大統領の料理人

大統領の料理人のレビュー・評価・感想

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大統領の料理人
9

おいしい料理と、時にはビターな人生

フランス大統領の専属料理人としてエリゼ宮に入った、史上初の女料理人オルタンスの物語です。
エリゼ宮での姿と、その後南極料理人として最後の一日を過ごす姿を交互に映すことで、彼女の境遇や心理が繊細に描かれた丁寧な一本です。

家族から教えられた地方料理を得意とするオルタンスは、「シンプルで家庭的なフランス料理が食べたい」と願う大統領のお眼鏡にかないエリゼ宮入りを果たします。雇い主の要望を叶えるべく、プロとして仕事と向き合うオルタンスは最高にクールで、観ているこちら側の背筋もなんとなくしゃんとしてしまいます。
しかし、実話をもとにしただけあって「カッコイイ女のおシゴト物語」だけでは終わらないのが本作。嫉妬を買った主厨房の男たちからの嫌がらせ、厳しい経費削減に伴い「本物の」食材を仕入れることが難しい歯痒さ、専属栄養士から突き付けられる多くの制約…オルタンスの受難は世の中の条理そのもので、軋轢に耐えかねた結果エリゼを去る結末は人生のほろ苦さを物語っています。
ひとりの女性の人生の一遍を、料理を通して覗いている気持ちになる映画です。

スクランブルエッグとセップ茸、サーモンとキャベツのファルシ、フォアグラの白ワインジュレ、エスカルゴのカスレット、おばあちゃん直伝のクリームたっぷりのサントノレ…素朴で温かみのあるフランス料理たちの美しさは一見の価値ありです。