エリオット・スミス

エリオット・スミスのレビュー・評価・感想

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エリオット・スミス
10

壊れてしまうほど繊細なエリオット・スミスの音楽

初めて彼の音楽を知ったのは、レコード会社が作ったサンプルCDの中の一曲を聞いてからだった。その曲は『Baby Britain』。ポップなメロディー、皮肉のようにも聞こえる内省的な歌詞、つぶやくような細いボーカルラインは私の印象に強く残った。そこからCDを買い、彼があの有名な映画『グッド・ウィル・ハンティング』に曲を提供していたことを知る。映画の主人公の苦悩とエリオットの歌詞がまさにマッチした、最高のコンビネーションだったと思う。エリオットはのちにアカデミー賞で真っ白な衣装を着て、エンディングテーマ『Miss Misery』を歌うことになるのだが、これは彼なりの商業主義への皮肉だったのだろう。彼は以前所属していたバンドHeatmiserについても「自分の曲が安っぽいポップソングにアレンジされるのが耐えられない」という趣旨のことをもらしていた。自分の音楽性に対してこだわりがあり、人に媚びるようなソングライティングをしなかったことがこのことからも窺える。
彼は後に自殺してしまうのだが、ギタリストとしても、ソングライターとしても高く評価されていた。彼の歌は時に人の悲しみによりそい、知的に世間や人間の一面を切り取る。「元気になれ」という一言より、寄り添うことによって人を励ます音楽だ。彼の音楽は亡きあとも、皆の心の中で生き続け、慰め続けている。