さよなら私のクラマー

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さよなら私のクラマー
10

女子サッカー青春譚&現代サッカー講座&おじさんサッカーファンホイホイ

本作品は講談社から発行の月刊少年マガジンに連載中の女子高校サッカーを舞台とした作品で、2016年6月から連載開始、2019年3月24日時点で単行本が8巻まで刊行されています。
作者は新川直司先生で、天才少年ピアニストの音楽への復帰と同い年のバイオリニストとのほろ苦い恋愛を主題にした作品で、アニメ化もされている「四月は君の嘘」の作者さんでもあります。

埼玉県を舞台にして中学生から高校生に進学した主人公たちが、弱小チームを強豪へと変身させていく、という王道スポーツマンガを地で行く展開なのですが、その舞台が高校女子サッカー、主人公は女子高生という珍しい設定となっております。

第一の魅力となるのが彼女たちのサッカー、ひいては勝つことへの情熱です。
主人公たちもさることながら、対戦する相手選手にもサッカーをプレイする、または熱中するきっかけとなったバックボーンがていねいに用意されており、読者はある種「どちらにも負けてほしくない」という感情移入をもって作品を読むことができます。その彼女たちのひたむきさにサッカー(スポーツ)経験者は大いに共感し、未経験者でも(作中の登場人物の一人がそうであるように)「サッカーをやってみたい」という気持ちにさせてくれます。

その彼女たちの気持ち、プレーが空虚に描かれないよう、試合中の描写もまたていねいに作られています。
その中で二つ目の魅力が現代サッカーの教科書となる、戦術講座とも言うべき試合運びの妙です。守備ブロックの構成やポゼッションの基本、「カテナチオ」など身体だけでなく頭もフル回転させながら試合に臨む姿が、情熱にロジックを加えて試合の面白さを演出してくれます。
ただ、戦術による戦況の有利不利の描写は間違いなくあるのですが、実際のサッカーと同じように、ジャンケンのようなパーに対してチョキを出せば勝てる、という単純な構図とはなっておらず
その有利不利が結果にすぐには反映されない、という点も演出の妙の一つと思います。

これだけでも十分面白いのですが、トドメに心を射抜いてくれるのが一つ一つのプレイ。
みんな上手いなあと感心するばかりですが、タイトルにある「おじさんサッカーファン」をホイホイしてくれるのが、名うての名手が降りてきたかのようなプレーの数々。詳細はぜひ中身をご覧いただきたいのですが、一つだけ、作中で最強チームの名を冠する久乃木学園高校の天才プレイヤー、井藤春名ちゃんが繰り出すフリーキックはあのFK職人そっくりです。
こういうところに作者さんのサッカー愛が滲み出ているところが、よりいっそうこの作品の魅力となっているかと思います。

もちろん上に挙げた以外にも面白さはいたるところにありますので、どうぞお読みいただき、この世界に触れてくださればと思います。