ダイヤモンドの功罪(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ダイヤモンドの功罪』とは集英社の青年漫画雑誌『週刊ヤングジャンプ』上で連載されている、少年野球を題材とした漫画である。作者は日本の漫画家の平井大橋。ありあまる野球の才能を持つがゆえに苦しみ、周囲にも大きな影響を与えてしまう少年・綾瀬川次郎の成長が描かれている。宝島社が発表する『このマンガがすごい!2024』のオトコ編で1位を獲得している。

『ダイヤモンドの功罪』の概要

『ダイヤモンドの功罪』とは日本の漫画家平井大橋(ひらいおおはし)による少年野球漫画である。集英社の青年漫画雑誌『週刊ヤングジャンプ』上で2023年から連載されている。ダイヤモンドのような輝きを持つ主人公・綾瀬川次郎(あやせがわじろう)を中心に、その野球の才能(ダイヤモンド)故に周囲や自分に与える光と影が描かれている。
作者の平井大橋にとっては初めての連載で、『週刊ヤングジャンプ』上では『BUNGO』『4軍くん(仮)』に続く3作目の野球漫画となっている。

物語は溢れんばかりのスポーツの才能を持った少年・綾瀬川次郎が、弱小野球部である足立バンビーズに加入するところから始まる。抜きん出た実力からバンビーズでは全力で野球はできないにも関わらず、次郎は仲良くなったチームメイトと楽しく野球をしていた。しかしその才能を惜しんだ監督は、次郎に黙ってU12(アンダー12)日本代表の一次審査にプレーを録画したビデオを送る。一次選考を通過した次郎は、気乗りはしないものの監督とともに選考会に参加する。そこで出会った実力ある選手たちと野球をすることに喜びを覚えた次郎は、選抜チームに加入することを決める。

タイトルの「功罪」とは「良い影響も悪い影響も与えること」という意味で、次郎が野球を続けることで周囲には不幸せになってしまうキャラクターも多く登場する。また次郎自身も自分の気持ちや人間性に関わりないところで振り回されることで、不幸にもなってしまっていくストーリーとなっている。

2023年には動画サービス「niconico」と、KADOKAWAが発行する雑誌ダ・ヴィンチが発表する「次にくるマンガ大賞2023」のコミックス部門にて7位を受賞した。
翌年2024年には宝島社が発表している「このマンガがすごい!2024」のオトコ編で1位を獲得するなど高い評価を得ている。

『ダイヤモンドの功罪』のあらすじ・ストーリー

足立バンビーズに入団

どこへ行っても特別扱いされ辟易する次郎(右)となだめる母(左)

綾瀬川次郎(あやせがわじろう)は小学5年生にして身長が166cmと、恵まれた体格をもつ少年である。しかも大抵のスポーツなら本や動画を見るだけで、小学生のトップレベルのパフォーマンスを出すことができる、ずば抜けた運動能力を持っていた。
本人もスポーツは好きでこれまでテニスや体操、水泳のスクールの体験コースに参加していた。しかしどこのスクールに行っても、スポーツ万能の次郎は小さい頃からその競技に打ち込んできたスクール生を上回ってしまう。初心者の次郎に負けたことで親に叱られているスクール生を見るのが嫌で、次郎はわざと出来ないふりをする。そのためどこのスクールも体験コースのみで次郎は逃げるように帰ってしまっていた。

ある日次郎は硬式野球クラブ「足立バンビーズ(あだちばんびーず)」のチラシを目にする。野球の知識はほとんど無かったが、「なんか楽しそう」という理由で見学に行くことを決めた。足立バンビーズはチラシの通り監督と選手の風通しもいい、和気あいあいとしたチームだった。監督とのキャッチボールでその球威に目を見張った2人だけの5年生・五十嵐温之(いがらしはるゆき・通称イガ)と安田祐樹(やすだゆうき・通称ヤス)は、次郎の入団を歓迎する。特にイガが言った「綾瀬川くんがバンビーズ入って、それでピッチャーになってくれたら嬉しい」という言葉と、監督の「野球はここにいるみんなが味方なんだよ」という言葉に感動した次郎は、バンビーズに入ることを決める。

