秘密への招待状(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『秘密への招待状』とは、2019年アメリカにて公開されたヒューマンドラマである。インドで孤児院を経営するイザベルに、ニューヨークのメディア会社で長年辣腕を振るってきたテレサという実業家から大口の寄付の話が舞い込む。イザベルはテレサの強引な要請で、契約をまとめるためにニューヨークに飛ぶ。そこでイザベルを待ち受けていたのは、心の奥底に封じ込んでいた自らの過去だった。18歳で訳あって別れた元恋人オスカーと、2人の間に生まれた娘グレイスとの突然の対面に揺れるイザベルの心を、テレサの愛情が溶かしていく。

『秘密への招待状』の概要

『秘密への招待状』とは、2019年アメリカにて公開されたヒューマンドラマである。2006年に公開され、第79回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたデンマーク映画『アフター・ウェディング』のリメイクである。オリジナル版では、「デンマークの至宝」と称されるマッツ・ミケルセンが主役を演じた。
2007年にデンマークの映画会社からリメイク権を獲得したプロデューサーのジョエル・B・マイケルズは本作を監督するのにふさわしい人物を探すのにかなりの時間をかけた。その結果、2016年にバート・フレインドリッチ監督が決定する。
バート・フレインドリッチ監督は製作と脚本も兼ね、妻であるジュリアン・ムーアも製作に名を連ねている。オリジナル版では主人公と元妻の結婚相手はともに男性だったが、本作では2人の女性の物語として描かれる。アメリカでは2019年夏に公開。全世界での興行収入は294万ドル。
テレサを演じるジュリアン・ムーアはフレインドリッチ監督が脚本を完成させた段階で出演を決意。監督とともに、本作のテーマである、「究極の家族愛とは何か」を追求した。
さらに、ミシェル・ウィリアムズが出演を即決したことはムーアを感動させた。この魅力的な作品に共感した2大女優の火花散る演技にも注目が集まった。また、本作の持つ普遍的な愛の選択に魅了されたフレインドリッチ監督の手腕は他の配役にも生かされており、テレサの夫を演じたビリー・クラダップはフレインドリッチ監督の親友とのこと。
クラダップの抑えた演技は、過去の恋人と現在の妻との関係に直面させられた夫の心情をうまくとらえている。女性2人の陰になっている感はあるものの、夫としての決断が家族の要となることを示唆する重要な役どころだ。

インド・カルカッタで孤児院を経営するイザベルと、ニューヨークで活躍する実業家テレサという対極にある2人の女性が、イザベルの施設への寄付という名目で対峙し、その心の内側を探り合うところから物語は始まる。
経営難に苦悩するイザベルに朗報が入る。ニューヨークの大企業からの寄付の話が舞い込んだのだ。すぐにでも資金を手に入れたいと願うイザベルにテレサからある提案がなされる。
寄付の手続きのためにはイザベルの渡米が必須条件となったのだ。しかたなくニューヨークに着いたイザベルには高級ホテルのペントハウスが与えられた。これもテレサの差配であった。どうしてこんなにも待遇がいいのかといぶかるイザベルだったが、その先にはさらなる驚きの展開が用意されていたのである。
孤児院支援の話に興味を示すどころか、イザベルをニューヨークにとどめておこうというテレサの思惑が明らかになるにつれ、イザベルの心中に「テレサはなぜ自分をニューヨークに来させたのか」という疑念が巻き起こる。一刻も早くインドに帰りたいイザベルをテレサは週末に郊外の自宅で行われる自分の娘の結婚式に誘う。結婚式当日、車の渋滞で遅刻したイザベルは自分の目を疑う。新郎新婦の横に座っているのは、18歳で別れた元恋人オスカーだったのだ。
続く新婦グレイスの両親への感謝の言葉にイザベルは真実を知る。ここにいるのはまぎれもなく、元恋人と、出産後すぐに養女に出したはずの愛娘だった。この予想外の出来事はイザベルを混乱させた。家族写真を撮り終えたオスカーがイザベルに近づいてくる。「なぜ君がここにいるんだ」と詰問されたイザベルは言い返す言葉が見つからなかった。
思いがけない元恋人、出産後に一度も会わなかった娘との再会が意味するものとは何か。不安を隠しきれないイザベルは、テレサの策略に引きずり込まれていく。

