同居人はひざ、時々、頭のうえ。

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同居人はひざ、時々、頭のうえ。
10

気付かせてくれる、一匹の猫。

現在は空前の猫ブームだそうで、経済効果は2兆円とも言われていますが、その一方で多頭崩壊や捨て猫の問題があとを絶ちません。

この作品の原作は同名の漫画作品で、全12話のアニメ化にあたり、細かいエピソードの編集は入っていますが、単に猫が可愛いだけの作品ではなく、核となる「誰かとのかかわり合い」というテーマは変わっていません。

基本的に1話完結で、同じ事柄が、人間と猫の両方の視点から語られます。
人間の主人公である朏素晴(みかづき すばる)は、若いミステリ作家です。小さい頃から本が好きで、ひととの関わりをうとましく思い、本ばかり読んでいるか、仕事しているかで、だいたい引きこもっています。両親を3年前に事故で亡くし、ひとりで家に住んでいます。

猫の主人公のハル(晴)は、子猫のうちに他の兄弟と一緒に段ボール箱に詰められて捨てられ、野良になってたくましく生きていましたが、他の兄弟は、人間が拾っていったり、はぐれてしまったり、死んでしまったりして、たった一匹になってさまよっていたところで、たまたま両親の墓参りに来ていた素晴の供えた刺身を食べてしまい、小説のネタに困っていた素晴にそのまま拾われて、一緒に暮らすことになります。

素晴は、人間ですら苦手で関わりあいになりたくないのに、言葉も通じない猫との暮らしで、何を考えているかもわからなくて右往左往。餌を買いに行ったペットショップでも挙動不審になり、猫の名前を訊かれたのに自分の名前を答えてしまって、恥ずかしくなって帰ってしまったり。
そもそもハルの名前すら、別につけなくてもいいや、と、放置していたのを、ペットショップの店員さんに「名前をつけてあげてください。家族なんですから」と言われて、やっとつけた体たらく。
一方、ハルは、野良あがりで、一緒に捨てられていたきょうだい達の面倒を見ていた経験から、全然食事を摂ろうとしない素晴の面倒を見ているつもりでいます。しかし、だいたい空回りしてしまいます。
猫好きの担当編集者さん、大きな犬を飼っているお隣さん、時々料理をおすそ分けに来てはちょっかいをかけてゆく近所の幼なじみとそのきょうだい、猫の餌や飼育用品を買って、猫についての相談に乗ってもらったりするペットショップの店員さん。夫婦揃って旅行好きで、素晴を度々旅行に誘っては断られ、それでも旅先で素晴のための写真を撮ったり、花の苗を買って帰って植えていたお母さん。
ハルをきっかけに、今まで関わりがあった人達とのつながりが次第に変わっていったり、新たな出会いがあったりと、ひとりでいるつもりだった素晴は、本当はひとりじゃないことに気付いていきます。
ハルは、自分が面倒を見ているつもりの素晴が自分につけた、自分だけの特別な「名前」というものを知って、ひとりぼっちだった野良猫生活から、「世話の焼けるこの子」と、そのまわりの人達のいる生活が心地よくなっていきます。
ゆっくりと、少しずつ変わっていって、歩み寄ってゆくお互いの様子が、歯がゆくもあり、微笑ましくて、ほのぼのします。

猫の飼い方については、ペットショップの店員さんの説明で、餌の量やあげかた、首輪の説明や、健康診断のために病院に連れて行くことなど、実用的な知識も色々と知ることができます。
猫を飼っている人は猫との生活を、猫を飼おうと思っている人は、猫を飼うということについて考えるよい機会になるかもしれません。
最終回のラストで、素晴が
新作のテーマに選んだのは「家族」。

亡くなった両親、そして、一緒に暮らす「同居人」。
ハルに出会わなかったら決して選ばなかったであろうテーマで、素晴はどんな物語を綴ってゆくのでしょう。