【裏S区】日本各地に伝わる古い都市伝説まとめ!ゾッとする怖い話が満載【八尺様】

ネットで見つけた日本各地の怖くて不思議な伝承や民話などを集めました。九州が舞台の「裏S区」や、ネットで有名な「八尺様」、東北の伝承「アカエ様」など、ゾッとする怖い話を紹介していきます。

親父の実家は自宅から車で二時間弱くらいのところにある。
農家なんだけど、何かそういった雰囲気が好きで、高校になってバイクに乗るようになると、夏休みとか冬休みなんかにはよく一人で遊びに行ってた。
じいちゃんとばあちゃんも

「よく来てくれた」

と喜んで迎えてくれたしね。
でも、最後に行ったのが高校三年にあがる直前だから、もう十年以上も行っていないことになる。
決して「行かなかった」んじゃなくて「行けなかった」んだけど、その訳はこんなことだ。

春休みに入ったばかりのこと、いい天気に誘われてじいちゃんの家にバイクで行った。
まだ寒かったけど、広縁はぽかぽかと気持ちよく、そこでしばらく寛いでいた。そ
うしたら、

「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」

と変な音が聞こえてきた。
機械的な音じゃなくて、人が発してるような感じがした。
それも濁音とも半濁音とも、どちらにも取れるような感じだった。

何だろうと思っていると、庭の生垣の上に帽子があるのを見つけた。
生垣の上に置いてあったわけじゃない。
帽子はそのまま横に移動し、垣根の切れ目まで来ると、一人女性が見えた。
まあ、帽子はその女性が被っていたわけだ。
女性は白っぽいワンピースを着ていた。

でも生垣の高さは二メートルくらいある。
その生垣から頭を出せるってどれだけ背の高い女なんだ…
驚いていると、女はまた移動して視界から消えた。
帽子も消えていた。
また、いつのまにか「ぽぽぽ」という音も無くなっていた。

そのときは、もともと背が高い女が超厚底のブーツを履いていたか、踵の高い靴を履いた背の高い男が女装したかくらいにしか思わなかった。

その後、居間でお茶を飲みながら、じいちゃんとばあちゃんにさっきのことを話した。

「さっき、大きな女を見たよ。男が女装してたのかなあ」

と言っても「へぇ~」くらいしか言わなかったけど、

「垣根より背が高かった。帽子を被っていて『ぽぽぽ』とか変な声出してたし」

と言ったとたん、二人の動きが止ったんだよね。
いや、本当にぴたりと止った。
その後、

「いつ見た」
「どこで見た」
「垣根よりどのくらい高かった」

と、じいちゃんが怒ったような顔で質問を浴びせてきた。
じいちゃんの気迫に押されながらもそれに答えると、急に黙り込んで廊下にある電話まで行き、どこかに電話をかけだした。
引き戸が閉じられていたため、何を話しているのかは良く分からなかった。
ばあちゃんは心なしか震えているように見えた。
じいちゃんは電話を終えたのか、戻ってくると、

「今日は泊まっていけ。いや、今日は帰すわけには行かなくなった」

と言った。
何かとんでもなく悪いことをしてしまったんだろうか。
と必死に考えたが、何も思い当たらない。
あの女だって、自分から見に行ったわけじゃなく、あちらから現れたわけだし。

そして、

「ばあさん、後頼む。俺はKさんを迎えに行って来る」

と言い残し、軽トラックでどこかに出かけて行った。
ばあちゃんに恐る恐る尋ねてみると、

「八尺様に魅入られてしまったようだよ。じいちゃんが何とかしてくれる。何にも心配しなくていいから」

と震えた声で言った。
それからばあちゃんは、じいちゃんが戻って来るまでぽつりぽつりと話してくれた。

この辺りには「八尺様」という厄介なものがいる。
八尺様は大きな女の姿をしている。
名前の通り八尺ほどの背丈があり、「ぼぼぼぼ」と男のような声で変な笑い方をする。

人によって、喪服を着た若い女だったり、留袖の老婆だったり、野良着姿の年増だったりと見え方が違うが、女性で異常に背が高いことと頭に何か載せていること、それに気味悪い笑い声は共通している。
昔、旅人に憑いて来たという噂もあるが、定かではない。
この地区(今は○市の一部であるが、昔は×村、今で言う「大字」にあたる区分)に地蔵によって封印されていて、よそへは行くことが無い。
八尺様に魅入られると、数日のうちに取り殺されてしまう。
最後に八尺様の被害が出たのは十五年ほど前。

これは後から聞いたことではあるが、地蔵によって封印されているというのは、八尺様がよそへ移動できる道というのは理由は分からないが限られていて、その道の村境に地蔵を祀ったそうだ。
八尺様の移動を防ぐためだが、それは東西南北の境界に全部で四ヶ所あるらしい。
もっとも、何でそんなものを留めておくことになったかというと、周辺の村と何らかの協定があったらしい。
例えば水利権を優先するとか。
八尺様の被害は数年から十数年に一度くらいなので、昔の人はそこそこ有利な協定を結べれば良しと思ったのだろうか。

そんなことを聞いても、全然リアルに思えなかった。
当然だよね。
そのうち、じいちゃんが一人の老婆を連れて戻ってきた。

「えらいことになったのう。今はこれを持ってなさい」

Kさんという老婆はそう言って、お札をくれた。
それから、じいちゃんと一緒に二階へ上がり、何やらやっていた。
ばあちゃんはそのまま一緒にいて、トイレに行くときも付いてきて、トイレのドアを完全に閉めさせてくれなかった。
ここにきてはじめて、「なんだかヤバイんじゃ…」と思うようになってきた。

