十二国記(The Twelve Kingdoms)とは

『十二国記』とは、小野不由美による小説、及びそれを原作とするアニメなどのメディアミックス作品である。女子高生の中嶋陽子は、人の顔色を気にして生きてきた。そんな陽子の前に、麒麟の景麒を名乗る青年が現れ彼女を王と呼ぶ。陽子は本来の故郷である十二国世界へ渡り、様々な戦いを経て王になる覚悟を決めるのだった。古代中国風の異世界を舞台に、権力とそれに伴う責任、コンプレックスなどを通して成長する人々を描くこの物語は、異世界ファンタジーでありながら、不思議なリアリティを持つ。

『十二国記』の概要

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十二国世界の大まかな地図。

『十二国記』とは小野不由美によるファンタジー小説シリーズ、及びそれを原作とするアニメなどのメディアミックス作品である。原作小説は1991年、講談社X文庫ホワイトハートより発行された。少女小説としての発表だったが、後に本来のターゲット以外の読者層も取り込んだため、2000年より講談社文庫からイラストのない一般小説として発行されている。なお、『十二国記』というタイトルは当初便宜上のものであったが、現在では正式なシリーズ名となった。主人公が異世界に飛ばされる点では、今でいう「異世界物」に相当する。他の「異世界物」作品との違いとしては、主人公が元々異世界の人間であることが挙げられる。

人の顔色をうかがい生きてきた女子高生の中嶋陽子は、ケイキ(景麒)と名乗る人物により王と呼ばれ「あなたを迎えに来た」と言われる。そのまま、陽子は景麒の力で、陽子が王として統治すべき国がある界世界(十二国世界)へと渡る(「クラスメイトの杉本優香、浅野郁也が一緒でなくては嫌だ」との陽子の要望により、優香と郁也も同行させられた)。王として人として成長していく陽子や周辺人物の姿を描くだけでなく、地位と責任や、各人の持つ使命などについても語る、壮大な物語と言える。
十二国世界の世界観は古代中国に似ており、字(あざな)という通称で呼ばれる人物も多い。一部の人物(楽俊、祥瓊、玉葉など)は戸籍に記された名前も登場するが、基本的に字で呼ばれる。
その他、各国には州侯(しゅうこう)なる役職(地方のトップ)があり、場合によっては役職や敬称で呼ばれることもある。たとえば「恵州候」の場合は、「恵州を治める州侯(役職)」という意味である。王は主上、麒麟は台補、王の娘は公主、息子は公子といった敬称が存在する。他にも性格や特徴から来る通り名があり、文才に優れる楽俊は、作中で「文章の張君(「張」は楽俊の姓)」を意味する文張の通り名を賜った。

テレビアニメ版は、NHK衛星アニメ劇場にて2002年4月から2003年8月まで放送されたものである。原作が未完であったこともあり、一部のエピソードがアニメ化された。放送は第1期(2003年4月~2003年3月)全39話、第2期(2003年7月~8月)全6話に分けられている。第1期は毎週火曜18:00、第2期は毎週土曜9:00に放送された。

主題歌はOP『十二幻夢曲』(作曲・編曲:梁邦彦)、ED『月迷風影』(作曲・編曲:吉良知彦・作詞:北川恵子・歌:有坂美香)

『十二国記』のあらすじ・ストーリー

『月の影 影の海』

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いきなり「あなたは王だ」と言われ戸惑う陽子。

人の顔色を窺いながら生きて来た女子高生の中嶋陽子は、夜眠る時に恐ろしい気配、怪物、猿に似た奇妙な男の言葉にうなされていた。日ごとにその気配の正体が近づいてくるのを感じる中、陽子の前に「景麒」を名乗る、見たことのない服を着た男が現れた。景麒は「あなたは王だ」と言い、陽子の前にひざまずく。
状況が飲み込めない中、学校が怪物の襲撃を受ける。景麒はその怪物の出どころ、襲われる理由を知っているようだった。陽子は怪物たちが夢に出たものと同じことから、景麒らと夢の繋がりを感じる。景麒は陽子に「あなたをあちらにお連れする」「あなたは私の主」とだけ説明し、剣を渡して戦えとまで言うのだった。
陽子は怖れから戦いを拒み、共にいたクラスメイトの浅野郁也、杉本優香と一緒でなければどこにも行かないとした。怪物には陽子らを襲うもの、景麒の命に従い動くものがおり、陽子はしばし景麒の使役する冗祐なる怪物を体に潜ませることとなる。陽子、優香、郁也の一行は景麒の力で空間に開いた穴から、別の世界(十二国世界)へと飛ばされた。日本と十二国世界とが繋がるこの現象は、「蝕」と呼ばれるものだった。

