ち、周りからどう思われているかが気になって話が上手く出来なくなった人物だった。そんな悩みすら上手く言葉に出来ない患者に対してさとりは全くケアしようとせず、友達が自宅に泊まりに来たかのように家族に紹介し、普通に会話をする。患者は自分のことを理解しようとしないさとりに対して不信感を持ち始めるが、ふと気付く。「私の話を聞いてないみたいで、自分の考えていることに夢中。でも、だからこそあんまりいろんなことを考えないで話したいことを話せるのかも」。そう、さとりは自分の思ったことに夢中で物事を難しくとらえない。良い意味で他人に興味がない。キーホルダーが動いたことや友達が家に泊りに来たことが、ただただ嬉しいのだ。いつも何かを難しく考えてしまう私たちに対して、そんな難しく考えないで、目の前のことを単純に楽しむことで心は軽くなることを訴えている気がした。物事を難しく考えるのはいつも自分。悩んで下を向いてたら目の前にある綺麗な景色にずっと気付けない。言葉ではなく、さとりの人間性から患者はそれぞれ悩みの出口を見つけていく。それは、話の中だけでなく、大人になるにつれて現実と戦い、人生がつまらなく感じたり、自分をやめたくなったり、将来の不安や悩みを抱える私たちにも言えること。読んだからといって救われたり、それらが解決するわけではないけれど、読み終えたらきっと何かが自分の中で変わる作品。「うるっ」として「ポカポカ」する。世代や性別に関係なく全員に読んでほしい作品。