血の轍

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血の轍
8

まるで映画を見ているような気分

舞台は1980年代の山に囲まれた町。主人公の長部静一と、その母である長部静子にまつわる話。
この作品の見どころは、主人公の母・静子の異常なまでの息子への愛情が徐々に狂気を帯びていくことである。しかし、その狂気は決して安いホラーゲームのような瞬間的な衝撃によるものではない。母は常に笑顔で息子に接しているが、作者・押見修造特有の間によってまるで映画を見ているように現実味を帯びてくるのである。
第一話では静子はやや過保護ではあるが、どこにでもいる普通の母親のように感じられる。しかし息子を危ない状況に追い込んだりするとこに対する静かな怒りと狂気が押見修造の間によって突如として表現されるところは特に見どころだと思う。さらにこの作品の特徴としては通常の漫画にあるはずのあるものが使われていないところである。それはトーンである。この作品の中では背景などはすべてストロークやべたで描かれていて、それによって一層作品にリアリティが出てきて、母静子の狂気も紙面越しに伝わってくるような感じがする。また母静子だけでなくその息子であり主人公の静一もその狂気に少しずつ侵されていき、読者を心配にさせるところも見どころの一つといえる。