血の轍

血の轍のレビュー・評価・感想

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血の轍
7

異才の漫画家、押見修造の描く歪んだ愛

実写映像化が決定しているコミックス『悪の華』の作者、押見修造氏が描く、歪んだ愛の形。主人公は中学2年生の、どこか頼りない依存体質な少年です。はじまりは彼の両親と従兄弟の一家で一緒に山登りに出ているときに起こりました。少年と彼の母親を「過保護」呼ばわりした従兄弟は、山の絶壁で悪ふざけをしていた最中に少年の母親に突き落とされてしまいます。意識不明になってしまった従兄弟。その経緯を知るものは少年と母親のみ。病院内で警察から事情を問われる母親は、少年の前でウソの証言をします。そして、少年はそのウソに乗ってしまい……。
毒親、という言葉が一般的になって間もないですが、本作で描かれる母と子の関係性は、母親が放つ甘ったるい毒気だけでなく、その甘さに苦悩しながらも、最終的にどこまでも浸ろうとする子の弱々しい毒も感じられ、親子関係の歪さ、そして脆さを痛感できます。
子が親に、親が子に依存するその醜態を、リアルな筆致で捉えている点が本作の魅力のひとつです。両親の元からなかなか離れられない人や子離れができない人、つい身内を甘やかしてしまいがちになる人は、この作品を読んで関係性を俯瞰して考え、危機感を募らせてほしいと思います。

血の轍
8

まるで映画を見ているような気分

舞台は1980年代の山に囲まれた町。主人公の長部静一と、その母である長部静子にまつわる話。
この作品の見どころは、主人公の母・静子の異常なまでの息子への愛情が徐々に狂気を帯びていくことである。しかし、その狂気は決して安いホラーゲームのような瞬間的な衝撃によるものではない。母は常に笑顔で息子に接しているが、作者・押見修造特有の間によってまるで映画を見ているように現実味を帯びてくるのである。
第一話では静子はやや過保護ではあるが、どこにでもいる普通の母親のように感じられる。しかし息子を危ない状況に追い込んだりするとこに対する静かな怒りと狂気が押見修造の間によって突如として表現されるところは特に見どころだと思う。さらにこの作品の特徴としては通常の漫画にあるはずのあるものが使われていないところである。それはトーンである。この作品の中では背景などはすべてストロークやべたで描かれていて、それによって一層作品にリアリティが出てきて、母静子の狂気も紙面越しに伝わってくるような感じがする。また母静子だけでなくその息子であり主人公の静一もその狂気に少しずつ侵されていき、読者を心配にさせるところも見どころの一つといえる。