繕い裁つ人

繕い裁つ人のレビュー・評価・感想

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繕い裁つ人
10

本当に美しい映画

まず主演の中谷美紀さんが本当に美しい。佇まい、表情、仕草、本当に素晴らしい女優さんだと思う。そしてこの作品にはこの人しかいないと思わずにいられない。
恐ろしい精度と情熱で仕事をして亡くなった祖母の大きすぎる影にひっそり沈んだまま、自身の天才ぶりを発揮する裁縫士のお話。
神戸という舞台もとても素敵で、その画面の美しさとなんとも言えない異世界感にも深く癒される。だけど、ただ美しい、素敵だなぁ、という映画ではなく、強い物語がきちんと描かれている。それに関わる直向きで健気な営業マンもストーリーに欠かせない。
誰もが人生で壁にぶつかるけれど、こんな風に決定的に背中をぐぐぐっと押してくれる人がいたらいいなぁ、しかもこんなに諦めずに、と羨ましくもなる。
もう一つ羨ましいものが、劇中に出てくるあの真っ白なケーキ!あんまりにも美味しそうに食べるから、ということもあるけれど、カフェの雰囲気といい、ケーキのビジュアルといい、ホールで食べるところといい、全てが完璧。食べたことのないケーキなのに、なんだか一緒に食べているような贅沢な気分にさせられる。劇中に出てくる永野芽郁さんもとても可愛らしい。きっと輝く人って、少しの役でもきちんと輝けるのだろうな、という気持ちにさせられた。
見る人をゆったり、じっくり、とても贅沢な気分に浸らせてくれて、最後にはとても清々しい気持ちにさせてくれる素晴らしい作品。

繕い裁つ人
8

古きものと新しきもの

”古いもの”を守り続けていかなければならないという想いと、”新しいもの”を生み出したいという本心との葛藤が繊細に描かれている作品。

先代の祖母が始めた南洋裁店の2代目、町中の人から愛されていた「祖母が作った服」のお直しをメインに請け負っている市江。市江の才能に惚れ込み、市江によるデザインの服のブランド化を熱望する青年・藤井の存在に市江の心は揺れます。
偉大な先代の影で、自分は先代の技術を受け継いでいかなければならない、それが自分にとっても幸せなはずだと言い聞かせてきた市江。頑なに藤井をあしらい、取り付く島もないという態度であった市江が、徐々に自分の本心に気が付き、ついには認める。そこに至るまでの心の動き・表情を、中谷美紀が見事に演じ切っています。
舞台は神戸。童話のような、少し浮世離れした雰囲気がありつつ淡々と進んでいく物語。出てくる服はもちろん、画面に現れる風景がどれも美しいです。
古き伝統を伝えていくこと。守り続けたいけれども、自分だけの手による全く新しいものを作り出したいという想い。
祖母の服を大切に着続ける年配の住人たちの前で、女子高生が市江に「私たちの服も作ってくれませんか」と言う。古いものを壊して新しいものを生み出すことへの第一歩を象徴するこのシーンは胸を打ちます。

淡々とした映画が好きな方、ファッションが好きな方、何かに迷っている方はぜひ。