空白(映画)

空白(映画)のレビュー・評価・感想

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空白(映画)
8

皆が被害者で、皆が加害者

まさにタイトル通りの映画。
父親は娘を殺された被害者であり、スーパーの店長を必要以上に追い込んだり生前の娘とちゃんと向き合わなかった加害者でもある。
そして、スーパーの店長は万引きされた被害者で、娘を死なせる原因を作ってしまった加害者。
軽自動車の運転手は娘を轢いてしまった加害者で、精神的に追い込まれた被害者。
一概に誰が悪いとは言えないのがこの作品だ。

しかし、個人的に加害者ではあるけど被害者とは言えないのでは?と思ったのはトラックの運転手とマスコミ。
トラック運転手はまあ、軽自動車の運転手同様いきなり道路に飛び出してきた娘を意図的に轢いたわけではないので、ある意味被害者と言えるのだろうが、
娘が死んだ事故に関わった人の中で唯一父親に謝っていないのだ。
いくら意図的ではない、不可抗力だったとはいえ、結果的に娘に止めを刺すような形になってしまったのだから、
せめて一度ぐらいは謝罪に来るべきなのでは?と感じた。
それが気にならなくなるほどムカついたのがマスコミの報道の仕方だ。
店長や父親に押しかけて強制的に取材を行うだけでも人間性を疑うのに、
その取材した映像を都合のいいように切り取ってありもしない事実をでっちあげる姿はとても醜いものだった。
しかし、こういった偏見報道というものは実際に起きててもおかしくはない。そう思うとゾッとした。

途中まではただただ胸糞な映画だ。だがその胸糞さの中に確かなる面白さと現実味がある。
また、最後の方で父親が恨むこと以外に目を向けたり、
店長も他人に感謝の言葉を投げかけられるようになるぐらい精神的に余裕を持てていたりと、救いが少し見えたのも良かった。
人は人によって追い込まれ、人によって救われる。そんなメッセージが感じられる映画だった。