景麒が血の臭いを嫌う為、また移動用の怪物の性質上、陽子たちはバラバラに移動することとなった(戦闘で血を流す可能性がある上に、移動用の怪物は飛ぶものとそうでないものがいた)。陽子は護衛が囮となった上、移動用の怪物から落下。一人で人里へと向かうこととなる。村にいた人々からは何故か敵意を向けられる。陽子の中に潜んだ冗祐が陽子を守るべく村人を攻撃するが、陽子が「やめて」と声をかけると攻撃を止めた。陽子はそのまま「海客(かいきゃく)」と呼ばれ投獄される。獄中で優香と再会するが、陽子の顔は別人のものとなっていた。また、陽子には日本語に聞こえる現地の人々の言葉が、優香には分からないなど、奇妙な事実が明らかになる。この時点では、陽子は顔が変わった理由や、言葉に関する優香と自分の違いが分からなかった。

ファンタジー小説が好きな優香は、この状況をすんなりと受け入れた。また、陽子が「景麒が自分を主だと言ったが、何かの間違いではないか」と言ったことから、本当は景麒が迎えに来たのは自分ではないかとの思いを抱いた。陽子たちは村の長老から、ここが異世界であり、日本は蓬莱、自分たち日本人が「海から来た者」という意味で海客(かいきゃく)と呼ばれていることなどを知る。陽子たちがたどり着いた国は十二ある国の一つ、巧(こう)であった。
海客は、地方の役所である県庁に運ばれる決まりになっており、護送される時に郁也と再会する。連行の最中、獣の群れに襲われるが、陽子は剣を振るい窮地を脱した。

巧国を治める塙王は、慶国の王を選ぶ麒麟(各国に一体、麒麟がいる)の景麒が蓬莱(日本)へ王を迎えに行ったとの情報から、慶国の王が胎果であると見ていた。胎果とは、十二国世界の住民の卵果が蝕で蓬莱や崑崙(中国)に流され既婚女性の腹に入り、生まれた存在である。胎果や海客を災いをもたらすものとする塙王は、刺客を送り陽子を亡き者にしようとする。
陽子らは、海客の松山誠三(戦時中に流されてきた海客)よって役人に売られそうになるが逃走。その後、優香が塙王に仕える塙麟(巧国の麒麟)に接触。優香は、「あなたをお待ちしていました」との塙麟の言葉を、自分がこの世界に選ばれたと解釈し、塙王の手先となる。塙王は、優香を「世界を救う海客」と呼び、陽子を襲わせる。優香に「世界を滅ぼす怪物」として攻撃されたことなどから、陽子は次第に誰も信じられなくなる。一人の時、気を抜けば夢に現れた猿を思わせる奇怪な男である蒼猿が突如出現し、陽子の心を見透かすような挑発めいた言葉を口にするため、心を乱されていく。陽子の気持ちは荒んでいった。

倒れた陽子はネズミの半獣(動物の姿になれる人間)である楽俊に救われるが、初めは彼を信じることができなかった。「アンタを殺すつもりなら寝てる間にやってる」と言う楽俊は、何も知らない陽子にこの世界が大体どういったものかを教える。優しく介抱されたこと、多額の報酬が出るにもかかわらず役人に突き出されなかったことで、陽子の心に楽俊とその母を信じたいとの気持ちが生じるが、またも蒼猿が現れて「あいつもいつかお前を裏切る」と言った。
楽俊は、海客の保護に力を入れている雁国までの道案内を買って出た。この旅路でも妖魔と呼ばれるこの世の理から外れた怪物の群れに襲われるが、陽子はこれを退けた。警備兵に見つかった際自分が海客だと言われるのではないかとの恐怖から、楽俊を見捨てて逃げてしまう。逃げおおせた陽子は、蒼猿から「あのネズミが余計なことを言うかもしれない。戻って息の根を止めろ」「お前に人助けなどできない」と言われる。
ここに来て、蒼猿と陽子の関係が変わり始めた。さんざん陽子の心の闇を暴き嘲った蒼猿だったが、その言葉で陽子の心が乱されなくなったのだ。逃げ切って山中で「ネズミ(楽俊)を殺さずなくてよかった」と泣きながら安堵する陽子に「あいつはお前を利用した」と言い募る。陽子は迷いを捨てて「優しくしたいから、信じたいから信じる」と決め、蒼猿を倒す。蒼猿は刀の鞘に変形し、二度と姿を変えることも、言葉を発することもなくなった。陽子は旅芸人一座と出会い、雁国にたどり着く。そこで楽俊と再会し、初めて彼を友と認識して名前で呼んだ。楽俊は港で働きながら、陽子が元の世界に帰る為の情報を探っていた。陽子は楽俊と共に海客の研究者である壁落人に会う。壁落人自身も、1969年に流されて来た海客であった。