ムーアはテレサが自分にとって正しい決断をしたことに感動したと語る。実際にテレサと同じことをする人たちを見て来たこと、撮影前に多くの人たちから話を聞いたことで共感したのだ。ムーアは、テレサの選択は複雑だけれど、人間味にあふれた行動だと感じたからこそリメイクの製作を望んだという。
また、ウィリアムズもこの映画は2人の決断を批判するものではないと発言している。テレサとイザベルは、自分たちの子どもにとっての最善の選択をしただけであると。イザベルの感情の起伏に強く惹かれたウィリアムズの芯のある演技が、本作をいつでも起こり得る現実だと教えてくれる。
男性2人が主役のオリジナル版とは違う、2人の女性の目を通して語られる優しさに満ちた本作は、ヒューマンドラマとしても十分見ごたえのある作品となった。

『秘密への招待状』のあらすじ・ストーリー

イザベル、ニューヨークへ行く

瞑想終了のベルを鳴らすジェイ。

インド・カルカッタ
孤児院を経営するイザベル・アンダーソンは今日も子どもたちと自然の中で瞑想をしていた。こうすると本当に心が落ち着くので、彼女にとって欠かせない日課となっていた。皆が瞑想に没頭している端でひとり鼻歌を歌いながら横になり、手で鳥の羽の形を作っている少年の名はジェイ。
イザベルはジェイの隣に横たわり「何ていう鳥?みんなと瞑想すれば好きなだけ鳥を見られるわ」と諭す。ジェイが「今日は目を閉じたくない」と言うのでイザベルは代案を思いつく。「ベルを鳴らす役はどう?」と聞くと、途端にジェイの顔が輝きすっと起き上がる。イザベルが先ほど座っていた場所に小走りで行き、ベルを取り上げ「チリリン」と鳴らした。皆がどっと笑いながら目を開ける。
ジェイは自分の興味のままに振舞う時があるが、何かを押し付けるよりも個性を伸ばす指導の方が有効だとイザベルは経験から知っていた。
遠出の帰りに最寄りの村に立ち寄り、トラックの荷台から大勢の子どもたちに食事を分け与える。孤児院の運営は苦しいのだが、根っからの慈善活動家であるイザベルにとってこの施しはその思想に沿うものなのだ。
イザベルがとりわけ気にかけているジェイは生まれてすぐに親に捨てられた。ジェイは繊細な性格で、周囲の子どもたちと馴染むのが難しい。イザベルと共にする時間が多いジェイをイザベルは我が子のように可愛がってきた。

事務員のプリーナ(左)に寄付金が振り込まれたかを確認するイザベル(右)。

イザベルと子どもたちが孤児院に帰り着いた。買い出しから戻ったパートナーの車を覗き込み、期待していたベッドや文房具が積まれていないことに不満をあらわにする。欲しかったものは資金不足で買えなかったのだ。落胆を隠せないイザベルは事務所に行き、事務員のプリーナに、待ち望んでいる寄付が届いていないかと尋ねる。つい最近孤児院には寄付の話が来ていた。あるニューヨークの女性実業家のテレサ・ヤングから寄付したいとの申し入れがあったのだ。
お金が振り込まれるのを心待ちにしていたイザベルに思いがけない難題が持ち上がる。テレサが寄付金の使い道の説明のためにイザベルに渡米を要求してきたのである。イザベルは思わず「何様のつもり?慈悲を説きに行ってるヒマはないわ」と声を荒げる。この寄付の話はすんなりいくと思っていたのに、渡米することになるとは考えてもいなかった。たとえ数日でも自分が孤児院を留守にすることなどできるわけがない。
しかし、相手は200万ドルの資金援助を提供すると言ってきた。これは予想以上の大金であり、どんなことをしても逃がしてはならないチャンスでもあった。その夜、渡米を決めかね、寝つけずにいるイザベラの耳に子どもたちの騒ぐ声が聞こえてきた。子どもたちの寝室に行き、おねしょをしたジェイが皆からからかわれている場面を見たイザベルは「大丈夫。もう平気よ。私がついてるわ。ここにいるからね」とジェイをなだめる。自分のベッドに戻ったイザベルは隣にいるパートナーに、「やはりニューヨークには行けない」と偽らざる気持ちを打ち明ける。ジェイを1人で残していくのが不安なのだ。
それを聞いたパートナーは、予定しているアルゼンチン出張の帰りに、イザベルの言葉を伝えに自分がニューヨークに行こうかと提案してくれた。翌朝、テレサにその旨を伝えると、どうしてもイザベル本人が来ないとダメだと念を押される。孤児院にとっての大きなチャンスを棒に振るわけにもいかず、イザベルは渡米を決意する。出発の日にイザベルは「お金をカバン一杯に持ち帰るから」とプリーナを安心させる。車に乗り込み、見送る子どもたちに手を振るイザベルは悲しそうなジェイに目を止め、後ろ髪を引かれる思いで孤児院を後にした。