しばらくして二階に上がらされ、一室に入れられた。
そこは窓が全部新聞紙で目張りされ、その上にお札が貼られており、四隅には盛塩が置かれていた。
また、木でできた箱状のものがあり(祭壇などと呼べるものではない)、その上に小さな仏像が乗っていた。
あと、どこから持ってきたのか「おまる」が二つも用意されていた。
これで用を済ませろってことか…

「もうすぐ日が暮れる。いいか、明日の朝までここから出てはいかん。俺もばあさんもな、お前を呼ぶこともなければ、お前に話しかけることもない。そうだな、明日朝の七時になるまでは絶対ここから出るな。七時になったらお前から出ろ。家には連絡しておく」

と、じいちゃんが真顔で言うものだから、黙って頷く以外なかった。

「今言われたことは良く守りなさい。お札も肌身離さずな。何かおきたら仏様の前でお願いしなさい」

とKさんにも言われた。

テレビは見てもいいと言われていたので点けたが、見ていても上の空で気も紛れない。
部屋に閉じ込められるときにばあちゃんがくれたおにぎりやお菓子も食べる気が全くおこらず、放置したまま布団に包まってひたすらガクブルしていた。

そんな状態でもいつのまにか眠っていたようで、目が覚めたときには、何だか忘れたが深夜番組が映っていて、自分の時計を見たら、午前一時すぎだった。
(この頃は携帯を持ってなかった)

なんか嫌な時間に起きたなあなんて思っていると、窓ガラスをコツコツと叩く音が聞こえた。
小石なんかをぶつけているんじゃなくて、手で軽く叩くような音だったと思う。
風のせいでそんな音がでているのか、誰かが本当に叩いているのかは判断がつかなかったが、必死に風のせいだ、と思い込もうとした。
落ち着こうとお茶を一口飲んだが、やっぱり怖くて、テレビの音を大きくして無理やりテレビを見ていた。

そんなとき、じいちゃんの声が聞こえた。

「おーい、大丈夫か。怖けりゃ無理せんでいいぞ」

思わずドアに近づいたが、じいちゃんの言葉をすぐに思い出した。
また声がする。

「どうした、こっちに来てもええぞ」

じいちゃんの声に限りなく似ているけど、あれはじいちゃんの声じゃない。
どうしてか分からんけど、そんな気がして、そしてそう思ったと同時に全身に鳥肌が立った。
ふと、隅の盛り塩を見ると、それは上のほうが黒く変色していた。

一目散に仏像の前に座ると、お札を握り締め、

「助けてください」

と必死にお祈りをはじめた。
そのとき、

「ぽぽっぽ、ぽ、ぽぽ…」

あの声が聞こえ、窓ガラスがトントン、トントンと鳴り出した。
そこまで背が高くないことは分かっていたが、アレが下から手を伸ばして窓ガラスを叩いている光景が浮かんで仕方が無かった。
もうできることは、仏像に祈ることだけだった。

とてつもなく長い一夜に感じたが、それでも朝は来るもので、つけっぱなしのテレビがいつの間にか朝のニュースをやっていた。
画面隅に表示される時間は確か七時十三分となっていた。
ガラスを叩く音も、あの声も気づかないうちに止んでいた。
どうやら眠ってしまったか気を失ってしまったかしたらしい。
盛り塩はさらに黒く変色していた。

念のため、自分の時計を見たところはぼ同じ時刻だったので、恐る恐るドアを開けると、そこには心配そうな顔をしたばあちゃんとKさんがいた。
ばあちゃんが、よかった、よかったと涙を流してくれた。

下に降りると、親父も来ていた。
じいちゃんが外から顔を出して

「早く車に乗れ」

と促し、庭に出てみると、どこから持ってきたのか、ワンボックスのバンが一台あった。
そして、庭に何人かの男たちがいた。

ワンボックスは九人乗りで、中列の真ん中に座らされ、助手席にKさんが座り、庭にいた男たちもすべて乗り込んだ。
全部で九人が乗り込んでおり、八方すべてを囲まれた形になった。

「大変なことになったな。気になるかもしれないが、これからは目を閉じて下を向いていろ。俺たちには何も見えんが、お前には見えてしまうだろうからな。いいと言うまで我慢して目を開けるなよ」

右隣に座った五十歳くらいのオジさんがそう言った。

そして、じいちゃんの運転する軽トラが先頭、次が自分が乗っているバン、後に親父が運転する乗用車という車列で走り出した。
車列はかなりゆっくりとしたスピードで進んだ。
おそらく二十キロも出ていなかったんじゃあるまいか。
間もなくKさんが、

「ここがふんばりどころだ」

と呟くと、何やら念仏のようなものを唱え始めた。

「ぽっぽぽ、ぽ、ぽっ、ぽぽぽ…」

またあの声が聞こえてきた。
Kさんからもらったお札を握り締め、言われたとおりに目を閉じ、下を向いていたが、なぜか薄目をあけて外を少しだけ見てしまった。

目に入ったのは白っぽいワンピース。
それが車に合わせ移動していた。
あの大股で付いてきているのか。
頭はウインドウの外にあって見えない。
しかし、車内を覗き込もうとしたのか、頭を下げる仕草を始めた。
無意識に