壁落人は一目で、陽子を海客ではないと見抜いた。陽子が「こちら」に来てから姿が変わった旨を話すと落人は陽子が胎果だろうとし、卵果が実る里木を見せる。陽子は「景麒と名乗る男に自分が王だと言われひざまずかれた」と言う。すると楽俊、落人もまた膝を折り、陽子を慶の王だと言った。景麒は慶の麒麟であった。各国に一体存在し、自国の王を選ぶ麒麟は、王以外に頭を下げることも、膝をつくこともないと言うのだ。
楽俊は王という遠い身分に距離を感じ、そのまま陽子の前から姿を消して去ろうとしたが、陽子の「楽俊は私が海客でも差別をしなかった。王だと差別をするのか。私たちの間には、たった二歩の違いしかないじゃないか」との言葉が元で、友人として共に雁国に向かった。そこで雁国の王と麒麟である延王、延麒と出会う。陽子は蓬莱に戻れば死ぬと延王に言われる。景麒がひざまずいた時点で陽子は既に人として死んでおり、今後も生き延びるには、この世界にとどまって王になるしかなかった。麒麟との誓約を結んだ時点で、王は自動的に仙人として仙籍に載り、人としての精を終えるというのだ。景麒にもらった刀は、慶国の王・景王にのみ扱える水禺刀(慶国の国宝とも言える剣)、冗祐らは使令と呼ばれる、麒麟の部下の妖魔だった。
優香は落人と接触し、景麒は陽子と自分を取り違えていると主張したが、「あなたが王とは思えない」と返された。落人は、優香が自分とちゃんと向き合っていないと見て、心を開くよう優香に言った。一方の陽子は自分を王の器ではないとしたが、冗祐から「玉座を望みなさい。あなたならできるでしょう」と告げられた。迷いを捨てた陽子は、その動向を見張っていた塙王の手先となった優香と、冗祐の助けを借りずに戦う。隙を突かれて陽子の手から落ちた水禺刀に、塙王の姿、胎果の王を増やさない為の陰謀を語る姿が映し出される。塙王、塙麟が共にその場に来ており、塙王自ら陽子を殺そうとする。しかし、塙麟が陽子を庇い、死亡する。自らの主に、王殺しの罪をさせない為であった。
陽子には、優香共に日本に帰る選択肢もあった。迷っていた陽子だったが、楽俊の「迷った時は自分がやるべき方を選べ」「陽子がどんな国を作るか見てみたい」の言葉に後押しされて、王となる決意をした。

現在慶国の王を名乗っているのは、先王の妹舒栄(じょえい)であった。舒栄は一時的に玉座を預かる繋ぎの仮王ではなく、麒麟に選ばれた正式な王を偽り、玉座に就いていた。王が即位すると各国にいる白雉が「即位」と鳴く白雉鳴号が起こるのだが、楽俊は「白雉が鳴いたとの話はない、つまり舒栄は自分が王だと偽っている」と言う。景麒は呪具によって縛りつけられていた。水禺刀についた碧双珠の癒しの力で呪具の効力が失われた。家臣たちは麒麟を連れた陽子を見て、真の王が陽子であるとしてひざまずく。景王としての正式な即位式を済ませた陽子だが、彼女の戦いは始まったばかりであった。

優香は「あなたの代わりに当たり前の人生を生きる」と陽子に言い、景麒の力で蓬莱に戻る。優香は陽子の母に陽子はもう戻らないが、帰りたかったと思うと告げ、日常へ戻った。そんな中、優香は自分たちと同じく「神隠し」にあった人物がいることを知る。その人物は、高里要という名の高校生であった。