テレサとの出会い

自宅の裏山で鳥の巣と卵を見つけたテレサ。

その頃、ニューヨークのテレサは郊外に立つ自宅に車を乗り入れた。仕事を離れても部下であるグウェンにイヤホンから指示を出す。そこにはシビアな実業家の顔がかいま見える。2階に上がると、8歳になる双子の息子たちがゲームをしていた。息子たちがゲームをする時間は制約があり、自分が帰宅した時点でゲームは終了となる取り決めをしていた。
一方、芸術家である夫のオスカー・カールソンは自分のオフィスでスタッフと新しい個展のため、照明器具を使って照度のテストをしていた。満足いく結果を確認したオスカーに娘のグレイスから電話が入る。グレイスは友人たちとの食事を楽しんでいた。今週末に結婚式を控えた婚約者のジョナサンも同席している。式への期待感と不安がグレイスを包み込む。オスカーはそんなグレイスの気持ちの揺れを敏感に察知し、式の準備は母であるテレサが完璧に取り仕切っているから万全だと安心させた。
翌朝。家の裏にある森で犬の散歩をさせているテレサは、会社のスタッフと打ち合わせをしていた。会話が終わり、森を進んでいくと、大木を見て足を止める。ぐるっと回ってみると犬が地面を掘り始めた。不思議に思ったテレサは地面にしゃがみ込む。そこには木の上から落ちたらしい鳥の巣があった。テレサが拾い上げると、巣の中には4個の卵があった。思わず大木を見上げるテレサ。母鳥は近くには見当たらない。

イザベル(左)とテレサ(右)の初対面。2人は寄付について意見のすり合わせをする。

その日、イザベルがニューヨークの高級ホテルにチェックインした。最上階のペントハウスをテレサが手配してくれていた。豪華な室内に目を見張るイザベルに、テレサの会社のスタッフから携帯電話を渡された。そのスタッフと社用車の運転手の番号が登録されている。
ホテルの部屋を出てロビーを歩くイザベルに、グレイスの婚約者のジョナサンが声をかけてきた。彼はテレサの会社の社員なのだ。このペントハウスはジョナサンが選んだものだった。
テレサの会社に向かう車中でイザベルはジョナサンからテレサの情報を聞かされた。テレサは22年前にゼロからホライズン社を作り、全米一のメディア代理店に成長させたという。ジョナサンは4年前にホライズン社に入社。今週末にグレイスと結婚すると告げる。
ここでイザベルはインドを発った日のことを思い浮かべた。渡米のための服を新調しに街にでたイザベルは、買い物に同行したジェイに「いつまでニューヨークに行っているの」と聞かれ、1週間だけだと答えたのだった。近いうちに迎えるジェイの誕生日には戻る予定である。
ホライズン社に着き、テレサの秘書のグウェンの案内でテレサの元を訪れたイザベルに、スタッフと会議中のテレサが目で合図を送る。会議を終えたテレサがイザベルに近づき2人は握手を交わし、テレサの部屋で話し合いが始まる。
「インドでの活動は映像で見せてもらったわ」と言うテレサにイザベルは「映像で不明な点でもありましたか?」と率直に聞く。今回の渡米がなぜ必要だったのかをどうしてもはっきりさせないといけないからである。もし、自分の活動に疑問を持たれたのであれば、それを納得のいくものに改善する努力が必要になってくるのがイザベルにも分かっていた。