「ヒッ」

と声を出す。

「見るな」

と隣が声を荒げる。
慌てて目をぎゅっとつぶり、さらに強くお札を握り締めた。

コツ、コツ、コツ

ガラスを叩く音が始まる。
周りに乗っている人も短く「エッ」とか「ンン」とか声を出す。
アレは見えなくても、声は聞こえなくても、音は聞こえてしまうようだ。
Kさんの念仏に力が入る。

やがて、声と音が途切れたと思ったとき、Kさんが

「うまく抜けた」

と声をあげた。
それまで黙っていた周りを囲む男たちも

「よかったなあ」

と安堵の声を出した。

やがて車は道の広い所で止り、親父の車に移された。
親父とじいちゃんが他の男たちに頭を下げているとき、Kさんが

「お札を見せてみろ」

と近寄ってきた。
無意識にまだ握り締めていたお札を見ると、全体が黒っぽくなっていた。
Kさんは

「もう大丈夫だと思うがな、念のためしばらくの間はこれを持っていなさい」

と新しいお札をくれた。
その後は親父と二人で自宅へ戻った。
バイクは後日じいちゃんと近所の人が届けてくれた。
親父も八尺様のことは知っていたようで、子供の頃、友達のひとりが魅入られて命を落としたということを話してくれた。
魅入られたため、他の土地に移った人も知っているという。

バンに乗った男たちは、すべてじいちゃんの一族に関係がある人で、つまりは極々薄いながらも自分と血縁関係にある人たちだそうだ。
前を走ったじいちゃん、後ろを走った親父も当然血のつながりはあるわけで、少しでも八尺様の目をごまかそうと、あのようなことをしたという。
親父の兄弟(伯父)は一晩でこちらに来られなかったため、血縁は薄くてもすぐに集まる人に来てもらったようだ。

それでも流石に七人もの男が今の今、というわけにはいかなく、また夜より昼のほうが安全と思われたため、一晩部屋に閉じ込められたのである。
道中、最悪ならじいちゃんか親父が身代わりになる覚悟だったとか。
そして、先に書いたようなことを説明され、もうあそこには行かないようにと念を押された。

家に戻ってから、じいちゃんと電話で話したとき、あの夜に声をかけたかと聞いたが、そんなことはしていないと断言された。

「やっぱりあれは…」

と思ったら、改めて背筋が寒くなった。

八尺様の被害には成人前の若い人間、それも子供が遭うことが多いということだ。
まだ子供や若年の人間が極度の不安な状態にあるとき、身内の声であのようなことを言われれば、つい心を許してしまうのだろう。

それから十年経って、あのことも忘れがちになったとき、洒落にならない後日談ができてしまった。

「八尺様を封じている地蔵様が誰かに壊されてしまった。それもお前の家に通じる道のものがな」

と、ばあちゃんから電話があった。
(じいちゃんは二年前に亡くなっていて、当然ながら葬式にも行かせてもらえなかった。じいちゃんも起き上がれなくなってからは絶対来させるなと言っていたという)

今となっては迷信だろうと自分に言い聞かせつつも、かなり心配な自分がいる。

「ぽぽぽ…」

という、あの声が聞こえてきたらと思うと…

くだん

出典: hemon.net

もう20年くらい前になるかな。
ある日、実家の父から電話があった。

先日、祖父の法要で田舎(父の実家)に帰ったとき、仏間で面白いものを見つけたから見に来いという。
実家まで車で30分ばかりだし、俺はさっそく行ってみた。

父は、他の家族の目をはばかるように俺を手招きすると奥へ向かった。
そして卓の前に座ると古そうな木の箱をとりだした。
そして顎をしゃくって開けて見ろという動作をした。

俺はよく要領を得ないまま蓋をとった。
正直、それを見た第一印象はウェッなんだこれといった感じだった。
綿の敷かれた箱の中に入っていたのは、体長20㎝程の猿の赤ん坊?のミイラだった。

既に目玉も鼻もなく、ぽっかりと穴が開いてるだけ。
剥き出した口には、ギザギザと小粒な歯が生えているので辛うじて人間とは違うなと思う。
ただ猿とも少し違うような。
何コレ?俺は父に尋ねた。

父はニヤニヤしながらワカランと首を振った。
祖父の部屋には、昔からオカしなものけっこうあったそうで、なんぞ面白いものでも無いかと漁っている内に天袋の中から見つけたそうである。
それを黙って持ち出してきたらしい。

俺も父もこういった珍品は大好きだったが、それにしてもこれは余りに薄気味悪く禍々しかった。
箱の面には何か札のようなものが貼ってあったが、文字はもう掠れていて読めなかった。

その日はそこそこ居て帰ったが、翌日から俺は体調を崩した。
熱があると言うわけでもないのに体が重く、体が火照った。
何をするのも億劫だった。
仕事も休んで部屋でゴロゴロしていた。

翌日も休む。
そこへ実家の父から電話が掛かってきた。
お前体に異変はないか、と尋ねてくる。
ヒドくダルそうな声だった。
俺が状況を説明をすると父も同じ状態らしい。
俺の頭にあのミイラの姿がよぎる。

そんな状態がダラダラと幾日か続いた後、再び父から電話がある。
父の所に叔父(父兄弟の長兄)から電話があったそうだ。
あのミイラを持ち出したことかバレた。

電話口で、鼓膜が破れる程怒鳴られたそうである。
直ぐにあれを持って戻ってこいと言う。
あれを見た俺も一緒に。

俺と父は重い体を引きずって、姉の運転する車で父の郷里にむかった。
到着すると、俺達は再び叔父に散々小言を言われた後、今度は叔父の運転する車で檀家になっている菩提寺へむかった。
叔父はあの箱を脇に抱えていた。

