アリスとテレスのまぼろし工場

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アリスとテレスのまぼろし工場
8

恋する衝動と、生々しい人間のうつくしさ

岡田麿里監督作品の『アリスとテレスのまぼろし工場』。
このかわいらしいタイトルとは裏腹に、作中においては人間の生々しさや繊細でリアルな内面が描かれています。
「恋する衝動が世界を壊す」というキャッチコピーにもあるように、この物語を動かすキーは、さまざまなキャラクターたちの純粋な“恋する衝動”です。作品には、お互いの関係を発展させられないもどかしさや、報われない恋をしたときの苦しい気持ちが凝縮されていて、共感できるシーンやセリフがいくつも散りばめられています。
ただ、哲学用語が出てきたり、独特な世界観の表現があったりするので、人によっては観ながら「今のはどういうことだろう?」とやや混乱してしまうかもしれません。並行世界ものや、考察するタイプの映画が好きだという方であれば、そのような引っかかりもなく存分に楽しめる内容だと思います。
そんな『アリスとテレスのまぼろし工場』のいちばんの注目ポイントは、主人公の菊入正宗と佐上睦実、そして製鉄所に閉じ込められている少女・五実の関係性です。この三人にどんな繋がりがあるのかを知る前と知った後とでは、作品に対するイメージががらりと変わります。中島みゆきによる主題歌「心音」の歌詞の解釈もひときわ違うものとなるでしょう。
「恋って何だっけ?」「人を好きになるってどういうことだっけ?」と忘れがちな大人にぜひオススメしたい作品です。