『月の海 迷宮の岸』

出典: www.happyon.jp

麒麟の姿になれないこと、王を選ぶ自信がなく悩む泰麒。

麒麟を生み出す捨身木に麒麟の卵果が実った。先に生まれた女怪の白汕子(はくさんし)は生を受けた直後から卵果に歩み寄る。麒麟を守り世話をする役目を担う女怪は、同時に実った戴国の泰麒が生まれ出る日を待ち望んでいた。ところが蝕が起き、卵果はそのまま蓬莱へ流されてしまう。

10年後。日本のとある場所。高里家の長男の要(かなめ)は、洗面所に水をこぼしたという身に覚えのない粗相と、それについて謝らないことが元で雪の降る夜に外に出されていた。かねてより要を「かわいげがない」と評していた祖母による仕打ちであった。そんな要を白い手が呼び寄せる。
引き寄せられて着いた場所は十二国世界。王を選ぶまで麒麟が住まう蓬山だった。要の正体こそ、10年前蝕で蓬莱に流された泰麒であり、白汕子や女仙たちは泰麒の帰還を喜ぶ。

蓬山に戻った泰麒は、戸惑いながらもすぐに変化を受け入れた。元々高里家の家族とは異質な感覚がしていたためでもある。しばし平穏な日々が続くが、泰麒は麒麟の姿になれないこと、王を選び出す自信がないことなどから沈むことが多くなる。自分が麒麟だと言われても、出来損ないであるとの気すらしていた。景麒が泰麒と出会ったのはそんな時だった。既に王を選び、自在に転変(人の姿から、麒麟の姿に変化すること)ができる景麒は、転変の仕方を聞かれた時に「腕を上げるのにわざわざ人を訪ねますか」と答え、「転変は腕を上げるように自然で当たり前にできること」と示した。泰麒はその意図を感じ取るが、自然なはずの動作ができないとかえって落ち込んでしまう。それでも、景麒は泰麒に妖魔を自分の下僕である使令に下す方法やその意味(気力で妖魔を圧倒し、使役する。死後は使令に食われる)、王気は自然に分かると説明し、自分にできる限りのことをする。不器用ながらも真意は泰麒に伝わったらしく、別れる頃には泰麒から「景台補はお優しいです」と言われた。

やがて、昇山の時期が来た。昇山とは、麒麟に選ばれて王になることを望む人々が、蓬山を訪れることである。泰麒は誰からも王気を感じ取らず、王ではない人物にかける「中日までご無事で」との言葉をかけて回っていた。そこで将軍である李斎、驍宗と出会う。李斎には親しみを、驍宗に恐れを抱いた泰麒はそれぞれに「中日までご無事で」と声をかける。昇山の期間中、泰麒は李斎と親しくなり、彼女が王ならよかったと口にする。驍宗には怖れだけではなく、「怖いのに近づきたい」との間隔を覚えるようになった。
李斎の下にいる騎獣(人を乗せて運ぶ獣)に興味を示した泰麒の為、驍宗と李斎は女仙の許可を得て泰麒を騎獣狩りへと連れ出すこととなる。道中、一行は饕餮(とうてつ)という最高位の妖魔に襲われる。
泰麒は皆(というより驍宗)を守るべく、景麒に教えられたことを思い出しながら、妖魔を使令に下す術を行使する。逃げられないのなら、妖魔を自分の下僕である使令にし、従えるしかないと踏んだ為である。饕餮は最強の妖魔だが、気力を振り絞った泰麒により使令に下った。
傲濫(ごうらん)と名付けられた饕餮は泰麒から、下山をする驍宗の護衛を頼まれる。傲濫は「驍宗が王ならともかく、そうでないなら泰麒の安全を最優先する」と返した。泰麒は衝動のまま駆け出し、山を下りようとしていた驍宗を追う中で初めて無意識に転変を行った。
黒麒麟の姿で驍宗の前に現れた泰麒は、すぐに人の姿に戻り、驍宗の前で頭を垂れて盟約の言葉を口にした。この時泰麒には、「驍宗は王ではない」との意識があったが、驍宗を恐ろしいと思う半面、離れがたい執着心があった。衝動的に驍宗を追ったのも、彼と離れたくない気持ちがあってのことだった。一人の人間が一生に一度しか昇山できない上に、驍宗が戴国の軍職を離れ国からも出ようとしてるとあっては再会の機会はまずない。驍宗をとどめておきたいとの気持ち故、泰麒は驍宗を王に選んだのだった。
周りは祝賀ムードとなるが、泰麒だけは、天意に背いたと落ち込んでいた。罪の意識に耐えかね、泰麒は景麒に驍宗を行かせたくなくて王でもないのにひざまずいてしまったと打ち明ける。そんな中、延王が延麒を伴い戴国に訪れた。延王への土下座を強制される泰麒だったが、何故か頭を下げることができない。
「頭を下げろ」と続けた高圧的な延王、延麒の態度は芝居であった。自国の王以外に礼ができないのは麒麟の特性だった。つまり、「王ではない」と頭で思っても、驍宗が王の器であるからこそ、頭を下げるに至ったことが明らかになる。泰麒は、麒麟が天命に背くことはできないことを教えられた。景麒は「自分の言葉が足りなかった。驍宗殿と離れたくないとの気持ち、それは怖れに似ていても、王気を感じてのこと」だと伝える。吉日、驍宗は泰王として正式に即位をした。

