容疑者Xの献身 / The Devotion of Suspect X

『容疑者Xの献身』とは、西谷弘が監督を務め2008年に公開された、東野圭吾の小説を映画化した作品。東野圭吾の短編小説を原作としたテレビドラマ『ガリレオ』の劇場版として同ドラマのスタッフやキャストにて制作された。興行収入は49.2億円を記録。大学の准教授・湯川学(ゆかわまなぶ)役を演じる福山雅治にとっては初の主演映画となった。
本作は第33回報知映画賞で高校の数学教師・石神啓哉(いしがみてつや)役を演じた堤真一が主演男優賞を受賞。第32回日本アカデミー賞で優秀作品賞、堤真一は優秀助演男優賞、石神の隣人で弁当屋「べんてん亭」の従業員・花岡靖子(はなおかやすこ)役の松雪泰子が優秀助演女優賞、作品部門で話題賞を受賞した。
天才数学者の石神が、秘かに愛していた隣人・花岡のために、自分に罪を全て着せるように仕向けていく。そのアリバイ工作の解明に天才物理学者の湯川が挑むという、天才同士の頭脳戦が描かれるサスペンス映画である。

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容疑者Xの献身 / The Devotion of Suspect X
7

警察の殺人事件の捜査協力をするうち、自分の大学時代の同級生石神が関わってきて彼と頭脳比べをすることになる物理学者湯川学の人生の無常

なんともやるせない話である。天才的な頭脳を持つ数学者が、高校教師の職に生きがいを見出せず、人生の生きる気力も失って最後に自分を賭けたのは隣に越してきた親子を守るための偽装殺人トリックだった。もし私が石神だったら自分の持つ数学の天才的な頭脳を活かして大学の研究室に残り研究を続けるとか、高校教師をやっているのだったら未来の天才となる資質を見出して高校生たちの数学力を伸ばすことに生きがいを見つけるとか、いくらでも選択肢はあり自殺まで考えるくらい追い詰められることはなかっただろうと思う。首を吊ろうとしていたまさにその時、隣に越してきた花岡親子の挨拶に気をそがれ、近くでお弁当屋をやっている花岡に惹かれていく。親子を守るのだって犯した殺人の偽装工作ではなく、ちゃんと自首を勧め、服役してくるまで待っていてあげてそれからの苦労を共に歩む生き方もあったはずだ。花岡親子の犯した殺人だって夫の暴力を防ごうとした事故過失なのだから情状酌量の余地も残っていたはずだ。それを自分が罪をかぶり一人死刑を待つという自己破滅的行動に出てしまった。石神が描く花岡親子の将来には自分の姿はなく、ただ自分が身代わりの犠牲になって親子の将来を守るというものである。だが果たしてそれで将来花岡親子が幸せに暮らせるだろうか。自分たちの罪を石神に着せたという強い後悔をずっと引きずっていくに違いない。真相を暴いた湯川学のセリフだが、君のその天才的頭脳をこんなことのために使うなんてとても残念だ。大学時代の親友と本当は一杯酌み交わしながら数学談義でもして過ごしたかったろうに、親友の人生を左右する重い決断を下さなければならなかった湯川学の人生の悲哀。唯一の救いは花岡親子が自首してきて石神の計画をぶち壊したことくらいではないだろうか。この事件で誰も幸せになったものはなく、苦い人間の一面を強く描き出した作品であった。