車中、父はあのミイラの事を尋ねた。
アレはいったい何なのですかと。
叔父はぶっきらぼうに、あれは、くだん、だと答えた。

くだんって、あの生まれてすぐ予言をして死んでいく牛の妖怪か?
何でも、数代も前のこの家の当主の嫁が産んだと伝えられているらしい。
病死なのか、もしくは余りに醜いので間引いたのかはわからないと言った。

また、嫁もその子を産んだときに死んだとも伝えられている。
ずいぶんと昔の話らしいが、これから行く寺の記録に数行だか残っているらしい。
その後、箱と俺と父は寺で経を上げてもらった。
つまりあれは人間ということになる。

件としたのは、人と明言するのを避けたかったからではないのか。
そしてアレは絶対に持ち出してはならないもので、毎年決まった日に菩提寺で経を上げてもらうそうだ。

丁度、数日前がその日だったが見つからない。
もしやと思って父に電話したそうだ。
叔父が言うには、オマエ等のお陰で経をあげてもらえず件が祟ったのだと言う。
あのまま放っておけは二人とも死んでいたぞ、とも。

辰眼童さま

出典: occugaku.com

もう8年前になるかな…

当時高校生で、夏休みの時期でした。
6年ぶりに、遠くに住んでる祖父母に会う、と父が言いました。
夏休みももうそろそろ終わりで、遊ぶ金も使い果たしたので暇つぶしにいいかなと。

祖母さん祖父さんもかなり年食ってて、会うのもこれが最後かな…とか孝行のつもりでも行きました。
祖父母は、某県の佐○島という田舎中の田舎に住んでました。
ビル等全く無く、文明に孤立したような雰囲気でした。
ところどころに、ほこらのようなものがありましたが、不思議に感じたのが、それに祀っている物です。

普通は、お稲荷さんとか…狛犬(?)とかじゃないですか。
でも、島中のほこらで祀ってるのは"目が一つの子供"。
よく、一つ目小僧とか、単眼入道とか、サイクロプスとか出てきますよね?そんな感じなんですよ。まぁこの島の伝統上の神様なんだろうな、とあまり気にはしませんでした。

港から車で一時間、祖父母の家に到着。
ぼろくせぇんだろうな、と思ってたが、自分の家とあまり変わらず、中も案外綺麗でした。
祖父さんは

「おっきくなっとんの!」

と大袈裟に歓迎してくれました。
居間にいき、デジャヴが起こりました。
掛け軸のようなものが飾っており、そこにはここにくる途中に見た、
一つ目の子供の絵がかかれてました。
俺は祖父に"これ"についてたずねてみると、

「これはぁな、不吉の象徴なんじゃ」

「不吉?なんでそんなもんまつっとんの?」

と俺は再度尋ねてみる。

「辰眼童(シマナオ)さまといっての。わしら愚かな島民が産み出したのじゃ…」

祖父さんは少し暗い顔になった。
俺は尋ねるのをやめた。

家にいてもやることもないので、外に出てみた。
家のすぐ裏には丘があり、何気なく登ってみる。
丘の頂からみた景色は結構良く、ずっとここにいても飽きが来なかった。
眠たくなったので、横になり、すぐに眠ってしまった。

そして眼が覚める。もう日が暮れていた。
彼奴等も心配してるだろうと思い、体を起こし、家に帰ることにした。

「キェィィィィ」

突然、俺の右側から、猿のような、女のような、子供のような、変な呻き声が聞こえてきた。
俺はビクッとしたが、地元の子供が騒いでるのだろうときにはしなかった。

丘を降りようとしたとき、後ろから声がした。
子供の声だった。
なんていったかはわからんかった。
後ろを振り返ると、2~3歳くらいの子供が立ってた。
暗くてよく顔はわからなかったけど、褐色の半纏のようなものを羽織ってた。

「ハッゼテ!ハッゼテ!」

と、意味がわからない言葉を発してた。
声にも違和感があり、鼻声(?)みたいな感じで掠れてた。
その子供は俺に手を差し出した。
何かをくれるような仕草だったので、俺も何も考えず手をだした。
子供は俺の手に"何か"を落とし、スー…と消えてった。
俺はポカーン(゚Д゚)としてたが、ふと我に返り、家に帰った。

玄関は明るかったので、さっき子供が俺に手渡した物を確認した。
…首飾りだった。
薄汚れた紐に、リング状のすべすべしたものがぶら下ってた。
汚かったのでとりあえずゴミ箱に捨てた。
祖父さんや父さんに先のことを言おうとしたが、やめといた。

そして夜も更け、寝床につく。
昼に寝てしまったせいか、寝れない。
自分はそんなの関係なしにぐっすり眠ってしまう体質なんだが、眠れなかった。

「ナシテ…」

寝室の窓のほうから声が聞こえた。
あのときの、子供の声だ。
俺はハッとなった。

「ナシテ…ナシテ…ステオッタ」

確かにあの掠れた"鼻声"だった。
俺は怖くなって、ふとんをかぶった。

すると、子供の声がだんだんと近づいてくるのに気づいた。
あ…やばい。
と思った瞬間、俺の足を誰かが踏んだ。
俺は

「わぁぁっ!」

と叫び起き上がった。
月の光でそいつの顔が照らされてた。
またしてもデジャヴ。

それは、ほこらに飾られてた、「辰眼童」の顔だった。
兎口に、鼻がなく、大きな一つの眼が顔にあった。
髪の毛は頭のてっぺんにちょんと乗った感じ。
俺はもうここで死んじゃうんじゃないかというくらいな動揺具合だった。
そいつは、俺の手をギッとつかむと、またもすっと消えてしまった。

