夏の前日

夏の前日のレビュー・評価・感想

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夏の前日
10

夏の濃い影のような孤独

誰もが一度は自分の才能や、未来に孤独を感じたことがあるはず。
この漫画はかつて私たちが含んでいた、あるいはこれから抱えることになるであろう人が「通過」した、するであろう孤独をテーマとした物語だ。

少し気難しく、自己の中に歪んだ孤独を抱えた芸大生の主人公『哲夫』は、作中絵を描くシーンでいつも自分を責める苦しそうな表情をしている。
その孤独に惹かれた、月下という画廊で働く女性『晶』は、苦悶のままにだがそれを自分の内に閉じ込めておこうとする哲夫の姿に一目で惚れてしまう。
ある雨の夜を境に、彼らは交際の有無を確かめ合うことなしに肉体関係を持ち、物語の彼らも、そして読者の私たちでさえも一言では位置づけられない関係に進展する。
哲夫の才能を引き受けたがための苦悩や、そんな彼と付き合い夢を見つつ、時節見せる冷えた目で現実を眺める眼差し、そして次の瞬間にはまた夢に戻る不安定な晶の恋物語だ。

登場人物に対する心理描写もさることながら、繊細でかつ力強いタッチで表現される絵も、私たちに訴えかけてくる『何らか』のメッセージがある。
例えば、ベッド上で口では愛を確認せず、どうにか行為だけで伝えようとするもどかしさは、そこに登場人物のセリフはなくとも言い難い切なさのようなものを与えられるだろう。