紅の豚 / Porco Rosso

紅の豚 / Porco Rosso

『紅の豚』は、1992年7月18日に劇場公開された、スタジオジブリ制作・宮﨑駿監督による日本の長編アニメーション作品である。舞台は世界大恐慌に揺れるイタリア・アドリア海。自分自身に魔法をかけて豚の姿になったイタリア人・マルコが偽名「ポルコ・ロッソ」を使い、飛行艇を乗り回す空中海賊「空賊」たちを相手に、賞金稼ぎとして空中戦を繰り広げる。

紅の豚 / Porco Rossoのレビュー・評価・感想

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紅の豚 / Porco Rosso
9

出て来るもの全てが愛しい作品。

宮崎駿の好みが詰まっているであろうこの映画。まずその飛行機への愛みたいなものが感じられて良いです。出て来る部品とか飛行機操作とかがフェティッシュだし、飛行機製作のシーンにもこだわりを感じます。飛行機の描写ももちろん良いですが、キャラクターも良いです。出てくる全員良いです。ポルコはとにかくかっこいい、キザなことを喋る豚が何故ここまでかっこよく映るのか。とにかく台詞回しが粋。粋すぎて理解が追いつかない台詞すらあります。そして空賊がたくさん出てきますけど、悪事を働く人達でも真の意味で悪人として描かれているキャラクターはいないです。みんな子供には優しくて女には弱いから、嫌な奴という印象は全く受けないです。いざ連合を組んだらグダグダになったり、そのくせけじめをつけたがったり、フィオに萎縮したりします。序盤の幼児誘拐シーンなんか非常にホンワカホッコリ。カーチスも一応敵対者としてのポジションだけど、恋多くて、夢が大きくて、義理は欠かない良い男なんだ。かと思ったら島での登場シーンはちょっと間抜けだったりして憎めないです。宮崎映画にははっきりとした悪人があまり出てこないものが多いけど、空賊と賞金稼ぎのこのお話に悪人がいないのは、背景に戦争があるからなのかなぁと。戦闘機を描くと必然的に戦争も付いてくるから、悪事や悪人など嫌なことという役割は登場人物ではなく全て戦争に担わせたんじゃないかという風に思います。宮崎駿は飛行機が大好きだから、大好きな飛行機を悪人に操縦させるシーンを描きたくなかったのかななんて思います。さらに後日談があるのが凄く良い思います。フィオのナレーションでその後のことが語られていき、カーチスは夢のハリウッドで頑張っていて、空賊達はジーナのお店に集まっているところが描かれる。そしてジーナとポルコのことだけは観客の想像に委ねられて終わる。面白いと同時に不思議なリアリティラインのお話でもある。ポルコが豚になったのは呪いのせいだから魔法の存在する世界なんですけども、その存在は主人公でしか確認できません。それに周りの人達は皆んな豚の姿のポルコを不思議がりもしない上に、ポルコは有名人で慕われている。基本的にリアリティを持って描かれている作品なのに、主人公の存在だけファンタジーで、その理由も正体も分からないまま終わるという不思議な作品です。キザで飛行艇操縦の天才で人気者で嫌われ者の主人公が、最後にやっと自分を肯定できる。そんな映画だと思います。