しかし、泰麒は戴国の将軍である阿選(原作小説にのみ登場)に角を切られて再び蓬莱へと流された。蓬莱では1年が経過しており、泰麒=要は1年間神隠しに遭ったとされていた。祖母の葬式の日に戻った要は、十二国世界での記憶を忘れ高里要として生きていた(角を切られたことで麒麟の力と記憶を失った)。女と獣(白汕子、傲濫)という二つの存在の気配を感じながら。

※主に陽子が景麒や女仙から話を聞く回想形式で、泰麒を中心とした麒麟の蓬山での生活や性質、王を選ぶに至る経緯が説明される。同時に、蓬莱に戻った要の姿や、周辺人物の様子なども優香による独自の調査という形で描かれる。汕子と傲濫は要(泰麒)を傷つけるものを、麒麟や王にあだなす「王の敵」とみなして、制裁を加えるようになっていた。優香は要と接触した後で汕子から「王の敵か?」と声のみで脅しをかけられているが、「王の友人だ」ということで難を逃れた。尚、泰麒こと要が雪の夜外に出される原因となったのは、水の入ったコップを落としたことだが、実際に落としたのは白い手を目撃した卓(要の弟)である。

『書簡』

出典: www.nicovideo.jp

楽俊からの近況報告を受ける陽子。

陽子と楽俊が鸞(らん)という鳥を飛ばして互いの近況を報告し合う。楽俊は延国の大学で一番の成績をとり、鳴賢、蛛枕といった友人を得た。その半面、半獣故に講師から受講を拒否される、他の学生から書庫の書物をかじるといった噂を流されもしていた。

陽子は王となったものの、蓬莱とはまるで違う十二国世界に完全に慣れたわけではなかった。官吏たちは、王がいない頃も自分たちが国を動かしてきたとの自負から胎果の王を内心軽んじ、発言の揚げ足を取るなどする。景麒は景麒で、陽子が使用人に礼を言う、メモを取るといった行動を王らしくないと諫めるのだった。
塙王の崩御を聞いた陽子は、「会いたい人がいる」と景麒に拝み倒し、一人巧国へ向かう。陽子は楽俊の母と再会し、その足で塙王の子供たち(公子と公主)と出会う。陽子は、錯王とおくり名される塙王の心を乱してしまったと錯王の子ら詫び、仙籍を返上したという彼らを慶国に誘うが、彼らは「望んで荒れていく巧国に残り、次の王に国をお渡しするために少しでも畑を広げておく」と言うのだった。錯王の子らは50年間王宮にいて、国がどうなっているか、父が景王に何をしたのかといったことは何も知らなかった。陽子に慶国を巧国の新王が手本にできるような、豊かな国にしてほしいと告げた。陽子は「頑張る」と言ったものの、どう頑張ればいいのか分からなかった。言えるのは、王宮にいては民の声が聞こえないということのみだった。
錯王の公主から、離れ離れになった海客、郁也が塙麟により一時的に保護されていたことを知った陽子だったが、塙麟亡き今郁也の行方も分からない。他国の兵士や使令を送って探すことは許されないことであった(天により定められた掟で、いかなる理由があろうと他国に兵を送ることはできない)。
陽子、楽俊ともに鸞に吹き込んだのは、「順調」との報告にとどめるが、互いに本当は大変なんだろうとの懸念もしていた。その中で、陽子は自分があまりにこの世界を知らないことから王宮を出、楽俊は大学の休みを利用して他の国を見る決意をするのだった。

