ゲド戦記 / Tales from Earthsea

ゲド戦記 / Tales from Earthsea

2006年公開、スタジオジブリ作品であり、宮崎駿氏の息子である宮崎吾朗氏が初監督を務めた長編アニメーション映画。国を捨て旅に出た王子アレンと、その旅の途中で出会った顔にやけどを負った少女テルー。二人は旅をするにつれ、自身が抱える辛い過去と向き合いながらお互いの理解を深めていく。互いの心に歩み成長していく姿や、メッセージ性に様々な考え方をもたらす作品。

ゲド戦記 / Tales from Earthseaのレビュー・評価・感想

レビューを書く
ゲド戦記 / Tales from Earthsea
8

映画『ゲド戦記』の面白さを知るために

「あなたはスタジオジブリの映画は何が好きですか」という質問にどの作品を答えますか?
日本で生まれ育った方なら、一本くらいは好きな作品を答えられるでしょう。かくいう私もジブリ映画は幼少期より家にビデオがあり何度となく繰り返し見て育ち、大人になった今でも新作は全てチェックし続けています。
そんな数ある名作が揃っているジブリ映画の中でも、私があえて答えに挙げる作品は『ゲド戦記』です。
検索などすると映画評価は5点中半分以下の評価をくだす記事や感想が多く見られます。
映画を未視聴の方もいるでしょう。地上波で放送されたのを見てもこの話なんだったんだろ?という感想を持つ方もいたかもしれません。
映画『ゲド戦記』はまさにジブリ映画のなかでも中の下に属している落ちこぼれのような作品という評価を与えられてしまいました。
ですがちょっとお待ちください、まずは映画『ゲド戦記』の基本情報を抑えてこれらの評価を見直してみましょう。

・映画『ゲド戦記』基本情報
映画『ゲド戦記』2006年7月29日劇場公開作品
原作:アーシュラ・K・ル=グウィン (『ゲド戦記』)
監督:宮崎吾朗
原案:宮崎駿 (『シュナの旅』)

え?監督は宮崎駿さんの息子だっていうのは知ってるけど、原作は宮崎駿さんじゃないの?原案の『シュナの旅』って何?
そうなんです。『ゲド戦記』には原作小説があり、映画ではその一部や各巻のエピソードを織り交ぜたような脚本になっています。例えば劇中にアレンが体験したいくつかのエピソードは原作ではゲドが少年期に体験したエピソードを織り交ぜています。原作でアレンが登場するのは、物語の終盤です。
そもそも原作の『ゲド戦記』はゲドを主人公とした少年から老年期までの物語です。映画『ゲド戦記』では主人公は若い青年アレンの物語になっています。この情報を頭にいれておくだけでも、未視聴の方にもかなり脚本が作り変わっていると想像ができます。
そして原案『シュナの旅』とはなんなのか。こちらは宮崎駿原作の漫画のような絵本のような形の本になっています。Amazonでも販売しているので検索すればすぐに見つかります。『シュナの旅』イメージはそのまんま映画『ゲド戦記』のイメージに転記されたと言っていいほど、『シュナの旅』を彷彿とさせるシーンがたくさん登場します。
ですがこの映画は『ゲド戦記』なのです。つまり映画『ゲド戦記』とは、原作『ゲド戦記』の腕や足をちぐはぐにぐっつけた体をしており、顔や服は『シュナの旅』になっており、それらを組み上げたのが宮崎吾朗だったという映画になります。
結局このちぐはぐ具合が作品を最もつまらなくさせてしまった一番の要因のように思えます。

・面白さを見出すためには
この答えは映画『ゲド戦記』の面白さ!を感じることができるのは残念ながら、上記の原作『ゲド戦記』、原案『シュナの旅』をきちんと読んだ方にしかわからないということです。私は映画公開前から『シュナの旅』を読んでおり、映画視聴後に原作『ゲド戦記』を読みました。特に世界でも人気のあるファンタジー小説作品となっていますので最初から最後までとても面白い作品で、私としては『ハリー・ポッター』シリーズより好みです。
ですが、この2作品をしっかりと読み収めることで、映画『ゲド戦記』の世界は何倍も膨れ上がり、何度も何度も見直したくなる良作映画になるのです。
それにこの映画の魅力はもちろん主役アレン役のV6の岡田准一さん。とにかくジブリには珍しいイケボ!しかも好演技!重厚で温和な深みのある声のゲド役・菅原文太さん。デビューしたての透明感のある主題歌のテルー役の手嶌葵さんはとても話題になりました。その他にも魅力的な点はたくさんあるのです。
映画『ゲド戦記』は素晴らしい作品です。ただその面白さがわかりにくいのがとても残念でなりません。ですが少しでも興味を持たれた方はご自身で関連情報をお調べになり、改めて映画を視聴することをおすすめします。きっと『ゲド戦記』が大好きなっていること間違いなしです。
私は、映画の冒頭で主人公アレンが立派な父親を刺してしまうシーンが、宮崎駿さんと息子吾朗さんの関係性が最もわかる、「ぶっささる面白さ」だと思いますけどね。

ゲド戦記 / Tales from Earthsea
3

原作通りに描かれなかった残念な作品

2006年7月に東宝から劇場公開された、スタジオジブリの作品「ゲド戦記」。今作には原作がある。アーシュラ・K・ル=グウィンが1968年~2001年にかけて出版した小説だ。日本では、岩波書店から発行され、200万部以上も売り上げている。スタジオジブリによる劇場版は、原作小説とは異なる脚本だった。それにより、アーシュラ・K・ル=グウィンのゲド戦記ファーストリポートという文章で、意に反する内容だと評されてしまった。
原作小説では、影と戦ったのはゲドという少年だったのに対し、ジブリの劇場版ではアレンという少年に変更されている(しかもアレンの声優の演技がとてもぎこちなく、不自然)。更に、原作小説には無かった「父親を殺してしまった」というストーリーに改悪され、タイトルこそゲド戦記になっているが、全く別物のような映画になってしまったのだ。このジブリ版ゲド戦記の脚色をしたのが今作の監督を務めた、宮崎駿の息子・宮崎吾朗だ。宮崎吾朗はコクリコ坂も監督しているが、コクリコ坂には宮崎駿が関わっており、ゲド戦記ほど支離滅裂さを感じない。ゲド戦記に関しては、ジブリ作品とは思えない。登場人物の表情の乏しさや、声優の配役ミスなど良くない点が重なった残念な作品になってしまった。