薔薇王の葬列

薔薇王の葬列のレビュー・評価・感想

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薔薇王の葬列
9

シェイクスピアのリチャード三世のイメージが覆る解釈

本作は菅野文さんがシェイクスピアの「リチャード三世」と「ヘンリー六世」をもとに再構成した物語として描かれた漫画作品でしたが、これまで一般的に流布されていたそれらの戯曲や歴史的事実とされている知識が覆るような物語でした。
醜い悪人として長らく貶められてきたリチャード三世を悲しみにあふれた美しい人に…そして悲劇の王子たちがただその悲劇性をまとっていたわけではない、むしろとても人間臭い生き物であったという…二重三重のまるで呪いのミルフィーユのような物語の積み重ねが見事であり、そこには愛したい、愛されたいといった人間の感情がすれ違い、かみ合わずに朽ちていくかのような哀しみがありました。
この物語が完結した次世代にヘンリー八世が、そしてエリザベス一世が生まれてくる流れの布石までが打たれて、そこに向かうような余韻を味わいながらも、きちんと完結されたことは素晴らしいと感じています。
舞台化・アニメ化もされましたが、やはり原作コミックのタッチの美しさ、キャラクターの描写力の素晴らしさは特筆すべきレベルで、そのコマとコマの間の隙間をも埋めるほどの密度で描かれている菅野さんの絵は時間をかけてじっくりと味わうべきだと思っています。

薔薇王の葬列
8

中世ヨーロッパの王冠を巡る物語

中世ヨーロッパのイギリスを舞台にした王冠を巡る物語です。主人公は偉大なる父親を愛し、父に王冠を手にして欲しいと願う貴族の3男リチャードです。しかし、自身の忌々しい身体のせいで自分の愛した人たちは皆不幸になってしまうという悲しい運命を背負っています。尊敬していた父親をなくし、兄であるエドワードが王冠を手にしますが、女性関係で堕落したエドワードの治世は次第に悪くなっていきました。弟である自分にも、王冠を手に入れるチャンスがあるリチャードは、そんな乱世の王冠を巡る戦いに次第に巻き込まれていってしまいます。自分にも王座に座るチャンスがあると自覚し、側近であるキングメーカーのバッキンガム公に協力を得て、チャードはいろんな手を使い、貴族に取り入り、残酷に殺しもしながら王座に上りつめていくのです。様々な人間の思惑が入り乱れた人間ドラマに翻弄されていくのが見どころだと思います。また、リチャード自身の身体に隠された秘密を守りながら、時にはそれを逆手にとり人々を誘惑していく姿に目が話せませんでした。リチャードと敵の王様が繰り広げる禁断の恋の行方も必見です。

薔薇王の葬列
10

今までにないダーク・ファンタジー!

登場人物がとっても個性的です。一人一人の個性がこのお話の魅力の一つでもあります。そして、恋愛に発展していきそうで発展しないもどかしさ。どのキャラクターとの恋愛感情の裏にもどこか憎悪が見え隠れする、裏と表の心理描写も魅力的です。
このお話は、特に成人し少し生活にも心にもゆとりができ始める年代になる20代後半からの女性に読んで頂きたいです。そして、一番の魅力となるのは主人公の秘密です。その秘密によって進んでいくストーリーにいつもドキドキ、ヒヤヒヤします。
最初は憎悪のお話が多かったのですが、主人公が登場人物と接していくにつれ警戒が解かれていきます。そして、恋を知った主人公の心は穏やかになることはなく、大きくなっていく憎悪にいつも時間を忘れ見入ってしまいます。これから、主人公の恋の行方はもちろんの事気になりますが、やっぱり膨れ上がった憎悪がどのようになるのか気になります。一番の魅力である、主人公の秘密がこれからどうなってしまうのか大注目です。
そして、イラストも綺麗でこのお話にピッタリです。この作品はイラスト・ストーリー込みでとっても素晴らしい作品となっています。是非、恋愛ストーリー好きさんや、ドロドロ恋愛ストーリー好きさんだけではなく、いろんな方におススメできる作品です!