湯を沸かすほどの熱い愛

湯を沸かすほどの熱い愛

『湯を沸かすほどの熱い愛』とは、2016年に公開された日本映画。「幸の湯」という銭湯を営む幸野家。しかし1年前に父が家を出て行ってしまい銭湯は休業状態。母の双葉はパートをしながら懸命に娘を育てていたが、ある日余命宣告を受ける。双葉はその日から、「絶対にやっておくべきこと」を決め実行して行くが、それは家族の秘密を取り払うことでもあった。関わるすべての人の心を突き動かす強さと優しさを持つ主人公・双葉を宮沢りえが演じ、失踪した夫・一浩をオダギリジョーが演じる。第40回日本アカデミー賞受賞作品である。

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湯を沸かすほどの熱い愛
10

新作が待ち遠しい監督がまたひとり増えた

原作モノや続編があふれる今、オリジナルでもこれほど胸にガツンとくる映画を作れるのだと証明する力作。奇をてらわず、どっしりとした王道のファミリー・ドラマを描き上げている点、スタッフもキャストも実に肝が据わっている。

“大衆浴場”という絶滅危惧の文化は本作の象徴ともいえよう。多くが「しょうがない」と簡単に諦めてしまうところを、本作のお母ちゃんは絶対に諦めない。自らの死期を悟るや否や、自分の望むことすべてを、がむしゃらなまでに成し遂げようとする。その意地と根性が伝播し、人の心を裸にさせる。そうやって裸になった心と心をしっかりと繋いでいく。ある意味この人は“歩く大衆浴場”だ。

見方によっては死にゆく者のエゴかもしれないが、周囲が「彼女に賭けてみたい」と思うのは、この歌舞伎の人情物から飛び出してきたようなヒロインのなせるわざ。宮沢の熱演、お見事。肌にジンジンくるほどの湯加減が、観る者の心をいつまでも心をポカポカと冷まさせない。
「チチを撮りに」が良かったので、本作も期待はしていたが、予想をはるかに超える大傑作。エピソードを積み上げていくなかで、映像から伝わる感情をコントロールするのが格別にうまい監督だと思う。
宮沢りえの役どころは、夫が家出中、娘は学校でいじめられていて、さらに自分は末期ガンを宣告されてしまうという、まさに踏んだり蹴ったりの女性。ところが、持ち前の強さと明るさと愛情で、家族と出会ったすべての人を変えていく。その慈愛ぶりはまるで聖人のようだが、宮沢が実に人間らしく、魅力たっぷりに演じている。
観賞してから何日もたつのに、思い出すだけで涙腺がゆるみそうになるシーンがいくつもある。彼女が出会った人々を愛であたためたように、映画を観た人の心にもきっと「熱い思い」が残るはず。新作が待ち遠しい監督が、またひとり増えた。