ぼくんち / My House

ぼくんち / My House

1995年から1998年に『ビッグコミックスピリッツ』にて連載された西原理恵子の代表作。第43回文藝春秋漫画賞を受賞。田舎町を舞台に、母親が出て行った3人姉弟の生活を描く。キャッチフレーズは「シアワセって、どこにある?」。2003年に観月ありさ主演で映画化され、2010年と2016年には舞台化された。

ぼくんち / My Houseのレビュー・評価・感想

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ぼくんち / My House
10

常識や倫理観を越えた、生きることの温かさ。悲しく優しい『ぼくんち』の物語

映画化もされたが、原作こそ名作。
本物の爆笑ルポのパイオニアであり、叙情的作風でも才能を発揮する西原理恵子の原点であり、真骨頂だと思います。
優しく味わいあるゆったりした描線で描かれる人物達の、ひたすら単純な書き方の笑顔、それがマンガ全体の印象になります。
環境に恵まれない人々、こんな町に生まれたばかりに…と、愚痴るのも馬鹿馬鹿しいような問答無用の無法地帯が舞台です。
作者の幼い頃見た風景かなと思わせるうらぶれた漁師町、そのさらに端っこに暮らす健気な兄弟が主人公です。そして、出奔した母の替わりのようにやって来た姉、この姉がいつも笑顔でひどいエピソードもカラッと笑って受け止めます。それと共に無邪気な笑顔を見せる下の弟はひたすら無垢、まわりの大人達のしようのなさ、カッコ悪さを兄と見つめての感想がモノローグされます。ミもフタもない素直な感想ゆえに、笑える上にしんみりとさせられます。
「こんなひどい暮らしを子どもにさせるなんて!」とかの当たり前の常識は読むうちにどうでもよくなり、不道徳で良くない町のやるせないおかしさに夢中になってしまいます。
兄弟はよくない仕事ながらも大人と働き、優しい姉にプレゼントしたりします。第三者の憐れみも同情も無意味、生きるために必要なことをそれぞれがするだけなのです。例えば、「望んだより、ちょい下くらいで上出来」という感じでしょうか。
その中で生まれる悲喜劇が作者独特のギャグとセリフで容赦なく笑わせてくれて、辛いのか面白いのか、とにかくやるせなく、切ない。
最後になるにつれて、大人になっていく兄、変わらず運命を受け入れ続ける姉。ラストは自身の境遇、悲しみを飲み込んだような弟の笑顔が胸に迫ります。読んだ人は誰もが思い出すのは、きっとあの笑顔だと思います。