ゴダールのリア王 / King Lear

ゴダールのリア王 / King Learのレビュー・評価・感想

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ゴダールのリア王 / King Lear
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チェルノブイリ後の人間文化の破局の中で言葉とイメージの関係性を象徴的に表現する『ゴダールのリア王』

『ゴダールのリア王』は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲をフランスの実験的なニューウェイブ映画の様式で演出した、1987年のジャン-リュック・ゴダール監督作品です。
脚本はピーター・セラーズとトム・ルディ。元々はノーマン・メイラーに依頼していました。
この作品はシェイクスピア悲劇を現代風にアレンジした類型的な作品とは異なっていますが、戯曲の中の数行のセリフがそのまま映画で用いられています。
リア王、コーデリア、エドワードの3人のみが両作に共通であるだけで、第1幕だけが2人ないし3人の人物が比較的意味のあるセリフを喋って絡み合う従来の映画的な演出がなされています。
『ゴダールのリア王』の設定は、ゴダール自身が小学校に通っていたスイスの片田舎です。
ゴダール映画の多くが映画文法の目に見えざる側面と関わりあう一方で、この映画の表面的なストーリーは、ほとんどの人間文明ーとりわけ文化ーがチェルノブイリの破滅以降に失われてしまった世界において、ウィリアム・シェイクスピア5世が祖先の戯曲を復元しようと試みることを中心に展開します。
シェイクスピアの戯曲を再現することよりも、映画はテクストによって喚起される象徴に重心を置き、権力と美徳の間の、父と娘の間の、言葉とイメージの間の関係をシンボリカルに探求します。
映画では従来のハリウッド的な映画製作手法の使用は注意深く避けられています。
その代わりに、ベルトルト・ブレヒト的な意味で観客を疎外することが試みられています。