ブエノスアイレス

ブエノスアイレスのレビュー・評価・感想

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ブエノスアイレス
8

仄暗い映像美。

離れ難い恋人同士、ファイとウィンの醜くて粘着質でドロドロした感情を、仄暗い映像美で耽美な芸術作品として昇華させている。間違いなく見るべきだと思う。同性愛を描いているからではなく、お互いに惹かれあっているにも関わらず、どうしてもうまくいかない二人の関係をうまく切り出したロードムービーになっているからである。初めに目標の地をイグアスの滝と定めて旅をするにも関わらず、喧嘩別れをし、結局二人はうまくいかぬまま浮気をしたり、再会しては衝突する。そういった日常のシーンに、アストルピアソラのタンゴとイグアスの滝の映像が妙にマッチするのだ。倦怠感と停滞感が漂ってくるなか、突然現れる好青年のチャンが物語を先へ先へと押し進める。彼は中華料理店でファイと出会い、彼の悲しみを昇華させる手助けをする。ファイとウィンが暮らすボロアパートの共同キッチンでおどる二人のタンゴ、それが映画の中の一番のハイライトだと言えるだろう。『ブエノスアイレス』の魅力は、旅の倦怠感と諦め、そしてそれらを吹っ切って、日常生活に戻るまでにあるのだ。The Turtlesの「Happy Together」のカバーがエンドロールで流れる。その時にあなたは何を思うだろう。