メランコリア

『メランコリア』(Melancholia)は、ラース・フォン・トリアー監督・脚本、キルスティン・ダンスト、シャルロット・ゲンズブール、キーファー・サザーランド出演のデンマーク映画である。

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メランコリア
7

ラース・フォン・トリアーによるSF映画

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」や「ドッグヴィル」などで知られ、新作を発表するたびに賛否両論を巻き起こすデンマークの鬼才とされるラース・フォン・トリアー監督による、世紀末的な結末を迎える映画「メランコリア」は、天体衝突の危機に際しうずまく不安や恐怖、あるいは救いを描いた、監督にとって珍しいSFという題材をもとにした作品です。
トリアー監督による他の作品同様、「メランコリア」もまたアンハッピーな終わりを迎えるわけですが、そこに至るまでの主人公と周囲の人々の内面の変化が両極的であり、そこがこの作品を面白くしていると思います。また、冒頭に描かれる絵画のような美しい詩的な映像も見どころです。
主人公は結婚を控えた女性で、物語は彼女がフィアンセとともに結婚式場へ向かう場面から始まります。やがて天体が衝突するとは思えないほどのどかで静かな雰囲気のなか物語は進んでいきますが、式場では彼女の奔放な態度に周囲が振り回され、とりわけ式を取り仕切る実の姉はそれに辟易してしまいます。
やがて主人公自身、自分の人生に疑念を抱きはじめ、その夜のうちに招待客である勤め先の上司へ悪態をつくやその場でクビを言い渡され、さらには自らフィアンセを拒絶するに至り、式は台無しに終わってしまうのでした。
主人公はどこか晴れやかな様子で夜空を見上げ、そこに見慣れない光の点を見つけます。それがやがて地球へ衝突することになる「メランコリア」なのでした。
後半に入ると、もはや仕事も結婚も失っていた主人公は一転してひどい鬱を発症し、自分の身の回りのことすら満足にできず、姉家族に支えられながらやっとのことで生きている有様でした。一方、世界に目を向けると謎の天体「メランコリア」が地球へ徐々に接近していることが判り、それがぎりぎりのところで地球をかすめる進路を取っていることから世紀の天体ショーが期待されていました。
それに対し、主人公もまたその天体に得も言われぬ興味を抱くのですが、どこかそれが地球を滅ぼすことを期待しはじめ、天体が地球へ近づくにつれその期待が大きくなってくると不思議なことに重度の鬱から回復していくのでした。
面白いことに、それは天体の接近に不安を募らせる姉を含めた周囲の反応とはどこか対極的で、そこに活力を取り戻し救いすら見出していく主人公はその存在自体が映画を象徴しているとも言えます。また、とりわけ印象的なのは主人公の発する「地球は邪悪」との台詞です。だから無くなっても構わないという考えは、どこか監督自身が幻滅し絶望した世の中への想いなのかも知れないという気がしてきます。
そして天体衝突が決定的となり世界が混乱に陥るなか、主人公は姉と甥っ子とともにその瞬間を迎えるのでした。最後まで狼狽えていた姉に対し、主人公は甥っ子とともにただ目を閉じ炎に呑み込まれていき物語は幕を閉じます。その表情はもしかすると恍惚と安心感から穏やかなものだったのかも知れません。
監督に特有な過激な描写はあまりなく、人生に絶望した主人公が世界の終わりとともにそこに希望を見出だす不思議な作品ということが言える気がします。