蛍火の杜へ

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蛍火の杜へ
8

幽かなのに力強い恋を拾う

妖怪好き、恋愛好き、泣きたい、キュンキュンしたい、悶えたい、切なくなりたい、がすべてつまった珠玉の作品である。
近づいてはいけないとされる山神さまの森の中で、人に触れられると消えてしまう幽霊のギンと、
夏休みにおじいちゃんのお家に遊びに来る度にその森を訪ねてはギンに会いに行く蛍。
二人のおよそ10年間を描いている。
人と人ならざる者との恋愛である限り、辛い方向への結末を予想してしまいがちになってしまうが、
それだけではない、とても前向きな終わり方が、心にチクリとほろ苦い注射を刺す。
描写の対比もまた秀逸である。6才の女の子から女子高生へと成長していく蛍の姿と、10年間変わらない容姿のギン。
蛍の持つ命のたくましさと、ギンに漂う消え入りそうなはかなさの対比が、苦々しくて、美しくて、涙腺崩壊必至である。
ギンは、森で迷子になった蛍の手をつないであげることもできず、泣いている蛍の頭をなでてあげることもできない。
もどかしさ溢れんばかりの距離感。ギンの想いも蛍の思い遣りにも、涙腺決壊の大洪水に追いやられてしまう物語である。
夏の終わりのカナカナと鳴く蝉の声と夕方の匂いを肌で感じ取れる、鼻の奥がツンとする大好きなお話だ。