よりみちエール(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『よりみちエール』とは敦森蘭によって2020年から2021年まで講談社『ヤングマガジンサード』で連載された、クラフトビールを題材とした日本の漫画である。若手でイケメンのハーフ俳優・藤田アラン(ふじた あらん)とアラフィフ映画監督・高田頼道(たかだ よりみち)は、ひょんな事からクラフトビールを飲みながら語り合う仲になる。2人の過去や心の繋がり、またクラフトビールの奥深さが楽しめる作品である。

『よりみちエール』の概要

『よりみちエール』とは敦森蘭によって2020年から2021年まで講談社『ヤングマガジンサード』に連載された、クラフトビールを通して主人公2人が絆を深めていく「ビア活」漫画で、単行本が2巻発売されている。2020年から2021年まで講談社『ヤングマガジンサード』に連載され、単行本は全2巻。キャッチコピーは「イケメン×枯れオジ、男2人の青春ビア活漫画」で、話数はビールサーバーの注ぎ口である「TAP(タップ)」で表現されている。監修は日本ビアジャーナリスト協会代表の藤原ヒロユキが務める。
ハーフでイケメンの若手俳優・藤田アランは人生に行き詰まっていたが、映画監督・高田頼道の作品に救われ、頼道の作品に出たいと役者を志した。見た目も性格も全く違い、年齢も親子ほど離れている2人は偶然出会い、クラフトビールを飲みに行くという頼道にアランは無理矢理ついていく。クラフトビールの知識が皆無だったアランだったが次第にその魅力にハマり、頼道には恋心を抱くようになる。そして2人は「寄り道」と称し、夜な夜なクラフトビールを飲みながら語り合う仲になる。「ビア活」を通じて親しくなっていく頼道とアランの過去や2人を巡る人間関係のドラマが魅力である。またクラフトビールの種類や楽しみ方、料理とのペアリングが紹介されておりビールについての知識を深めることができる。また作品内に登場する店は全て実在している。単行本の毎話終わりには監修の藤原によるコラム「ヒロユキエール」が掲載され、ビールや登場店舗についてのコメントを読むことができる。

『よりみちエール』のあらすじ・ストーリー

頼道とアランの出会い

高田頼道(たかだ よりみち)は実力派映画監督だったが、ある事がきっかけで映画を撮ることをやめCMなどの映像制作の仕事をしていた。そんな彼には妻にも内緒にしている帰宅途中の「寄り道」がある。それは若手俳優・藤田アラン(ふじた あらん)と一緒に、料理と合わせたクラフトビールを飲みながら語り合う「ビア活」だ。今日も待ち合わせ先の店「Y.Y.G Brewery & Beerkitchen」へ向かう頼道。注文したビールに合う料理を選んでもらい、SNS用の料理写真を撮るアランを尻目に頼道はビールを喉に流し込む。注ぎたての最良の状態のビールを飲むことが造り手へのささやかな敬意だと考える頼道は、乾杯する間も惜しむのだ。そして美味しそうにビールを飲む頼道を見つめるアラン。
8年前、人生の闇の中を彷徨っていたアランは、手元にあった映画のDVDを観終えたら死のうと考えた。だが観終えた時には闇は消え明るい朝がやってきていた。その映画は頼道が監督した『朧光(ほうこう)』という作品で、彼の作品に出たいとアランは役者を志したのだった。
ある時、演劇のワークショップを終えたアランは、頼道に偶然声をかけられる。頼道のファンであることを伝えたアランは「僕もビールが大好きなんです!」と嘘をつき、クラフトビールを飲みにいくという頼道にお供することになる。本当はビールが苦手だったアランだが、初めて飲んだクラフトビールの美味しさにその概念は覆り、またおおらかな頼道に対しては恋心を抱くようになる。
頼道はアランを連れていく店を選ぶのに彼と同世代の部下・黒澤にアドバイスを求めた。「歳の離れた相手と飲みに行くなら、落ち着いた雰囲気でくつろげるお洒落なカフェがいい」と黒澤に言われ、頼道はブルーノート・ジャパンが手がける自由が丘の「BLUE BOOKS cafe」にアランを誘う。
ジャズが流れるお洒落な店内でオリジナルクラフトビールの「ブルーノート東京ビール」を注文する2人。ビールの美味しさを覚え始めたアランは、その美味しさを映画に例えて表現し、頼道は「言い得て妙だな」と言う。頼道はアランと初めてビールを飲みに行った際、その飲み方を見て彼がビール好きだというのが咄嗟についた嘘と気づいていた。1人では店が周りづらいというアランにビールの魅力を伝えるのが楽しくなっていたのだった。

