ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

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ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像
9

うまくいかない遣る瀬なさ

映画全体に流れる独特の静けさ、ゆったりとした話のテンポは、この舞台が北欧であるということをひしひしと感じさせてくれる。私は今までフィンランド映画をあまり観たことがなかったのだが、この侘び寂びの空気感は、どこか邦画に通ずるところがあると思った。

主人公である年老いた画商のオラヴィ、その娘であるシングルマザーのレア、そしてレアの息子のオットーを中心に物語は進んでいく。登場人物がお互いを支え合う場面や、また一方で衝突する場面が多くあるのだが、心理描写が丁寧で鑑賞者がどの人物にも共感できるように作られていた。
オラヴィが生活に手一杯で心身ともに余裕がないところにも共感できるし、レアが父親から娘としてではなく、ビジネスマンとしての目を向けられた時の悲しみもわかる。
オラヴィの友人たちも彼を援助したいと願うが、お金がないという理由で力になれないやるせなさ。そして観ている側も、オラヴィを応援したいという気持ちと同時に、「この人が美術商として成功しなかったのは、ビジネスの才がなかったからだ」とも感じてしまうのが切ない。
孫のオットーは今時の青年で、一見浅はかにも見えるが地頭がよく狡猾な面も垣間見えるので、オラヴィの意思を継いで美術商として成長してほしい。