大口の投資家であるテレサに気に入られなければこの話はボツになる可能性が高い。テレサは「いえ、大体わかった」と返事をした。ここで、イザベルは自分の活動内容を詳しく説明する。「南部だけで売春児童が20万人。その5倍が栄養失調です。都会はもっと悲惨です」と言い、持参した資料をテレサに差し出す。インドでは孤児院経営だけでなく、児童のための慈善活動も行っているのだ。「些細な病気で亡くなる子どもが数十万人。わずかな金額で救えます」と付け加える。テレサは「救える命を失うのは、悔しいわね」と同情を示してくれた。
このタイミングで、同席していたグウェンがテレサに声をかける。結婚式の手配をしているケータリング業者から「予定していたロブスター・リゾットを小エビに変更したい」という連絡があったという。テレサから「ロブスター不足なの?それとも誰かの不手際?」と突っ込みが入る。それを確認するためにグウェンは退出する。話のついでにテレサから娘の結婚式が今週末にあることがイザベルに知らされた。すでに耳に入っていると答えるイザベルにテレサは「ジョナサンね。娘から結婚したいと言われて、『まだ早い』と突っぱねてもよかったけど、一生恨まれるより最高の式を用意しようと思ったの」と微笑む。
子どもというものは、親に反対されればされるほど頑なになるのを知っているからこそ、テレサは娘の希望を叶えることにしたのだった。

テレサはイザベルが結婚しているのか、子どもはいるのかと質問する。イザベルが「仕事で手一杯です」と答えるとテレサは「家庭との両立は大変よね。私は欲張りだから無理してるの」と本音を漏らす。そして「私には双子の息子もいるの。苦労して授かったのよ」と打ち明ける。
雑談がひと段落したところで、イザベルは「私の活動の優先事項のリストをご覧になります?」と要点を持ち出した。
テレサが快く受けてくれたのに気を取り直したイザベルは、自分のプランを話し始めた。「孤児院に受け入れる子どもの数を3倍にします。その上で食事の改善と予防接種にかかる費用は1人あたり5ドル足らずです」。それを聞いたテレサは「とても素晴らしい。感動的だわ。ただもう少し精査させてほしいの。他にも有望な候補がたくさんあるし」と難色を示す。意外な返答に戸惑うイザベルは「えっ?寄付は決まりだと思ってましたけれども。その資料でうちの孤児院への寄付の必要性がわかるはずですが」と困惑を口にする。

しかしテレサは、週末に大イベントがあるからとはぐらかす。そしてイザベルも娘の結婚式に来れば、寄付のことをもっと話せると意味ありげに言う。予定を引き延ばしたくないイザベルはインドに帰らないといけないからと辞退するが、テレサは週明けまでいてほしいと譲らない。
部屋に戻ってきたグウェンに、テレサがイザベルを結婚式に招待する手配の指示を出す。そして、グウェンからテレサの健康診断の用意ができたことが告げられ、イザベルとの会見は終了となった。別れ際にテレサから「会社を売るのも大変なの」という不可解な言葉が出た。思ってもいなかった展開に怒りを抑えきれないイザベルは、部屋を出たところで靴を脱ぎ、心の動揺をなだめるかのように階段を駆け下りる。

テレサの娘グレイス、そして元恋人・オスカーとの運命の再会

イザベルはオスカーの写真入り作品集を見つけた。

結婚式当日。仕事を早めに切り上げ帰宅したテレサは、庭で式の準備を見守っているオスカーと顔を会わせる。式にもう1人招待したことをオスカーに告げると、結婚プランナーには内緒で忍びこませたらどうかと提案してくれた。テレサは庭の奥にいたグレイスと軽い会話を交わし、自室に入り薬を飲む。窓から式の準備が進む庭を見下ろし、次に大空を見上げるテレサの表情は疲れたようにも見えた。
その頃、イザベルはホテルの部屋のテラスでインドのジェイに電話をかけた。ジェイは「ニューヨークに鳥もいる?いつ帰って来るの?」と無邪気に聞いてくる。ジェイと電話を代わったプリーナが「お金をカバン一杯持って帰ってきて」と言う。電話を終えたイザベルが部屋の中に目をやると、知らない人たちがいた。グレイスの結婚式に着るイザベルのドレスが、ホライズン社のスタッフにより部屋に運び込まれていた。