そしてすぐに隣で寝てた親と祖父母が駆けつけてきた。

「どしおった?」

祖父さんが聞いてきたので、俺は一言だけこういった。

「今、辰眼童に会ったよ」

祖父さんと祖母さんはそれを聞くとかなり驚いてた。

「まっことか!?辰眼童様に会ったのけ!?祟られたのか!?」

祖父さんがすごい形相で俺に尋ねてる横で両親は困った、というかあきれた顔をしてた。
俺も何も言えなくなった。
そして、すぐにゴミ箱に捨てた首飾りを探した。
でも、何故か無かった。

朝になっても俺は鬱状態だった。
縁側の近くで崩れた状態で座ってるおれの前に、祖父さんが寄ってきて語り始めた。

「70年くらい昔にな、とある兄妹がおった。」

なんの話だ?と思ったが、俺はとりあえず耳を傾けた。

「その兄妹の仲はとてもよかったがな。愛は歪んでおった。ある日、妹の腹に、兄との子ができたことがわかったのじゃ。島の宗教上、血の繋がった者が交わるのは過剰に禁じられていた。禁を犯した者は処刑されるという厳しい掟があったのじゃ。そして、その兄妹も処刑されることが決まったんじゃ。しかし兄妹はそれを拒み、かけおちをしてしまった。島民どもは島から兄妹を出さずにと、船を出すのを禁じ、血眼になって兄妹を探した。そして、山奥の古小屋でその兄妹を見つけたんじゃ。妹は、赤子を抱いておった。産んでしまったのじゃ。それを見つけた島の男がその赤子を妹から横取り、殺そうとした。しかし、その男は悲鳴をあげその赤子を放り投げてしまったんじゃ。その赤子は、目が一つしか無かった。兎角、兄妹と赤子を島の奉行所に連れて行ったのじゃ。兄妹はすぐに首をはねられたが、一つ目の赤子を殺すと祟られるのではないかと皆は思い、処刑を延ばした。しかし、生かしておけば尚更禍がおきるであろうと、その赤子をも殺したのじゃ。その赤子には、魂をも滅しようと岩石で頭を潰し、体を切り刻み、海に捨てるという、酷な処刑法を施した。赤子を処刑し、数日が経ったであろうか、兄妹を処刑した3人の奉行人が死んだんじゃ。そして、赤子を処刑した奉行人、兄妹捜索に協力した30人の島民が相次いで死んだ。島民等は、一つ目の赤子がこやつ等を葬ったのと考えたのじゃ。そして、それから年に一人、幾処の産まれて間もない赤子が死んだ。島民等は一つ目の赤子の呪いじゃと思い、島中に赤子を祀るほこらが作られたんじゃ…。今でもその赤子は時たま島民の前に現れ、母がくれたのじゃろう、首飾りを渡しているそうじゃ。なぜ首飾りを渡すのはわからん…。」

祖父さんはそれを言い終わると立ち上がり、自分の部屋へと戻っていった。
俺はそれを聞くと、とても悲しい気分になった。

それから8年、まだ祖父母は健在だ。
1年にいっぺん祖父母のとこに行っている。

お宝

出典: occugaku.com

亡くなったウチのばあちゃんに昔聞いた話。
ばあちゃんは子供のころ、とても大きな家に住んでいたらしく大きな蔵も2つほどあったそうな。
1つめの蔵にはガラクタを。
2つめの蔵にはお宝を。
ばあちゃん家ではそうしていたらしい。

でも、なぜかその蔵に「絶対にしまわれない」お宝があったんだって。
ひとつは、甲冑。
実際に戦国時代に使われたとかいう、それはリッパなものだったそう。
座している格好で置いてあったそうだ。
そしてもうひとつが、今の炊飯器ぐらいの大きさの木箱で、鉄の縁取りがしてあって、赤茶に錆びた鎖でがんじがらめ。
カギ(南京錠のことだと思う)も2個ついていたとのことそれらは、とても怖かったというばあちゃんの祖父の部屋に常に並べて置いてあったそうでばあちゃんは、親祖父母から「絶対に触るな」とキツーく言われていた。

そもそもその祖父の部屋っていうのが、母屋じゃなくて離れにあって常に立ち入り禁止くさいものだったらしい。
んで ある日ばあちゃんが、弟と庭で遊んでたときに放った鞠が離れの屋根の上に載ってしまったそうな。
鞠が取れなくて困り、離れの中にいた祖父に声をかけたらつついて落とす棒か何かを探しに行ってくれた。

祖父を待ちながらウロウロしていたら、いつの間にか弟が居ない。
探したところ、離れの祖父の部屋の中で見つけたそうだ。
ところがその弟の様子がおかしい。
あの鎖でがんじがらめの箱を抱えて、しきりになにかフガフガしているんだと。
慌てて駆け寄ると、薄く白目をむきながら鎖に噛み付いてフガフガ言いながらそれを噛み千切ろうとしていたらしい。