早速次郎はバンビーズの練習に参加した。みんなで仲良くする野球の練習を次郎は心の底から楽しむ。ただ次郎の投げるボールを正捕手のイガが捕れなかったため、ピッチャーとして試合に出ることは出来なかった。
しかし本や動画を見ただけで変化球まで投げてしまう次郎の才能に魅せられてしまった監督は、次郎に内緒で動画をU12日本代表のビデオ選考に送ってしまう。ビデオ選考を通過した次郎に監督は選考会の参加を勧めるが、勝手なことをした監督に次郎は怒りをぶつける。みんなが真剣にやっているチームに入ると「また自分のせいで怒られる人が出て来たり、自分ができないふりをしなきゃいけなくなる」と次郎は訴えた。そんな次郎に次郎が日本代表の試合に出ればイガが喜ぶと監督は諭す。また「日本代表に行けば次郎が一番下手かもしれないよ」と言う監督に勧められ、次郎は渋々参加することを決める。

選考会に参加

選考会の会場に到着した次郎は、同じく選考会に参加している2人の少年に声をかけられる。大阪の寝屋川ファイターズから来た、ピッチャーの巴円(ともえまどか)とキャッチャーの雛桃吾(ひなとうご)であった。次郎は桃吾とバッテリーを組みテストを受けるが、イガとは違いしっかりキャッチングできる桃吾に嬉しさを隠せない。
次郎の球威に目を見張った監督から「自分から三振を取ってみるつもりで投げてみて」と言われた次郎は、桃吾のリード通りのピッチングをし監督から三振を取る。
初めて同世代の仲間たちと本気で野球がやれた次郎は、改めて野球の面白さに触れるのだった。
また初心者にも関わらずずば抜けた球威とセンスを持つピッチャーとして、次郎は監督やコーチ陣に強烈な印象を与える。

バンビーズに戻った次郎は「桃吾が取れるんだからイガにもできるよ」とイガに迫った。日本代表の選手と同じことは自分には無理だとイガは口を濁す。また元野球選手だったヤスの父親が、次郎のコーチをすると言い出した。野球の才能のない自分より次郎のほうが父親にとって大事なのだと悟ったヤスは、涙ながらバンビーズを退団してしまう。「次郎くんが来たせいでおかしくなっちゃったんじゃん」とヤスに言われた次郎は、自分のせいでヤスを不幸にしてしまったのではないかと思い悩む。
「次郎くんのせいじゃない」と慰めるイガも「次郎くんはもっと強いチームに行ったほうがいいと思う」と本音を伝える。イガにさえ邪魔者扱いされたと思い込んだ次郎は、失意のうちにバンビーズを去ることになる。

U12で初めて登板する次郎

U12日本代表チームに合流した次郎だったが、イガやヤスたちとの別れを引きずり「来たくて来たんじゃない」とチームに溶け込めずにいた。それでも心配して声をかけてくれる円と桃吾にも冷たく当たってしまう。その態度に腹を立て、次郎がいなければエースナンバーをつけていたのは円だったと言った桃吾に「こんなユニフォームいらないから円にあげる」と次郎はその場に脱ぎ捨てる。カッとした桃吾は次郎を殴ってしまう。
監督は「来たくて来たんじゃない」という次郎の発言を天狗になっているからだと考え、野球はピッチャーだけでは出来ないことをわからせようとする。そして監督は中学生全国1位の枚方ベアーズ(ひらかたべあーず)との練習試合に次郎を先発起用することを決める。

桃吾とのバッテリーで初めての試合に登板した次郎は、周囲の思惑とは異なり順調にアウトを重ねていく。唯一のピンチとなった枚方ベアーズの4番今村結弦(いまむらゆづる)との対戦では、練習では一度も見せたことのないセットポジションからのクイックモーションで完全にタイミングを外す。自らの工夫で三振を取っていく次郎に、監督やコーチは次第に怖れを抱くようになる。
リトルリーグの試合は6回で終了するため、4回を終え次郎の投球にもノーヒット・ノーランが見えてくる。その途中で次郎は桃吾に「相手が可愛そうだから、点にならない程度に1、2本打たせてあげよう」と言い出す。自分の成績より、敵も味方も楽しく試合をしたいという次郎が理解できない桃吾は「おまえはカスや」と怒りをあらわにする。しかもそれを立ち聞きしていたコーチの真木(まき)は、次郎には圧倒的な挫折が必要なのではないかと考える。この試合で次郎が打たれることを望む自分と他の選手がその犠牲になってしまうことを考え、真木は苦悩する。
結局規定の6回を終え試合は0対0の引き分けに終わり、次郎はノーヒット・ノーランで枚方ベアーズを抑える。試合後相手の選手に泣かれたり、保護者から文句を言われるかと次郎は心配する。しかし枚方ベアーズの選手から健闘を称えられた次郎は、自分の知らない野球があることを知る。