夕方になり、グレイスの結婚式が始まった。オスカーとテレサに付き添われたグレイスが、牧師の横で待っているジョナサンに向かって歩き出す。牧師の話が始まった時に車の渋滞で遅れたイザベルが到着し、空いている席にそっと座る。
牧師の説教が流れるなか、イザベルの視線はテレサの肩に腕を回して何かを話している男性の横顔に吸い寄せられた。見るとはなしにそのまま見ているイザベルの表情が変わった。指輪の交換が終わった新郎新婦は、祝福の拍手に包まれた。心の動揺を周囲に悟られないようその場を後にし、家の中に入ったイザベルは窓辺に置かれたカタログに気づく。表紙に書かれていたのは「オスカー・カールソン作品集」という文字だった。パラパラとめくった先にあったのは元恋人・オスカーの写真である。イザベルはカタログを閉じ、再び庭に出る。家族写真を撮っているテレサ一家の様子を見ていたイザベルに気づいたオスカーが、静かに近づいてきた。オスカーは「君はなぜここにいるんだ?」と問いかける。返事に窮したイザベルを救ったのはテレサだった。「あら、ここにいたのね」と屈託のない笑顔を向けて来た。渋滞で来るのが遅くなったことを詫びるイザベルに「主人とはもう挨拶は済んだ?」と聞き、オスカーに「寄付を考えている孤児院の経営者よ。せっかくだから招待したの」とイザベルを紹介する。

左から、イザベル、グレイス、ジョナサン、オスカー、テレサ。

そこへ式を終えたグレイスが現れ、イザベルと挨拶を交わす。その様子を複雑な顔で見守るオスカー。すると、カメラマンが来て再び家族写真を撮ることになった。部外者であるイザベルがその場を離れようとするとグレイスが「一緒に撮りましょう」と誘ってくれた。何の因果がわからないが、こうして図らずもテレサ・オスカー・グレイス・ジョナサンとの記念写真に、固い笑顔を浮かべたイザベルが加わった。
出席者たちがテントの中にしつらえた食卓につく。テーブルの上のメニューには「ロブスター・リゾット」と書かれたオスカー特製の皿が飾られている。前菜には、テレサの希望どおりのロブスターがでた。ホライズン社でイザベルとの話し合いの途中で見せたテレサの強い発言の結果であった。
食事が始まる前にグレイスから両親への感謝の言葉が述べられた。その後にグレイスの口から意外な言葉が語られる。グレイスは1歳までオスカーと2人暮らしだったと告白し始めた。予想していなかった展開に接したオスカーに緊張が走る。それに気づくはずもないグレイスは話を進める。
ある日ソーホーで父娘に話しかけてきた赤毛の女性がテレサだったのだ。その時に、幼いグレイスがテレサの髪をつかんで離さなかったことが明かされる。テレサに懐いたグレイスの行動が、オスカーとテレサの結婚にまでつながっているのだ。ここまで聞いたイザベルはことの真相に行き当たる。実は、イザベルには若くして出産した直後に養子に出す約束で手放したひとり娘がいた。当時の恋人のオスカーもそれに同意した。オスカーと娘を病院に残し、イザベルは2人から逃げるように唐突に姿を消したのだった。

つまり、このグレイスこそ18歳で出産後に行き別れた我が子だったのだ。イザベルの動揺をよそに、グレイスから「ママを選んで本当によかったわ」と言われたテレサは涙ぐむ。乾杯が行われたタイミングで席を立ち、薄暮れの桟橋に佇むイザベルのもとに、席で隣り合わせになった男性・フランクがワインを持って近づいてきた。この機会を利用してイザベルをものにしようと企んでいる。しつこく誘いをかけるフランクにイザベルは「1人になりたいの。消えて」と辛らつに言い放つ。恐れをなしたフランクはスゴスゴと会衆席に戻っていった。

