バケツでごはん

バケツでごはんのレビュー・評価・感想

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バケツでごはん
10

動物だって仕事もすれば恋もする。浪花節なペンギン・ギンペーと動物たちが織りなす、笑って泣ける不朽の名作マンガ。

もう20年近く前に連載されていたマンガになるが、よみうりテレビで毎週月曜日にアニメとして放送もされていたこの作品を覚えている人はどのくらいいるだろうか。

「バケツでごはん」は、架空の動物園「上野原動物園」を舞台に、オウサマペンギンのギンペーをはじめとする動物たちが人間同様に仕事や恋愛に悩んだりする姿が展開される。

私たちが知っている動物園の動物とは異なり、作中の人間以外の動物たちには実は彼らだけで形成されるもう一つの世界があり、
そこでは服を着て生活したり、仕事を持ったりと、いわば人間社会とまるで変わらない生活が動物たちによって営まれている。

動物園の動物たちが人間と会話ができたり、別の生活を持っていることは園長や一部の職員や関係者しか知らない極秘事項であり、
ここでの動物というのは人間に管理される存在ではなく、きちんと給与をもらって働き、動物園の閉園時間になったら自宅へと帰るサラリーマンである。
辞めたくなったら自分の意志で退職することも可能だ。

主人公のギンペーは関西人から「けったいな関西弁」と言われてしまう方言を喋り、仕事以外ではほとんど笑顔を見せない。
旅芸人だった両親と幼い頃から舞台で芸を磨いてきたという、生粋の芸人魂の持ち主である。
上野原動物園にはスカウト=中途採用という形で雇用されるのだが、
エリート然とした同僚のペンギンたち(動物園勤務というのは動物世界ではエリート扱いらしい)とは働き方に対する考え方がまるで違うギンペーは周囲と衝突してしまう。

ぶっきらぼうで誤解されやすいが、仕事に一途で本当は情に厚いギンペーが中心となって物語は進んでいくのだが、とにかく出てくるキャラクターが魅力的。

ギンペーを慕う天然な弟分のサンペー、ギンペーの同僚でギンペーを「暑苦しい浪花節野郎」と揶揄する自称ペンギン界のプレイボーイ・チェザーレ、
自由気ままで明るすぎるギンペーの両親、詮索好きな猫のお隣さん、時々愚痴を聞いてくれるバーのマスターなど様々な動物たちがおり、
話が進むにつれて、登場人物も増えるし、その人間模様ならぬ動物模様もどんどん変化していく。

同僚との関係に悩んだり、親の夫婦喧嘩に巻き込まれたり、厄介な恋愛に夢中になったりして、
その度に落ち込んだり立ち直ったりするギンペーや他の動物たちの姿には笑わされながらも、思わず共感を覚えて愛おしく感じてしまう。
いくつかの事件や出来事の後の、彼らの精神的な成長が決して押しつけがましくなく自然に感じられるので、微笑ましいのだ。

大人になってから読み返すと、いくつかのエピソードの中に現代社会でも問題になっているような重いテーマ(雇用格差、児童虐待、LGBT問題など)を取り扱っていることにも気が付くのだが、
シンプルで可愛らしいタッチとギンペーたちの明るさと優しさのおかげで、暗い気持ちになることはない。

登場人物たちが語る言葉の中には心に染みるようなものもあったりして、時を経て何度読んでも色褪せず、味わいが深くなる素敵な作品だ。