ピンポン / Ping Pong

ピンポン / Ping Pong

ピンポンは、松本大洋による卓球漫画、及びそこから派生した実写映画、アニメ作品。
卓球を題材とし、登場人物達の友情や成長描く青春物語で、神奈川県藤沢市が舞台となっている。
週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館刊)に1996年から1997年まで連載された。全5巻。
実写映画は2002年7月に劇場公開された。
アニメは2014年4月〜6月に放送された。全11話。

ピンポン / Ping Pongのレビュー・評価・感想

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ピンポン / Ping Pong
9

単なる卓球アニメではない

『ピンポン』は松本大洋の漫画を原作とするアニメーション作品です。松本大洋と言えば友情を描く作品が多く、『ピンポン』も例外ではありません。
舞台は高校の卓球部で、独特なタッチの絵が印象的です。アニメでも漫画のカット割りを取り入れていたり、違和感のない声優さんの演技もあり、漫画読破勢にも受け入れやすいのではないでしょうか。

主人公の星野裕(通称ペコ)は愛嬌のあるキャラクターで、才能があるにも関わらず、昔通っていた「卓球場・タムラ」でダラダラと卓球を続けていました。そんな姿をペコの友達である月本誠(通称スマイル)は冷めた目で見ていたようです。
しかし「卓球なんて死ぬまでの暇つぶし」というセリフは、本気のようで本気ではなかったんだと、作品を見ていくうちにわかります。

昔スマイルは「ロボット」というあだ名でいじめに遭っていましたが、以前は卓球の大会でトロフィーやメダルをかっさらっていた、かっこいいペコにいつも助けられていました。スマイルはそんなペコをヒーローと考えていたようです。
ペコとスマイルの試合では、ヒーロー・ペコによってスマイルが心を溶かされていきます。童謡『手のひらを太陽に』が流れるシーンはとても感動的でした。

ピンポン / Ping Pong
10

爽快感MAXのスポーツ人情アニメ

小学校時代から一緒に卓球をやってきた天才肌で自惚れ屋のペコ(本名:星野裕)と、堅実で感情の乏しいスマイル(本名:月本誠)は高校に入っても同じ卓球部に所属します。この二人を中心に巻き起こる人情ドラマが「最速のスポーツ」とも言われる卓球に乗せて届けられる作品です。

このアニメの最も大きな特徴は、卓球を使ってドラマが進んでいくことです。
通常、スポーツアニメはどうやって勝つかがテーマとなり、特にスポーツ中はキャラクターの内面は描かれません。
スポーツ中に描かれるのは飽くまでキャラクターのステータスのみで、そのキャラクターがどのような人間的な豊かさを持ち合わせているかは、スポーツの試合後や試合前にしか描かれないのです。
しかしピンポンは違います。ピンポンでは試合になるとキャラクターの内面がわかっていきます。その理由は、感情と感情のラリーが始まるからです。ピンポンに出てくるキャラクターは自分の感情をピンポン玉に乗せています。
そこには純粋に卓球を楽しむ気持ちや、非常に人間的で生々しい感情まであります。
スポーツなので勝ち負けもあり、才能の壁を感じるシーンや、負けてしまったものの未来はどうなるのかなど、やりきれない、切ない感情も試合を通して描写されます。しかし、そこには確かに全力が感じられるのです。
そんな青春時代に味わう良いところも悪いところも爽快に描かれています。
恥ずかしい意見も、本気で伝えれば格好良く見えるものです。
後腐れなくあっという間に過ぎ去って行ってしまう、そんな作品でした。

ピンポン / Ping Pong
10

人生で一番見返した映画

スポコン青春映画、と簡単にくくってしまうにはもったいないほどに円熟した、青春と成長の物語。
卓球で頂点を目指す高校生たちの熱く青い日々と、ヒーローの挫折と復活、そしてその陰で消費されていく凡人たちにまでフォーカスした、みずみずしさと苦々しさの同居した作品だ。
主人公ペコの怠惰な始まりを蹴散らすような親友の才能の開花や、それに伴う初めての挫折、そして復活が華々しいのはもちろん、どこまでも続くようなペコとスマイルの、他社の介在を許さない友情にも惹かれる。
一方で、卓球に浪費される鬼才ドラゴンや、人生をかけた卓球の花が開かなかった凡人アクマなど、レールに乗っかれなかったはみ出し者を救済する物語性が今作のキモだとわたしは考える。
なかでも幼馴染のスマイルにけちょんけちょんにやられたアクマが道端で絶叫する「どこ見て歩きゃ褒めてくれんだよ」という痛切な思いに、かつて夢をあきらめた大人たちは痛いほど揺さぶられてしまうのではないだろうか。
青春といえば青くさくて暑苦しい、そこがいい、というのが通例だが、映画ピンポンは青春映画でありながらどこかダウナーで、けれども見たひとをすっかりすくいあげてくれるような救済をもたらす、ヒーロームービーだとわたしは思う。