すっかり暗くなった式場を歩き回りながら、客と談笑するグレイスを目で追い、物思いにふけるイザベルに気づいたオスカーが近寄る。そして、意図的に集団から遠ざかっていくオスカーにイザベルが追いつき、「これはいったいどういうことなの?」と疑問を投げかける。「今は話せない。明日電話するよ」と言い残し、オスカーは花火が始まるビーチに去って行った。盛大に上がる花火を横目に見ながら早足でテレサの家を後にするイザベルの胸に、いいようのない憤りが渦巻く。それは生まれて間もない我が子を養子に出す約束を破ったオスカーへの怒りだった。
オスカーのしたことは我が子を手放すという、身を切られるような痛みに長年耐えてきた自分に対する裏切り行為である。どんな理由があっても2人で決めたことが守られなかったことに腹立たしさを感じたのだ。

祝宴が終わり、自室で薬を飲んだテレサは夫が待つベッドに横たわる。そして「知らなかったの。グレイスの母親がイザベルだったなんて」とオスカーに言い訳をする。しかし、オスカーは黙ったまま身動きもせずじっと暗闇を見つめていた。

テレサ(中央)、オスカー(左)に説明を求めるイザベル(右端)。

翌朝、結婚式に出席した客からの贈り物を家族で開けていると、玄関のチャイムが鳴った。応対にでたテレサの前にイザベルが無表情で立っていた。テレサに「ここで待っていて」と言われたイザベルはそれには取り合わず、さっさと室内に入り、家族の前に立った。イザベルが放つ深刻な雰囲気に気づいたテレサが、イザベルとオスカーを隣室に連れていく。オスカーが「それで、何が望みだ」とイザベルに開き直る。「どうして私の娘があそこにいるの?よく平気でいられるわね!」とオスカーに食ってかかるイザベルに返したオスカーの返事は、「他人に渡すよりマシだ」という言葉だった。
それを聞いたイザベルは「話が違うでしょ。娘を育てるのは無理と2人で判断したはずよ」と詰め寄った。しかし、オスカーは平然と「君がね」と言い返す。「あなたもよ」とイザベルに言われたオスカーは「僕は子どもだった」と自分をかばう。「2人とも子どもだったから生まれた娘を養女にだそうって決めたんじゃなかったの?それがあの子のためを考えた結論だったはずよ!」と迫るイザベル。
するとテレサが「私たち、あなたを捜したのよ」と口を出してきた。
イザベルは「嘘よ。あなたは本気で私を捜しもせずヒーローに収まった」とテレサに矛先を向ける。オスカーはたまらず「そんな言い方はよせ!出産後、君は退院してすぐ姿を消したくせに!」と強い口調で言い返した。何の罪もない、愛する妻を責めるイザベルに憤りを覚えたのだ。「辛かったからよ。それはあなたも知ってるでしょ!」とイザベルは食い下がる。それでもオスカーはひるむことなく、「君は何も言わず心を閉ざしてゾンビにしか見えなかった」と突き放した。
「だから私の子どもを奪ったの?18歳の私が母親として葛藤してたから?」とたたみかけるイザベルに「君はおかしかった。急に『死ぬ』とか言い出して」とあざけるように言い放つ。「嘘よ」とイザベルは反論した。「いや、君は僕に面と向かってそう言ったんだ!」と勝ち誇るオスカー。イザベルは「そんなことは絶対に言ってないわ!」と叫ぶ。

激しい言葉の応酬にグレイスたちと同じ部屋にいる犬が吠えだした。2人の間に割って入ったテレサは「わかったわ。2人とも落ち着いて。お願いだから」と懇願する。イザベルが「なぜ黙って育てたの?」と一番知りたい問いを発するとオスカーは「養子に出すことを思い直した時、君は消えていて見つからなかった。弁解はしないよ。僕には何の負い目もないからな!」と断言する。イザベルは「とにかく真実をあの子に話して」と静かに言い、帰っていく。

