悪人

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悪人のレビュー・評価・感想

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悪人
10

愛を知ってしまった「悪人」のゆく先

李相日監督作品「悪人」は、サスペンスの顔をしたラブストーリーだ。
舞台は九州、漁港に住む青年・祐一(妻夫木聡)は自分を邪険に扱った女性(満島ひかり)を殺害してしまう。祐一は出会い系サイトで出会った光代(深津絵里)を強引に車に乗せ、一緒に警察から逃げる。
祐一は親に捨てられた過去から、人を愛することがなんなのかわからない。そんな彼が、光代と共に過ごすうち、人を愛することを知っていく。するとどうなるか。人を愛する気持ちを理解すればするほど、自分の罪の重さを知っていくのだ。自分が殺した女性にも、大切な人がいたのではないか。彼女を殺したことで誰かが苦しんでいるのではないか。そんなことが想像できるように変化していく。それは確かに成長なのだが、彼にとっては苦しみでもあった。
愛を知った彼が、最後に下した決断は涙なしでは観られない。一見、殺人犯の逃亡劇というサスペンスでありながら、人を愛することで主人公が成長していくという美しいラブストーリーでもある。
祐一を演じた妻夫木聡は、完璧に田舎の冴えない青年に変身している。光代役の深津絵里も、あれほどの美しさでありながら恋愛に縁のない寂しい女性に見える。何もかもが恐ろしくリアルで、作品への没入感が高い作品である。
誰かを愛した経験のある人、誰からも愛されなかった人、両方の心にぐさりと刺さる作品だ。

悪人
10

タイトルなし

私の大好きな作品、『怒り』の李相日監督の過去作。


ずっとずっと観たくて、でも観るのを躊躇してしまっていた作品。何故か分からないけど、とんでもなく凄い作品のような気がして怖いと感じていた自分がいたから、。

李監督の演出に関しては何度か観たり聴いたり読んだりしていて、本物のお芝居を、
芝居じゃなく本物をというかその一本の芯みたいなものが凄く好みでそして憧れでもありました。
簡潔に表すなら名作、いや迷作といえば伝わるかな。終始胸が苦しくて叫んでた。
内容や空気感、湿度が自分好みであったのはもちろん、キャストの熱量、技量、語彙が無くなる感覚でした…。
こんな映画があって良いのか、こんなお芝居をする人がいて良いのか。
どちらも良い意味で、です

全員が全員、想像をはるかに超える芝居をしていて、分からなくて、震えた。
どの瞬間を切り取っても隙がない。表情や表現の変化が突然で、それはもう、追いつけないくらいでしたけど、私の記憶としてずっと残ってくれるだろうなと、いった感じです。

題名の、悪人。
この言葉だけを聞くと、とっても軽く聞こえてしまうけれど、この物語はそう簡単に扱えるものではないと私は感じました。
もっと深くてもっと苦しくてもっと痛い。

何故、こんな苦しい物語を作ってしまったのか作ってしまう観てしまう移入してしまう。
結局は客観視しかできないそれでも踏み込みたい気持ちがあるからきっとどこまでもはまってしまうんだろうと思います。
嗚咽になる程愛おしくて残虐で代わりなんて見つかるはずが無くて。大切な人がいない人間が多すぎる
失うものがないから、強くなった気になる。いつだって傍観者でそれを突きつけてくるから悔しかった。誰が本当の悪人、?

罪を犯した人、その人を生んだ両親、それとも、その人を愛した人、世間、マスコミ、横目で知らないふりをした人、嘲笑った人、一緒に苦しんだ人
罪を犯した人が本当に悪人なの?誰の立場に立てば正解で、誰の味方をして誰のせいにすれば正解だったのか。
愛してしまったら悪人、共感してしまったら悪人、じゃあ知らないふりをしている人は、悪人じゃないの?
責任を押し付けて吐き出す場所にして、暴力、ナイフ、刺さる言葉にしかならないし真意なんて誰にもわからない、謝れば良いの、悔やめば良いの自分を壊して、誰かの苦しみを笑えば楽になりますか。
傷つくのが怖くて自分は強い人間だって思い込むために踏み込まずに外から暴言を吐いて守ってそんな世界は嫌だな。だからこそ二人の、二人しかいない透明で冷淡な世界を救ってあげて欲しかった。