距離の近づく2人

映画のオーディションを受けたアランの演技は審査員から酷評される。誰かを本気で愛したことがないアランは、「君を愛している」と言う台詞を上手く表現できなかったのだ。落ち込むアランに頼道から「寄り道」の誘いが入り、北千住のバー「びあマ」という店へ向かう。
アランが落ち込んでいることに気づいた頼道は、彼の気持ちを盛り上げようとスタッフや他の客を巻き込みゲームを始める。するとある客から頼道に「アランのお芝居の方はどうなの?」と質問が飛ぶ。アランはオーディションで酷評を受けた後には聞きたくないと逃げようとするが、頼道は「彼はまだまだ場数は少ないけれど、未知数の伸びしろがある。いずれ化けますよ」と評価した。それを聞いて高揚したアランは飲み過ぎて寝てしまい、頼道におぶわれて帰るのだった。
ある日念入りに自宅の掃除をするアラン。頼道から「来週空けといてー。遊びに行くから」と言われていたのだ。だが頼道は黒澤も伴ってやって来た。2人きりだと思っていたアランは愕然とする。頼道は皆でビールと料理のペアリング会をするつもりだったのだ。
ビールに合わせる料理を作るエプロン姿の頼道に萌えるアランは、彼とキッチンにいたかったが、黒澤に呼ばれ渋々リビングでビールを飲み始める。お菓子を食べた手で『朧光』の本を手に取る黒澤にうんざりするアランだが、彼女が「この時の撮影大変だったなぁ」とつぶやくのを聞き、頼道と黒澤の付き合いが長いことを知る。また頼道が昔は新人俳優も裏方としてバンバン使うめちゃくちゃ怖い鬼だったと黒澤から聞き、驚くアランだった。
頼道の作るオイルサーディンの簡単おつまみは、ビールとのペアリングもバッチリで盛り上がった3人。最後はバニラアイスに黒ビールをかけたアフォガード風のデザートで締めた。
黒澤と楽しそうに話すアランを見て、頼道は「黒澤ちゃん連れてきて正解だったな」と言った。以前アランが友達があまりいないと頼道に言ったことを覚えていたのだ。そのことに嬉しくて心をときめかせるアランだった。

頼道が映画から離れた理由

馴染みの店で1人飲みをする頼道の元へ、映画監督仲間であり大学の同期だった末延和寿(すえのぶ かずとし)がやって来た。末延は自身の次回作の演出担当を頼道に依頼するが、頼道は映画の仕事はもう辞めたと断る。しかしその作品で準主役にアランを起用すると末延が言い、驚く頼道。そこへアランから頼道に呼び出しのメールが届く。
アランが誘った店は醸造所を併設するパブで、店のビールは全て実在する曲からインスパイアされたものだった。頼道は美味しいビールに加え、店内での生ライブに大興奮。その様子を見たアランは「ここに大好きな頼道さんと来たかったんです」とさりげなく伝えるが、頼道は酔っているがゆえの聞き間違いだと思い込んだ。そしてアランが末延の次回作に起用されることを思い出した頼道は、アランにその事を伝えお祝いをしようと言う。大興奮のアランが末延を称賛するのを聞き、少し嫉妬にかられる頼道だった。
一方、末延は店のマスターと「高田のヤツ、今日蓬莱(ほうらい)の命日だからここへ来たのかもなぁ」と頼道の過去について話をするのだった。
映画監督を目指す学生だった頼道は、大学の卒業式の日、同級生で役者を目指していた蓬莱と将来の夢について語っていた。その約20年後、頼道は蓬莱の葬式で「彼が死んだのは俺のせいだ」と肩を落としていた。蓬莱の死がきっかけで映画を撮ることをやめた頼道に対して、末延は彼を映画界に戻そうと次回作の演出の打診を続けていた。
アランは頼道が映画から離れていることを受け止めながらも、「いつか頼道さんの映画に出ることが僕の夢です」と頼道に告げる。その言葉に頼道は末延の映画の演出を引き受ける決心をし、映画の衣小合わせ(衣装と小道具合わせ)の場に現れる。しかしそこには役柄に合わせ髪を黒く染めたアランがおり、その姿を見た頼道は顔色を変え「蓬莱…」と呟き倒れてしまう。