ついに明かされたグレイスの出生の秘密

オスカーからグレイスの生い立ちについての説明を受けるグレイス(左)とジョナサン(右)。

イザベルが去ってすぐ、グレイスとジョナサンを前にしたオスカーとテレサはことの次第を打ち明けた。見る見る間に涙があふれ出したグレイスはたまらず席を立つ。後を追うジョナサン。その場に残されたオスカーとテレサは無言でお互いを見つめ合う。
やがて落ち着きを取り戻したグレイスに会うためにオスカーはグレイスのマンションを訪ねた。オスカーは2人だけで向き合う。「いつも最善の決断を下してきた。お前には簡単には理解できないだろうが」と切り出すと、「当り前よ。わかるわけない!」とグレイスは抵抗した。怒って席を立ち、荷物を詰め始めたグレイスにオスカーは「僕なりに懸命だった。こんなことになるとは夢にも思わなかったんだ」と焦りを見せる。そして「『お前の母親は死んだ』と伝えてきたのは、お前に母親に捨てられたと思わせたくなかったからだ。僕の気持ちが分からないか?小さなお前を傷つけたくなかった」と弁解する。「じゃあ、今は傷つけていいの?私が平気だと思う?パパは間違ってたのよ。私に許しを求めないで。パパを許さないから。イザベルはどこのホテルに滞在しているの?」と、真剣な表情で訴えるグレイスをオスカーはじっと見つめることしかできなかった。
オスカーとの話し合い後、グレイスは夫ジョナサンの運転する車でイザベルが滞在するホテルに着いた。グレイスの心情を思いやるジョナサンは「本当に行くの?君には最高のママがいるのに」と気づかう。それを聞いて眉をひそめるグレイスにジョナサンは「ごめん、君のためを思って。ここで待ってるよ」と言い足す。無言で車を降り、ジョナサンを見つめるグレイスの目は冷たい。
エレベーターで上階にいく間、グレイスの心のなかでは様々な感情がせめぎ合っていた。今朝突然に知ってしまった自分の出自と、それへの対処法で頭がいっぱいになっていた。だが、どんなに厳しい試練であっても現実から目を背けることはできない。まずは生みの母であるイザベルに会うことだ。その決意を新たにしたグレイスは唇をぐっと引き締めた。

宿泊先のホテルにイザベル(左)を訪ねてきたグレイス(右)。

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ハンニバル(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

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『ハンニバル』とは、2001年の米英伊合作によるサイコ・スリラー映画である。原作はトマス・ハリスの同名小説で、大ヒット作『羊たちの沈黙』の続編に当たる。監督はリドリー・スコットが務め、主人公レクター役は前作から引き続きアンソニー・ホプキンスが担当した。元精神科医で狂気の連続殺人鬼「ハンニバル・レクター博士」を巡る、極めて猟奇的な物語。FBI捜査官クラリスは彼を追うのだが、その先には身も凍る恐ろしい惨劇が待っていた。息を飲むスリリングな展開と、絵画のような映像によるコントラストは必見である。

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ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』とは1997年に製作されたアメリカ映画で、1993年に製作された『ジュラシックパーク』の続編である。イスラ・ヌブラル島で起きた事件から4年、その島とは異なるサイトB呼ばれる場所で恐竜の存在が確認された。新たに社長になったハモンドの甥のルドローはサイトBにいる恐竜を捕獲し、サンディエゴに新たな「ジュラシックパーク」を建設しようとしていた。マルコムたちがその計画を止めようとするも捕獲は成功し、サンディエゴへと運ばれるがそこで悲劇が再び起こってしまう。

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あの頃ペニー・レインと(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

あの頃ペニー・レインと(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『あの頃ペニー・レインと』とは、2000年に公開されたアメリカ映画で、若者の成長と挫折を描いたヒューマン・ストーリーである。弁護士を目指す優等生のウィリアムは、ある日姉の影響でロックに夢中になる。伝説的ロック・ライターに自分を売り込んで取材の仕事を得ることに成功したウィリアムは、”スティルウォーター”というバンドに気に入られ、楽屋へ招待されることになった。そこでバンドのグルーピーであるペニー・レインにウィリアムは一目惚れする。15歳の少年を変えたのは、ロックと初恋だった。

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『ドリフターズ』と史実や他メディアでの同名キャラとを比べてみた!

『ドリフターズ』と史実や他メディアでの同名キャラとを比べてみた!

『ドリフターズ』とは、『ヘルシング』でもお馴染み平野耕太先生の作品。それぞれ異なった時代の人物たちが登場し、世界を壊さんとする「廃棄物」側と、それを阻止せんとする「漂流者」側とに別れ戦う、史実ごっちゃ混ぜ気味なマンガなのです。今回こちらでは、作中に登場する人物と、史実やマンガ及びゲームなどの人物像とを比べつつ、簡単な解説と共にまとめさせて頂きました。

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