※十二国世界の世界観をおさらいする意味で挟まれた短編。放送第22話。陽子がこの世界をよく知るために王宮を出たり、楽俊は王がいるのに妖魔がはびこるという柳国に向かうことになったりと、次章への繋ぎにもなっている。
※『書簡』は、原作における『華胥の幽夢(かしょのゆめ)』(講談社X文庫)に収録されたエピソードである。

『風の万里 黎明の空』

出典: www.nicovideo.jp

王(陽子)と悪しき高官の癒着をきっぱりと否定する鈴(左)と祥瓊(右)。

陽子、祥瓊、大木鈴という三人の少女と、慶国を巡る物語。各人が別の者の状況をナレーションで説明する。少女たちは胎果の王(陽子)、謀反で父王を討たれた世間知らずの公主(祥瓊)、海客(鈴)と立場こそ違えど苦境に立たされていた。時期としては、陽子が王になってから1年が経過した頃である。

明治時代の蓬莱。大木鈴は口減らしのため人買いに買われ東京に向かう途中、蝕に巻き込まれて十二国世界に流される。言葉が通じない世界の中、旅芸人一座の中で暮らしていた。そんな中で飛仙(王に仕えない仙)である翠微君梨耀と出会う。
鈴は初めて言葉が通じた梨耀に「言葉が通じないことや、皆に笑われて過ごすのは嫌だ」と頼み込んだ。彼女の使用人として翠微洞へ連れて行ってもらった鈴は飛仙の使用人として、仙籍という戸籍に入れられ仙人になる。これにより、鈴は言葉の不自由を始め、老いや病、死などの苦しみから解放される。ところが、翠微洞での生活は梨耀から嫌味を言われ何かあれば仙籍から外すと仄めかされるなど、鈴にとって過酷なものであった。100年が経過した頃、鈴は慶国に新たな王が立ったことを知る。その王が蓬莱の生まれであり、自分と年の変わらない少女と知った鈴は、景王がいつか李耀を懲らしめ、自分を救ってくれると夢見るようになった。
ある晩、鈴は梨耀の大事にいていた壷を割ったことから、危険地帯にある食材を取ってくるよう命じられる。獰猛な騎獣の赤虎を見張りにつけられたこともあって、遂に堪忍袋の緒が切れて赤虎に乗り、才国の王が住まう宮殿に向かった。「洞主様(梨耀)に殺される!」と叫び、鈴は一時采王の下で保護される。
采王は鈴の話を聞き、梨耀と話をつけ一部の使用人を自分の下に引き取った。しかし、鈴の精神の幼さを感じ取り、外で成長させる為、彼女だけは引き取ることはしなかった。采王は、鈴を仙籍から外さないと約束し、旅費を与えて送り出す。見送りの際、采王は鈴に「相手の意思をくみ取る努力をすること」「人生は嬉しいことと辛いことの半分で出来ている」との言葉を贈った。
鈴は旅路の中、旅芸人一座と行動を共にしていた浅野郁也と出会った。郁也は蓬莱から流れてきた銃を持ち、世界に憎まれている、自分を憎むこの世界を壊すとの目標で、自分を保っていた。慶国へと向かう船で、旅券があるのかと絡まれた鈴たちだったが、清秀という少年に助けられる。自分を不幸だという鈴に、清秀は「不幸だとそんなに偉いのか」と言い、「姉ちゃん(鈴)は不幸に浸っているだけ」だとした。
反発しながらも、清秀が両親を失い、一人慶国に向かおうとしていること、妖魔に頭を傷をつけられて死を意識していることを知った鈴は、行動を共にする。清秀は徐々に衰弱し、ついには目が見えなくなる。和州止水郷で、鈴が宿を探しに行っている間、郁也は清秀が「蝕で村を失くしたことについて自分を憎んでいるだろう」と問い詰め、清秀の返した言葉が分からず十二国世界への恐れを感じ逃げ出す。郁也を追おうとした清秀は、和州止水郷の郷長の昇紘に轢き殺された。

