夜明けまでバス停で

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夜明けまでバス停で
9

実際の事件をモチーフにした、決して他人事ではない問題作。

居酒屋のバイトで生計を立てていた三知子だが、新型コロナウィルスの上陸によって経営が傾き始め、三知子を含む3人のバイトが時短を余儀なくされた上に解雇されてしまう。
住み込みの介護施設の職を見つけ三知子はアパートを引き払い、採用当日にキャリーバッグを持って施設に向かうが、勝手な都合で雇い止めを宣告されてしまう。帰る家の無くなった三知子は、この瞬間からホームレス生活を余儀なくされる。

各方面に経営難等の悪影響が出ている新型コロナウィルス禍では、このクビからホームレスへの呆気ない転落ぶりは決して他人事とは思えない、嫌なあるある感を想像してしまう。
板谷由夏の徐々に荒廃して行く巧みな演技に、ますます親近感を覚えた。
しかし、新型コロナ禍以前から不景気は続いており、生活苦だった事も忘れてはいけない。「日本なら稼げる」とフィリピンからやって来たのに、今では居酒屋の残り物をこっそり持って行く事でしか食べていけないバイトの女性(ルビー・モレノ)の姿にも、転落の象徴を読み取れてしまう。。

昼は公園・夜は最終便が出た後のバス停のベンチで寝泊まりする、ホームレスの三知子。その周辺には、三知子の命を狙う男や傲慢セクハラ経営者の下で疲れ果てた居酒屋の女性社員、ベテランのホームレス等が近づいて来る。これも全て、新型コロナ禍が産み出した弱者の象徴とも読み取れる。

さほど大袈裟とも思えない人物描写の的確さが作品の厚みを増しており、真っ当な政治批判になっている。
救い様の無いストーリーだが、新型コロナ禍における社会的弱者の声を全面に押し出して見せた高橋伴明監督の手腕は鮮やかである。