弟の襟元も箱も畳も、よだれでビショビショばあちゃんは必死に弟を正気に戻そうと、ホッペタをひっぱたいたり揺さぶったりしたようなのだが、弟は全く意に介さず鎖をかみ続ける。
そしてなによりばあちゃんがビックリしたのは、弟が抱えている箱。
中から声が聞こえるんだそうだ。

「あけてくださいー」とか、
「あけて、あけてよう」とか

悲鳴を上げるとちょうど祖父が走って戻ってきたそうで、

「なにしてる!」

と一喝するやいなや弟から箱をふんだくり甲冑の隣へドスンと置いて弟は襟を掴んで水場へひっぱっていき、桶で何倍も水をかぶせたそうだ続いてばあちゃんも水をかぶせられたらしい。
弟はキョトンとしており、自分が何をしていたのか分からない様子で祖父に

「あの箱はなんなのか」

と聞いても

「知るな」

、と言われて、なしのつぶてだったそうだそしてついにその謎を知ることがないままばあちゃんは家を出て駆け落ちしたんだと(笑)

ちなみにその実家の場所は、長野の伊那?イナって場所だそうですご当地の方、ご近所にそんな屋敷ありませんか?

アカエ様

出典: hemon.net

東北のA県にある海沿いの町で育った俺らにとって、当然海岸近くは絶好の遊び場だった。
ただ何故か、かくれんぼだけは海の近くでやってはいけないと、周りの大人にきつく言われていた。

しかし、そこはしょせん子供、俺と近所のくそがきA太B朗C子の四人でかくれんぼをしたことがある。
当時のガキにしちゃあ、丸々と太っていた実質ガキ大将のC子が、どうしてもかくれんぼしたいって聞かなかったんで、俺ら男はなんか臆病者扱いされるのも嫌だったんで付き合うことしたんだわ。
しぶしぶ始めたとはいえ、海の近くで変なくぼみとか一杯あって、めちゃくちゃ楽しかった、てのを今でも覚えてる。
かくれんはじめて1時間くらいたったころ、A太が鬼だったんだけどC子がどうしても見つからない。

仕方なく、かくれんぼを中断して三人でC子を探すことにしたが、なかなか見つからないから、3人で手分けして探すことにした。
それでも見つからないから、もうあきらめて帰ろうと思ったとき、さっき調べても見つからなかった岩場のくぼみににC子を見つけた。

ただC子一人じゃなくて、なんかやたらと立派な和服をきた爺さんが一緒だった。
ガキだった俺は、家の人間が迎えに来たから勝手にかくれんぼ中断しやがったなと一瞬思ったが、どうも様子がおかしい。

普段は大人相手だろうが、子供相手だろうが、のべつまくなしに騒ぎまくるC子がやけにおとなしい、和服の爺さんが何か話てるのにも反応せずに一点を見つめて動かない。
これはやべーんじゃねーのと思った俺は、幸い二人ともこっちに気づいてないようだったので、気づかれないように様子を伺う事にした。

よく見てみると和服の爺さんは、こんな海っぺりだって言うのに全然濡れていなかった。
爺さんはひとしきりC子の体をべたべたと触ったあと、懐から鉄製の串のようなものを取り出すと、おもむろにC子のわき腹に突き刺した。
俺は爺さんの行動にびびって固まった、正直しょんべんも漏らしていた。

しかも爺さんは、その串を一本ではなく、次々とC子に差し込んでいく、しかし奇妙な事に血はぜんぜん流れてこない。
C子も串を刺されまくって、黒ひげ危機一髪みたいになってるのにピクリとも動かない。

そのうち、串を伝って黄色っぽい白いどろどろとしたものが流れ出してきた、すると爺さんは串の根元のほうに白い袋のようなものを取りつけはじめた。
どうやら、そのドロドロを袋に集めているようだった。

多分ものの2~3分くらいだと思うが、どうやら袋が一杯になったらしく、爺さんは一つ一つ口を縛り袋を纏めていく。
一方のC子はあんなに丸々と太っていたのに、いつの間にか干からびたミミズのようになっていた。

これは、冗談抜きでやばいものを見てしまったと俺が思っていると、爺さんが不意に俺の方を向いた。
そして何か言おうとしたのか口を大きく「あ」の形にした。
と思うと後ろから大人の声で

「コラー、ドくそがきが!あんだけここでかくれんぼすんなっていってんだろ!」

と怒鳴る声がした、振り返るとA太の父。
どうやらC子が見つからなくて、あせった二人が大人に報告しに行ったようだ。

俺はC子が干物になってしまった事を伝えるのと、変な爺さんから逃げるようにA太父のほうへ駆け出していた。
かなり本気の拳骨と、もう一怒鳴り食らって、俺がC子の所までひっぱってA太父をつれていくと、干物ではなく太ったままのC子が倒れていた。
あの爺さんも、串で刺された跡もきれいさっぱりもなくなっていた。

結局C子は、かくれんぼ中にこけて頭打って気絶していたと言う事で病院に運ばれ、その日の夕方には目を覚ましたらしい。
一方で俺ら3人は、死ぬほど説教食らったが、俺はさっきの光景が目に焼きついていてロクに説教も聴いていなかった。

それから数日はC子は何もなく、ぴんぴんしていて近所のクソガキの上に君臨していた。
俺も、アレは暑さでおかしくなってみた幻だろうと思い込み始めていた。

しかしC子は、一週間程たったくらいから、目にも見えてやせ始め、しまいにはその姿を見なくなっていた。
どうやら、何かの病気をしたらしく、俺は母親に連れられてA太B朗やらと一緒にC子の見舞いへ行った。

