ベンジャミン・バトン 数奇な人生 / The Curious Case of Benjamin Button

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ベンジャミン・バトン 数奇な人生 / The Curious Case of Benjamin Button
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美しい人生について

スコット・フィッツジェラルドの短編を「フォレスト・ガンプ/一期一会」や「インサイダー」、「ミュンヘン」、「グッド・シェパード」など重厚なドラマを描くことで知られるエリック・ロスらが脚色し、デヴィッド・フィンチャーがブラッド・ピットを主演に迎えて制作したドラマです。そこには、ある男の数奇な運命が刻まれています。
主人公ベンジャミン・バトンは誕生して間もなく、その異様な有り様から長くは生きられないとされ、育ての両親からとある老人ホームに密かに置いていかれます。しかし、そこの主人とその家族によって、ベンジャミンは深く愛されながらすくすくと成長していきます。見た目は他の誰よりも変わっていましたが、その内面の成長は皆と同様にありふれて素朴であり、やがて独り立ちのときを迎えます。そして様々な世界の人たちとの交流、出会いと別れを積み重ねて人生を歩んでいきます。
時代は第二次世界大戦を経て1960年代に至り、ベンジャミンは青春を謳歌します。しかし、自身の運命に思いを馳せたときに家族を持つことに躊躇し、一人姿を消すのでした。その間に彼は世界中を旅して回り、全身でその素晴らしさを受け止め人生をさらに駆け抜けます。その最期は悲しくも美しいものでした。
作中に登場する「人生は先が読めない」との台詞が示す通り、人生はときに数奇で不思議に満ち、恐いことも多いですが、素晴らしいことも同様に待ち受けていることを教えてくれます。また、無限を示す数字の8の字をなぞるように羽ばたくハチドリが象徴的に登場し、人生は終わっても生き続けることを示唆しているように感じることができるかも知れません。そして冒頭と最後にひとつの大時計が登場するのですが、その誕生の経緯と運命もまた見どころのひとつとなっています。映像技術の素晴らしさにも目がいきがちですが、美しい物語が繊細な演出と演技によって紡がれている作品です。