メアリー・J. ブライジ / Mary Jane Blige

メアリー・J. ブライジ / Mary Jane Bligeのレビュー・評価・感想

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メアリー・J. ブライジ / Mary Jane Blige
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ストリートのタフな感性。ヒップホップ・ソウルの女王

「ヒップホップ・ソウルの女王」と呼ばれ、堂々たる存在感を放つ、ニューヨーク出身のシンガーソングライターです。数いる女性R&Bアーティストの中でも、一層タフで骨太な、ストリート寄りのアティチュードを持っているメアリー・J・ブライジ。彼女の楽曲は従来のR&Bのものよりも、サンプリングされたヒップホップのビートが強調されており、このようなヒップホップのグルーヴに乗せて歌うジャンルとして、"ヒップホップ・ソウル"という言葉が登場しました。
1992年のデビューアルバム『What's the 411?』から好調なヒットとなり、「Real Love」、「You Remind Me」など、胸が熱くなる名曲がシングルカットされています。男気のある歌唱やビートと、R&Bのスイートなメロディとのバランス感覚が抜群で、プロデュースしたショーン・パフィ・コムズ(パフ・ダディ)の腕前はさすがです。
1997年には、メアリー自身がエグゼクティブプロデューサーを務めた『Share My World』をリリース。流れるような美しいサウンドと、しっとりと哀愁を含んだ歌声が素晴らしいアルバムです。中でも、ストレートに愛を歌う「Everything」の美しさには感動しました。パフィのプロデュースから離れ、本当の意味での自分らしさを表現する自由を獲得したのではないでしょうか。メアリーの本質が見えはじめた作品です。
音楽で表現されているのは美しい愛ばかりではありません。2001年の『No More Drama』には激しい怒りが込められています。ダークで攻めたサウンドが新境地となった作品。「悲劇はもうたくさん!」と、苦しみや痛みに満ちた状況から抜け出すことをテーマにしています。望まないことには、断固としてNOを突きつける強さが必要なのだと教えられました。
歌唱にグッと安定感が増した2005年の『The Breakthrough』では、オーソドックスなヒップホップ・ソウルに回帰しつつ、新しいメアリー・J・ブライジ・スタイルを確立。Jay Z、ファレル、will.i.im と、客演アーティストの人選も手堅く、王道路線を選んだところに、揺るぎない自信と頼もしさが表れています。
もはや大御所となり、少し遠い存在になってしまったかのような印象がしばらくはありましたが、2017年の『Strength of a Woman』で、再びダイレクトに呼びかけるアンセムをリリース。一曲目「Love Yourself」の言葉が心に響き、目覚めさせられる思いでした。以前にも増してパワーアップした熱い作品となっています。
どんな時も真っ直ぐな音楽で、内面の美しさ、強さを感じさせる人です。そして同時に痛みを感じてきた人でもあると思います。苦しみを乗り越えて立ち向かい続けるメアリー・J・ブライジの音楽が、同じように傷ついた人々の心に寄り添ってきたことは間違いありません。