スイス・アーミー・マン

スイス・アーミー・マンのレビュー・評価・感想

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スイス・アーミー・マン
4

偽らない自分の、本当の生き方

無人島での遭難生活に絶望したハンスの前に、まるで多機能ナイフ……アーミーナイフのように様々なことができる死体のメニーが現れる。そんなところから物語がはじまります。
遭難した無人島、迷い込んだ深い森……絶望的な状況にありながらも美しい情景の中で、二人の遭難生活は続きます。その生活はまさに奇抜。しかしどこか懐かしい、子供のころに過ごした夏休みのような自由さがあります。自分の好きなことをして、気の合う仲間たちと騒ぎ、何にも縛られない……そんな生き方がずっと続けば良いけれど、現実ではなかなかうまくいかないもの。自分の好きなことが他人にとって不快なものになってしまうことだってある。人に受け入れてもらえない孤独感はまさに無人島での遭難生活にも似ています。ハンスとメニーもどうやら現実での生きにくさを感じているようです。彼らの感性に共感できない部分もあるかもしれませんが、それもまたご愛嬌。親しい人にしか伝わらないノリが微笑ましくもあります。
誰しも抱えているような葛藤を、奇想天外な遭難生活で描いた作品です。笑いのツボが外れてしまうと退屈かもしれませんが、非現実を生きるハンスとメニーのきらきらとした表情が心に残ります。

スイス・アーミー・マン
10

この映画を楽しめるイマジネーションが、映画ファンには必要。

スイスアーミーマン。それは死体がスイスのアーミーナイフのように便利な機能をたくさん持っているということからそのタイトルがついています。死体が十徳ナイフのように便利、下ネタ、変態的な恋愛、自殺したいと思うような極限状態での奇跡。そんなシュールな状況についていけるかどうか、この主人公に感情移入できるかどうか、それは人の生き方で変わるので一概には言えませんが、こういった作品をくだらない、気持ち悪いで片付けてしまわない感性が、映画を楽しむうえで必要だと思います。
正直この映画で泣ける人は映画の楽しみ方をわかっているというとおこがましいですが、空想の世界を理解しようとする努力、この状況下での体験への感受性、おぞましいものか、楽しいものか、居てはいけないものなのかなど、存在への探求心。いろんなものを考える力というものを持った人が楽しめる映画だと思うので、万人受けなどするはずがないですが、もしかしたらこの映画を熱く語れる人は一生映画に飽きない人なのではないかと思います。ツッコミどころは満載です。ですが、それをただバカにするだけではなく感情移入できる。その感性を刺激される素晴らしい映画です。おもしろかった。