そこにいたC子は以前の憎たらしく太っていたC子ではなく、ずい分とやせ細った姿だった。
しかも痩せているのではなく、見るからに肌に水気がなく、子供とは思えない程しわだらけになっていた。
あの時の干物の2、3歩手前という感じだった。
俺はもうこいつ死ぬんだなと思った。

見舞いから帰ると俺は、母親に例の爺さんと串に刺されたC子のことを話した。
母は俺の話を聞き終えると、「そう」と一言だけ言ってどこかに電話をかけた。
そして電話が終わると、明日その時の事を聞きに人が来るから正直に答えなさいと俺に言った。

次の日、学校の授業の途中に校長に呼び出され、校長室で見知らぬおっさんに爺さんとC子の話を聞かれた。
そのおっさんは古い絵を見せてきて、その爺さんはこんな格好じゃなかった?と聞いてきた。
その絵にはみすぼらしい格好をして、頭が不自然に三角な男と、例の爺さんみたいなきれいな和服をきた男がが描かれていたので、俺はこっち和服の男の格好に似ていると答えた。

すると、おっさんはため息を一つ吐いて校長にどうやらアカエ様ではないようなので、これ以上の心配はないでしょうと言った。
校長も何か安心したような感じだった。
その後、今年は豊漁になるだとか、漁協からC子の家に見舞金を出すとか言う話をしていたが、俺がまだいることに気づき、すぐに追い出され俺は授業に戻った。

C子はその後、割りとすぐ死んだ。
C子の葬式では悲しそうなのはC子の家族だけで、他の大人はみんなニコニコにしていてうれしそうな感じだった。
正直、俺もC子が嫌いだったので心の底ではうれしかったが、今まで経験した葬式との違いに少し不気味に思っていた。
俺の父親もC子の両親に、神様が持っていったようなものだから、と変な慰めをしていたのを覚えている。

その年の秋は、あの時の盗み聞いたおっさんと、校長の話通り、ここ数十年で一番の豊漁になった。
しかし俺の町以外の港では、それ程でもなかったらしく俺の町は大分潤ったらしい。
俺もA太もB朗も、栄養状態がよくなったせいかみんなころころと太った。

つんぼゆすり

出典: hemon.net

出典: i.ytimg.com

子供の頃、伯父がよく話してくれたことです。
僕の家は昔から東京にあったのですが戦時中、本土空爆がはじまる頃に祖母と当時小学生の伯父の二人で田舎の親類を頼って疎開したそうです。
まだ僕の父も生まれていない頃でした。
戦争が終わっても東京はかなり治安が悪かったそうで、すぐには呼び戻されなかったそうです。

その頃、疎開先では色々と不思議なことが起こったそうです。
そこだけではなく、日本中がそうだったのかもしれません。
時代の変わり目には奇怪な噂が立つ、と聞いたことがあります。

伯父たちの疎開先は小さな村落だったそうですが、村はずれの御神木の幹に、ある日突然大きな口のような『うろ』が出来ていたり、5尺もあるようなお化け鯉が現れたり。
真夜中に誰もいないにもかかわらず、あぜ道を提灯の灯りが行列をなして通りすぎていったのを多くの人が目撃したこともあったそうです。
今では考えられませんが、狐狸の類が化かすということも真剣に信じられていました。

そんな時、伯父は『つんぼゆすり』に出くわしたのだと言います。
村のはずれに深い森があり、そこは『雨の森』と呼ばれていました。
森の中で雨に遭っても、森を出れば空は晴れているという不思議な体験を多くの人がしていました。

伯父はその森の奥にうち捨てられた集落を見つけて、仲間たちと秘密の隠れ家にしていました。
4、5戸の小さな家が寄り集まっている場所で、親たちには当然内緒でした。
チャンバラをしたり、かくれんぼをしたりしていましたが、あるとき仲間の一人が見つからなくなり、夕闇も迫ってきたので焦っていました。

日が落ちてから雨の森を抜けるのは独特の恐さがあったそうです。
必死で

「お~い、でてこ~い」

と探しまわっていると、誰かが泣きべそをかきはじめました。
伯父は

「誰じゃ。泣くなあほたれ」

と怒鳴ったが、しだいに異変に気付きました。
仲間の誰かが泣き出したのだと思っていたら、見まわすと全員怪訝な顔をしている。
そしてどこからともなく聞こえてくる泣き声が次第に大きくなり、それは赤ン坊の泣き声だとはっきり分るようになった。

ほぎゃ ほぎゃ ほぎゃ ほぎゃ

火のついたような激しい泣き方で、まるで何かの危機を訴えているような錯覚を覚えた。
その異様に驚いて、いたずらで隠れていた仲間も納屋から飛び出してきた。
そして暮れて行く夕闇のなかで、一つの家の間口あたりに人影らしきものがうっすらと見えはじめた。

子供をおぶってあやしているようなシルエットだったが、どんなに目を凝らしても影にしか見えない。
人と闇の境界にいるような存在だと、伯父は思ったと言う。

日が沈みかけて、ここが宵闇に覆われた時、あの影が蜃気楼のようなものから、もっと別のものに変わりそうな気がして鳥肌が立ち、伯父は仲間をつれて一目散に逃げだした。
この話を大人に聞いてもらいたかったが、家の者には内緒にしたかった。