しかし一方で1人で枚方ベアーズを0点に抑えた次郎に対し、他のチームメイトは点を取って援護をしてやれなかったと罪悪感を感じてしまう。また1人で試合をしてしまった次郎にしらけてしまった選手もいた。それ故に試合を楽しむような余裕もなく、チームメイトは試合後も次郎を避けるような態度を取ってしまう。
そんな中、ムードメイカーの円はベンチから大声で応援していたが、一瞬「同じ学年にこいつずっとおんのか」と思ってしまう。

試合後のミーティング

試合後、次郎は監督の並木貴幸(なみきたかゆき)とミーティングを行う。
打てなかったことを詫びるチームメイトが楽しそうじゃなかったことを次郎は気に病む。チームも相手も楽しかったと思えるような試合をするには、自分はどうすべきだったのかと次郎は監督に尋ねる。
並木監督は次郎が相手チームにわざと打たせようとしたこともわかっていた。しかし「敵も味方も楽しい試合をするというのは難しいかもしれない」と前置きした上で、「自分や他人に期待することをやめないでほしい」と次郎にアドバイスする。
一方円は関根コーチとの会話で、2番手ピッチャーに甘んじることなくこれからもずっと次郎と戦っていくことを決意する。

その後並木監督、真木コーチ、次郎、桃吾の4人で試合の振り返りが行われる。次郎が与えた唯一の四球を「誤審だった」と言う桃吾に監督は、「桃吾のミットが流れたことで四球になった」と指摘する。自分のせいで完全試合を逃したことに気づいた桃吾は次郎に謝るが、そもそも完全試合やノーヒット・ノーランを達成することに関心のない次郎とは全く噛み合わず、次郎はまた桃吾を怒らせてしまう。

そしてチームは世界大会に出場するため台湾に移動する。

U12世界大会での優勝

台湾で行われる世界大会でも次郎は好投を続けていた。しかし1点リードの場面でわざと打たせてアウトを取ろうとして、監督に怒られる。
順調に勝ち進む日本代表チームは、次郎以外の選手ものびのびとプレーするようになっていた。円も好投し、キャプテンの椿を始め、次郎と同室の奈津緒(なつお)、そして4番バッターの桃吾の打線も繋がり始めていた。ただ選手の多くが台湾での食事には苦戦していた。

決勝戦に進出した日本代表はアメリカと対戦する。アメリカのピッチャーはコントロールはあまりないものの球速はあるタイプで全員が打ちあぐねていた。
日本代表は次郎に完投させる作戦を取った。投手戦となった試合は両チームとも点を取ることが出来ず、規定の6回を終え延長タイブレークに入る。次郎は球数制限内で1つでも多くアウトを取ることを考え始める。
ランナー1、2塁で始まった7回の表、次郎は先頭の4番打者を申告敬遠する。アメリカの4番バッターはカットが得意で、球数を気にする次郎には邪魔な相手であったからだった。続く5、6、7番バッターを次郎は三振にとるが、勝利のために4番と勝負を避けたと考えた円は「勝負したくないのか」と信じられない表情を見せる。
7回の裏の日本代表の攻撃も先頭バッターが四球を選び、ノーアウト満塁で打順は次郎に回る。アメリカのピッチャーが投げたボールは、次郎の頭に向かって飛んできた。一瞬の間に「怪我したらもう投げられない」「でもデッドボールだったらサヨナラ勝ち」「バットに当たって前に転がったらアウトになる」などと考えた次郎は「バットに当たったらマズい」と考え、結果デットボールになってしまう。
次郎のデットボールによる押し出しで勝利した日本代表のメンバーは、自分たちで点を取れなかった不甲斐なさから手放しで喜べずにいた。せっかく勝ったのに喜ぶ顔を見せないチームメイトに次郎は再び困惑する。