映画の公開中止の危機

テスト撮影に入るアランだったが、頼道が「蓬莱」と呟いて倒れたことが気になり芝居に身が入らず、主演の大人気二世俳優・土岐正治(とき せいじ)から「演技が下手すぎてびっくりした」と言われてしまう。
撮影後、土岐は決起集会と言って頼道とアランの2人を原宿の「ベアードタップルーム」という店に誘う。そこで土岐は「アランが芝居に集中できないのは頼道が倒れたのが原因ではないか」と焚き付ける。頼道は「要らぬ心配で芝居を疎かにするな」とアランに言い、それを聞いたアランは「心配するに決まってるでしょう!!」と怒る。「自分の独りよがりで馬鹿みたいだ」と呟いたアランは「これからはビールも1人で飲みに行けるんで」と言い残し、帰ってしまう。
翌日の撮休日、外で台本読みをしていたアランは寒さに震え、錦糸町のバーを併設した銭湯「黄金湯(おうごんゆ)」へやって来た。そこで偶然頼道に会う。昨日のことが気まずいアランに頼道は「自分も今日は撮影に身が入らなかった」と素直に謝罪した。アランも「過去のことは一緒に背負うことができるから、話せるようになったら聞かせて欲しい」と頼道に言い、2人は湯上がりにクラフトビールで乾杯した。
その後アランは無事クランクアップを迎え、代官山の台湾料理店「AKUBI(あくび)」で頼道と2人で打ち上げをする。そこで頼道が映画に参加した理由が「アランを少しでも手助けしたいから」だったということを知り、涙するアラン。「頼道さんは僕にとって、枯渇した僕の心を生き返らせてくれる人です」と気持ちを伝えるのだった。
そしてアランの出演した映画の試写会が、天王洲にあるブルワリーとレストランが併設された「T.Y.HARBOR」で行われた。アランは土岐から頼道が学生時代に撮影した8ミリ作品のDVDを入手し試写会も楽しんでいた。そこへ映画の主演の1人である森海千津(もりうみ ちづ)が麻薬所持で逮捕されたという一報が飛び込んできた。

救い合う2人

騒然とする試写会会場で末延が「この件は俺がなんとかするから、みんなは連絡を待ってくれ」と言い、その場を収める。その後アランは頼道に「何かできることがあったら言ってください」とメールを送るが返信はなく、自身の無力さを感じながら、土岐から借りたDVDを手に取る。「見たら感想くださいね」と言った土岐を思い出しながら再生すると、そこにはアランと瓜二つの男が映っていた。内容は俳優である男を追ったフェイクドキュメンタリーで、男は劇中劇で境界性人格障害を患う役を演じるが、やがて現実と役の区別がつかなくなり自死するというものだった。そしてその男を演じる俳優こそが蓬莱だったのだ。
アランは頼道と連絡が取れないことについて末延と話をする。末延は「今回の件も高田は自分が映画に関わってしまったせいだと思い込んでるのかもしれない。高田は映画は罪だと思ってる。あいつはずっと罪の償いをしてるんだ」とアランに言った。蓬莱は現実でも同じように自死してしまったのだと悟るアラン。いてもたってもいられなくなったアランは、土岐がTVの生放送番組に出演すると知り、彼に連絡を取るのだった。
土岐は生放送番組にアランを勝手に出演させる。そこでアランは「どれだけ贖っても、罪は永久に滅びない。9年前に見た映画のおかげで今の自分があって、映画が罪だというなら僕はその罪で救われたんです。だから一人で背負い込まないで」と頼道に呼びかけた。
番組を見た頼道はTV局にアランを迎えに行き「アランは私の光だ」と伝えるのだった。

『よりみちエール』の登場人物・キャラクター

主人公

高田 頼道(たかだ よりみち)

主人公の1人で52歳の映画監督。温厚な性格で、仕事帰りに「寄り道」をしてクラフトビールを飲むのが好き。部下の黒澤からは若い頃は鬼のように厳しかったと言われている。末延・蓬莱は大学時代からの仲間で、蓬莱の死の原因が自分の撮った映画にあると考え「映画は罪だ」と思うようになり、映画を撮ることを辞めている。

藤田 アラン(ふじた あらん)

主人公の1人で25歳、ハーフのイケメン新人俳優。人生に行き詰まり自殺を考えていた時、頼道が監督した映画『朧光』に救われて彼の作品に出たいと考え、役者を志した。頼道には片想い中である。初めて飲んだクラフトビールの味を映画に喩えて表現するのが特技。頼道に出会うまではビールが苦手であったが、頼道と2人でビールを飲みに行くようになりクラフトビールの知識もどんどん深まっている。序盤では自分より若い役者たちが、自分をどんどん追い抜いていくことに自身を情けなく思っていたが、頼道に励まされる。末延の映画では準主役に抜擢され「ジャパンアカデミー賞」の助演俳優賞にノミネートされるまでに至った。

頼道の関係者

黒澤(くろさわ)

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