近所に吉野さんという気の良いおじさんがいて、話しやすい人だったのであるときその話をしてみた。
すると

「そいつは、つんぼゆすりかいなあ」

という。

「ばあさまに聞いた話じゃが、あのあたりでは昔よく幼子が死んだそうな。つんぼの母親が子供をおぶうて、おぶい紐がずれてるのに気付かずにあやす。普通は子供の泣き方が異常なのに気付くけんど、つんぼやからわからん。それでめちゃめちゃにゆすったあげく子供が死んでしまうんよ」

伯父は寒気がしたという。

「可哀相に。せっかくさずかった子供を自分で殺してしまうとは、無念じゃろう。それで今でも子供をあやしてさまよい歩いてるんじゃなかろうか」

それがつんぼゆすりか、と伯父がつぶやくと

「鬼ゆすりとも言うな」

「鬼ゆすり?」

「なんでそう言うかは知らんが…。まあそうしたことがよくあった場所らしい」

伯父はなんとなく、あそこはそうした人たちが住んだ集落なのだろうと思った。

ほとぼりがさめた頃、伯父は仲間と連れ立ってまたあの集落にやってきた。
一軒一軒まわって念仏を唱え、落雁を土間にそなえて親子の霊をなぐさめた。

そしてまた以前のように遊びまわってから夕暮れ前に帰ろうとしたとき、異変が起きた。
森に入ってから雨が降り出したのだ。
さっきまで完全に晴れていて綺麗な夕焼けが見えていたのに。
伯父たちは雨の降る森を駆け抜けようとした。

しかしどうしてそうなったのか分らないが、方角がわからなくなったのだという。
一人はこっちだといい、一人はあっちだという。
それでもリーダー格だった伯父が

「帰り道はこっちだ間違いない」

と言って先導しようとしたとき、その指挿す方角からかすかに赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
一人が青くなって

「あっちは元来た方だ」

と喚いた。
頭上を覆う木の枝葉から雨がぼたぼたと落ちてくる中で伯父たちは立ち尽くした。
仲間はみんな耳を塞いで泣き声の方角からあとずさりはじめた。

「違う違う。だまされるな。帰り道はこっちなんだ。間違いない。逆にそっちにはあの集落があるぞ」

伯父は必死に叫んだ。
そうしている間にも、泣き声は不快な響きをあたりに漂わせていた。
伯父は一人を殴りつけてむりやり引っ張った。

「耳を塞いでろ。いいから俺の後について来い」

そうして伯父たちは泣き声のする方へ歩いて行った。
やがて木立が切れて森を抜けた時、そこはいつもの村外れだった。
みんな我を忘れてそれぞれの家に走って帰ったという。
僕はその話を聞いて伯父に

「雨は?やっぱり降ってなかったんですか」

と聞いたが、伯父は首をかしげて

「それがどうしても思いだせんのよ」

と言った。

これにはさらに後日談がある。
伯父が家に泣きながら帰ってきたとき、なにがあったのか聞かれてこっぴどく怒られたらしい。
当然、もうあの森に入ってはいけないと、きつく戒められたそうだ。

そしてしばくたって伯父は、その家の当主でもあった刀自の部屋に呼ばれた。
刀自は伯父を座らせて言った。

「つんぼゆすりとはそうしたものではない」

この刀自は僕にも遠縁になるはずだが、凄く威厳のある人だったという。
一体誰に吹きこまれたか知らぬが、と一睨みしてから刀自は語りじめた。
この村は昔、どこでもあったことだが生まれたばかりの子供を口減らしの為に殺すことがあった。

貧しい時代の止むをえない知恵だ。
本来はお産の後、すぐに布で首を締めるなりして殺し、生まれなかったことにするのだが、おぶるくらいに大きくなってから殺さなければならなくなったときには世間というものがある。
そこで母親は、つんぼがあやまって赤子を揺すり殺してしまうように、わざとそういうあやしかたをして殺すのだ。

事故であると、そういう建前で。
業の深い風習である。
それゆえに鬼ゆすりとも呼ばれ忌避されるのだ。

「おぬし、弔いの真似事をしたそうだが、そのとき母親に情をうつしておったろう」

伯父はおもわずうなずいた。

「あのあたりに昔あった集落はどれも貧しい家だった。とりたてあそこでは鬼ゆすりが行なわれたはず。いいか、浮ばれぬのは母親ではなく殺された赤子のほうじゃ。助けをもとめて泣き叫び、それもかなわずに死んだ赤子の怨念が、泣き声が呪詛となって母親の魂をとらえ、この世に迷わせて離さぬのだ」

伯父はそれを聞いて総毛立ったという。
やはりあの時、森の中で聞いた声は伯父たちを誘っていたのだ。

『母親の成仏を願ったから』

あのまま元来た道を行っていたら、とり殺されていたのかもしれない。
刀自は静かに言った。

「鬼ゆすりのことを伝え継ぐのはわしら女の役割じゃ。産むことも殺すこともせぬ男はぐっと口を閉ざし、見ざる言わざる聞かざるで過ごすものだ」

伯父は恐れ入って、もうこのことは一切忘れると刀自に誓ったそうだ。
時代が大きく変わる時、廃れていく言い伝えや風習が最後の一灯をともすように怪異をなすのだと、伯父はいつもそう締めくくった。

踏み入れるべきではない場所

出典: occugaku.com

daisukekun
daisukekun
@daisukekun

目次 - Contents