足立フェニックスに入団

次郎はU12が終わった後の所属チームについて並木監督に相談する。強豪の足立フェニックスに入団して、故障でもしたらもったいないと考える監督は、今のままで足立バンビーズのままでも良いのではないかと提案する。
次郎は並木監督の開いている野球塾に入れてもらえないか頼む。次郎を手元において育成することに魅力を感じながらも、中学2年生の自分の息子のそばには置いておけないと考えてしまう監督は次郎の入塾を断ってしまった。
監督に断られた次郎は足立バンビーズにも、強豪チームの足立フェニックスにも入団しないことを母親に伝える。弱小のバンビーズで本気でやろうとしたり、代表チームの試合で相手の心配をしたり、これまでの自分は中途半端であったと反省していた。
リトルリーグにも入らず、おじさんたちに混じって草野球チームに入れてもらおうとなんとなく思っていた次郎の前に、足立フェニックスのテストに合格し入団したイガが現れる。

突然現れたイガは、強豪チームの足立フェニックスの入団試験に合格していた。
一緒に足立フェニックスで野球をしようというイガの誘いに乗り、次郎はあることを条件に足立フェニックスに入団する。
その条件とは中学1年の夏までは足立フェニックスで野球をするが、それ以降はイガと2人で新しいチームを立ち上げることであった。
2人が理想とするチームは野球が下手でも上手でも誰でも入れ、皆が平等なチームだった。しかもそれまでの1年間も成長痛を理由に試合には参加しないことを次郎は考える。

そんな時大阪の枚方ベアーズとの練習試合で、次郎たちは大阪を訪れる。そこで次郎は枚方ベアーズの補欠で同い年の園大和(そのやまと)と出会う。U12での次郎のピッチングを見ていた大和は、次郎が何を考えて投げていたか質問する。他の人とは出来なかったハイレベルな会話をした次郎と大和は、実戦での再会を約束する。

一方イガは足立フェニックスのエースの塚原真夜(つかはらまよ)にブルペンに誘われる。他のメンバーからは次郎の腰巾着としか見られない自分を、チームメンバーとして認めてくれた真夜に嘘をつき続けることに、イガは罪悪感を感じ始める。イガは次郎に仮病を使うことを止め、1年後退団することを正直に話した上で、しっかり野球に向き合おうと言い出す。しかし自分が真剣に野球をやることで、また誰かを傷つけてしまうことを次郎は心配する。「自分には人を敗かす覚悟がない」と次郎は一旦は断るが、イガの熱意に負けしぶしぶ監督たちに1年後退団することを伝える。しかし監督たちはチームには公表しないことを決めてしまう。
試合に出ることになった次郎はスライダーだけで一試合投げることをキャッチャーの嬉野(うれしの)に伝える。最初は反発するキャッチャーも次郎の球威とコントロールを目の当たりにし、スライダーだけでのリードをするようになる。
圧倒的な実力で完封を続ける次郎は、この試合1人の打者も塁に出さない完全試合にすることをメンバーに伝えるのだった。

『ダイヤモンドの功罪』の登場人物・キャラクター

主人公

綾瀬川次郎(あやせがわじろう)

本作の主人公。
スポーツ万能の小学5年生。スポーツ万能というレベルではなく、どんな競技でもその年代の子たちの上を行くほどの才能を持つ。
人と競うことが苦手で、スポーツの勝敗よりも人との和を重視する。自分がいることで周囲の子が叱られることを怖れ、できないふりをすることもしばしばある。
ふとしたきっかけで足立バンビーズのチラシを目にし、「楽しそう」という理由で入団を決める。入団当初はチームメイトに歓迎され、本人も野球を楽しむ。しかし次郎の球を取れるキャッチャーがおらず、試合には出られない。それを心配した監督により、U12選抜に推薦される。本人は嫌がるも、監督に熱心に勧められいやいや選考会に参加する。
選考会で出会った雛桃伍が自分の球をちゃんと捕球できることに嬉しさを感じ、選抜チームのメンバーと野球に深く関わっていくことになる。

足立バンビーズ

五十嵐温之(いがらしはるゆき)

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