斬、

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斬、
10

人を斬ることの痛みを壮絶に描いた時代劇

独特の暴力描写で世界的に評価されている塚本晋也監督初の時代劇。

江戸末期、農村で農民たちを手伝いながら穏やかに暮らしていた若い浪人の青年が、初老の剣豪に誘われて、明治維新前夜の京で一旗揚げようとします。普通の時代劇なら、彼らの上京の物語こそが軸になるところですが、この映画ではその前に村で事件が起こり、現実の殺人を前に、上京の大義などどうでもよくなってしまうところが凄い。
村の事件は、ほんのちょっとしたいさかいから、あれよというまに事態が悪化し、正視できないような凄惨な殺し合いの恐怖に圧倒されます。後半は、斬れないことに苦悩する青年と、斬らせることに執着する剣豪の、2人の中で膨れ上がっていく狂気のぶつかり合いが映画の軸になり、それを農村で平凡に暮らしていた娘が変わり果てた姿で追いかけていきます。
青年を演じる池松壮亮、前半は彼らしい穏やかで静謐な佇まいなのが、後半になって見たこともないような壮絶な形相を見せます。対する剣豪を演じる塚本監督自身の、穏やかな風情で顔色ひとつ変えずに人を惨殺する冷徹さ、そこから滲み出る狂気も凄い。何より、村で平凡に暮らしていた娘が最後に見せる声にならない絶叫が圧巻で、この「人を斬る」ということの狂気がぶつかり合う物語を、悲劇にほかならないのだと断罪しているようでした。