ピンポン / Ping Pong
8

卓球に燃える!痛快青春劇

さまざまなキャラクター性を持つ高校生たちが、ひたむきに卓球に向き合う姿がとても印象的でした。
各キャラクターの特徴がいちいち強すぎて、それだけにコメディー感が満載の映画ではありますが、ストーリーはある意味で非常に大真面目でそれぞれが持つ卓球に対する熱さが伝わってきます。
天才肌で大胆でよくしゃべる快活なペコ(窪塚洋介)と地味で臆病で寡黙なスマイル(井浦新)という、一見不釣り合いそうでありながらバランスのとれた絶妙な二人のキャラクターの組み合わせがクセになります。向き合い方は違えど卓球に一途で、良きライバルであり、深い友情も感じられる二人の姿は青春そのものです。
最終的に卓球の大会で二人は勝ち上がっていき、スマイルの決勝戦進出が先に決まるのですが、脚を傷めながらも必死にスマイルの待つ決勝戦の舞台に届こうとするペコと、そのペコを信じ静かに待つスマイルの様子は、二人の確かな信頼関係を感じさせる場面で感動的です。
また、卓球のゲームシーンでは、プレーヤーの動きやボールの速さが迫力満載です。音楽も斬新でスピード感があり、フレッシュさや快活さを感じさせるものが多いので、よく聞いてもらいたい部分です。

ピンポン / Ping Pong
10

スマイルの孤独の理由について。

初めて読んだ松本大洋の作品が『ピンポン』でした。絵のタッチで漫画を読むことが多いんですが、この絵を見た時はまるで木版画のようで衝撃的でした。白黒のコントラストがあまりにも強くて、かなり好き嫌いが別れると思います。けど、松本大洋の漫画は一度ハマるとやめられないくらいにクセになりますね。この作品と『鉄コン筋クリート』が代表作と言えるんですが、描いてるテーマはあまりに壮大で哲学的なのに、登場人物の行動や台詞はなぜか笑ってしまうほどにシュールです。生まれながらにしてヒーローである天才肌の星野(ペコ)と星野に憧れ続けるあまりにストイックな秀才、月本(スマイル)の二人が繰り広げる卓球漫画。卓球はあくまで二人の凄さを表現する上での物差しに過ぎないと思います。幼い頃、いじめられていた月本を一瞬で救った正義の味方である星野。そして、全く笑わなかった月本にスマイルというあだ名をつけた星野。それが物語のルーツであり、すべてなのです。練習をしないで駄菓子ばかりを食べているペコを横目にスマイルは卓球のポテンシャルの高さをどんどん発揮していきます。スマイルは実力でペコを完全に越えてしまう。それはスマイルにとって最も寂しい、認めたくない現実でした。ペコが再び自分の目の前にヒーローとして現れるのをただ、ただ待つスマイル。別に勝ちたくて卓球をやっているわけじゃない。強敵に勝てば勝つほど、スマイルの孤独感は増していく。最後にペコはスマイルの前に決勝戦で対戦相手として現れます。かつて自分を救ったヒーローとして。

ピンポン / Ping Pong
10

スマイルが笑うまで。

松本大洋の漫画を初めて読んだのはこの作品でした。とにかくインパクトは強烈でした。白黒でまるで版画のような濃いタッチ。このベタ塗りはヤバいと思いました。
要はスマイル(月本)の中での永遠のヒーローであるペコ(星野)の完全復活までを描いた物語であると言えます。スマイルはペコに憧れて卓球を始めました。そして、練習を全くせずにお菓子ばかりを食べているペコを実力でいつのまにか抜いてしまいます。スマイルにしてみれば心境は非常に複雑だと思います。それでもスマイルの記憶の中にあるヒーロー(救世主)はペコに違いありません。決して笑うことなくスマイルはペコの再来を待ち続けます。ペコは才能だけで勝ち続けてきたタイプの人間でした。いわゆる、天才。それとは対照的にスマイルは愚直なほどに同じ基本練習を繰り返す秀才。真面目だという言葉だけではもはや言い表せないレベル。スマイルの中ではある種の葛藤が起こります。自分はペコを越えてしまった。絶対に認めたくない現実。絶望したスマイルを触発するのはあくまで自分よりも強い存在だけでした。チャイナもアクマもスマイルには歯が立たない。早く負けたいのに勝ってしまう。そんな矛盾を感じながらスマイルは自分よりも強い存在の登場を望んでいました。最強の敵であるドラゴンを倒してペコがスマイルの前にヒーローとして帰ってくる。そして、最強のスマイルを絶対ヒーローであるペコが倒して物語は完結する。スマイルに笑顔が戻る。

ピンポン / Ping Pong
9

それぞれの向き合い方を描いたお話

登場人物4人の卓球への向き合い方を描いた作品。
スポーツ漫画でありながら自分の才能とその壁への向き合い方について、スポーツをやったことのない人でも共感できるストーリーになっています。

卓球の才能という面でまったく異なる登場人物4人が出てきます。最終的には物語の主人公であるペコが勝つ姿が描かれていますが、自分の才能と真正面から向き合っているドラゴンや周囲の才能に劣等感を感じながらも卓球から離れられないアクマ、自らの才能に気づきながらもそれを隠してきたスマイル、それぞれの良さがあり、読んだ方にはきっと登場人物4人の内のどれかに共感を覚えると思います。
最後はペコが勝つ姿が描かれているので何事も楽しむことが一番と思いますが、才能との向き合い方に正解はないと読んでいて感じました。

いわゆるスポコン漫画とは違い、特殊な能力が登場するわけではないので一度読んで衝撃を受けるような作品ではないかもしれません。ですが物語の中で人間味が色濃く描かれており、2回目3回目読むうちに気づいてくるものも多くありました。
仕事やスポーツ、普段生活している中でも劣等感や物事への向き合い方に悩むことは誰でもあると思います。そんな誰でも悩み得ることにヒントをくれるそんなスルメ作品だと思います。