劇画ヒットラー

劇画ヒットラーのレビュー・評価・感想

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劇画ヒットラー
9

水木先生の最高傑作マンガ。学びもあり、楽しさもありです

これは、太平洋戦争の時代のドイツの指導者 ヒットラーの一生を、伝記風に仕上げた漫画です。彼はもともと勉強も運動もできない、気位だけ高い、ダメ人間でした。しかし彼が20代のころ、第一次世界大戦が勃発します。義勇軍として従軍したヒットラーは「戦争っておもしれー」と思ってしまいます。彼はいつか、軍を指揮して世界と戦うことを夢見、政治に奔走しだすのでした。それから独裁者となるまで彼が歩んだ道のり、栄華を極めてから衰退するまでの道のりが詳しく、鮮やかに描かれています。
ヒットラーというと、ナチズムを連想しがちですが、この作品にはあまり、「ナチズム」という語や「ファシズム」という語が出てきません(これらの思想がどのようなものだったかという解説は、まったく出てきません)。私は以前、ヒットラーを主人公とした歴史小説を書きましたが、ついつい思想の解説を多く書いてしまいます。おそらく素人は、「(特に激しい生き方をした)人物の人生を描くとき、その思想の話をしなければ迫力のある話が書けないのではないか」と考えてしまうのだと思います。しかし、これを採用せずに面白く迫力のある作品を描くことのできた水木先生を、私は尊敬します。

この作品では、人物の顔がおもしろく描かれており、各人物の話す内容がヘンテコです。学校で友達と、登場人物の表情を真似て変顔を作りながら、この漫画に出てきたセリフを吐き、遊んだことを覚えています。今でもこの作品を読み返すと、その記憶がよみがえってきて、楽しい気持ちになります。