ハクソー・リッジ

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ハクソー・リッジ
10

信念を貫く事で誕生した英雄の物語

戦争映画を観るのは、辛く苦しく悲しい。
それでも観ようと思うのは、自分が体験したことのない戦争を少しでも知り、絶対に戦争は起こしてはならないと再確認出来るからだ。
第二次世界大戦中のアメリカ兵の中に「良心的兵役拒否者」という宗教上等の信念に基づき、兵役を拒否する者がいた事をご存知だろうか。デズモンド・ドスはモーゼの十戒「汝殺す事なかれ」の教えを胸に、良心的協力者として殺す為ではなく救う為に従軍する事を選ぶ。デズモンドがその命を懸けて「あと1人…あと1人…」と銃弾飛び交う中次々と救出する一方で、アメリカ兵も日本兵も砲弾や手榴弾によって木端微塵に吹き飛び、火だるまになって死んでいく。
作中では「日本兵は死を恐れずに向かってくる」という台詞があるが、日本人の私達は当時の彼らの尊い覚悟に涙せずにはいられない。
死を恐れていないのではなく、「今ここで、この沖縄で敵を食い止めなければ次は自分の家族が殺される」そんな思いだったに違いない。もちろんアメリカ兵も家族のために必死の思いだったことは否定しない。戦争はどちらか一方が被害者ということはないのだから。
しかし、猛々しいアメリカ兵に日本兵が殺されていくハクソーリッジ陥落の場面では、自分が紛れもなく日本人であると頰を伝う涙で気づかされる。
デズモンドの父トムの台詞「平時は息子が父を弔い、戦時には父が息子を弔う」。
全くこの言葉に尽きる。
信念を貫き銃を持たずに戦争に挑んだ男の美談だけで終わらせてはいけない作品である。