鈴は清秀を殺した者が慶国の役人、昇紘だと知る。昇紘が中枢に賄賂を贈っていると聞いた鈴は、中枢にいる景王への憎しみを募らせ、王を暗殺すべく、冬器(王や神仙を殺せる武器)の剣を購入。祥瓊は王位簒奪を企てることはやめるが、慶国が内乱に巻き込まれつつあると知りそれを止めるべく慶国に急ぐのであった。
内乱、それは和州(わしゅう)なる土地を収める呀峰、昇紘への反乱だった。予王の時代より王に仕える昇紘は王に賄賂を贈り、民をいいように虐げている。それが和州や止水郷に住む者たちの見解だったのだ。呀峰は予王の代、政治への関心を持たない王を言いくるめて現在の地位を得ており、呀峰、昇紘いずれも酷吏の代名詞となっていた。
郁也は昇紘に自分の境遇や、十二国世界に対する違和感を話した。昇紘は同じく、麒麟が王を選び、王がいなければ国が荒れるとの点の理に疑問を持っていた。天が自分を罰するかどうか試す意味もあって、郁也を飼い馴らし始める。

芳国では毎日処刑が行われ民は怯えながら暮らしていた。王の定めた法があまりに締め付けの多いものだった為である。その事を知らない公主(姫)の祥瓊は父王と共に仙籍に入り永遠の命と若さを約束されて宮廷での華やかな生活を謳歌。自らの母が祥瓊の友人とその母にぬれぎぬを着せ処刑に追いやったことすら知らなかった。
民の不満が募り、芳国で遂に謀反が勃発。首謀者の月渓は自ら王の首を落とすという汚れ役を買って出る。「王は民のために法を厳しくした」との抗議も空しく、月渓から国の実態を聞かされた祥瓊は、目の前で母と峯麟を討たれ仙籍から外された。
その後は玉葉の名を与えられて里家(身寄りのない者や孤児の保護施設)で農民の暮らしをしていたが、公主であることが露見。王に恨みを持つ人々から残酷な方法(牛裂き)で処刑されそうになるが、月渓の使いに助けられて恭国の供王に身柄を預けられる。
供王は峯王の死に関して「王は自ら斃れるもの」と自業自得であるとし、祥瓊にとっては仇である月渓に、次の王が立つまで芳国の仮王の座を任せるのだった。婢として下働きを続ける生活の中、祥瓊は慶国の新王が10代の少女だと知る。月渓が王位を簒奪したと解釈していた祥瓊は供王の装身具と騎獣を盗み、慶国に向かう。同じ年ごろの少女ながら玉座に就いて、贅沢をしているであろう景王から王位を簒奪し、月渓を咎めなかった供王に意趣返しをする為であった。その旅の最中、ある宿屋で祥瓊は楽俊と相部屋になった。祥瓊は、宿代代わりにしていた供王の装身具が元で逮捕されかかり、とっさに楽俊からもらったものだと嘘を付く。
互いにすぐ釈放されたが、祥瓊はまかり間違えばあなたは処刑されていたと楽俊に告げる。楽俊は笑いながら「物を盗んだだけで死刑になるのは芳国くらいのものだ」と言った。楽俊は旅の最中で祥瓊の正体を知り、祥瓊が公主の座から引きずり降ろされたのは彼女自身の責任だとした。
初めは耳を貸さなかった祥瓊だったが、次第に楽俊の話に耳を傾け、景王が楽をして今の地位を得たわけではないことを知る。玉座を簒奪するとの野心もなくなり、景王の作る国がどんなものか見たいと言って楽俊と別れ慶国に向かった。

慶国では、陽子が官僚たちの役職を言い間違えると言った失態を見せ、自分を至らぬ王だと自信を持てずにいた。陽子は、新王として初めて出す勅令である初勅を決めなくてはならなかったが、良い国を作りたいと思いながらそれがどんなものかよく分かっていなかった。
そんな折、太師が謀反を企て、その黒幕とされる浩瀚覇王名で処罰される。浩瀚の監督責任を怠ったとして靖共を降格し、次の冢宰が決まるまで景麒に冢宰の任を授けた。本来麒麟に政治を任せることはないのだが、自分よりこの世界のことを知っているというのが理由である。
陽子は中陽子(ちゅうようし)の名を使い、お忍びで街に降りるようになる。この世界のことを知り、民が何を欲しているのかを知るためであった。かつての慶国の名君とされる達王に仕えた遠甫に人として、王としていかに国を治めるか教えを乞う意味もある。陽子は里家で慶国の娘蘭玉と、その弟桂桂と親しくなった。そんな中、陽子が不在の折に里家が襲撃を受け、遠甫が連れ去られる。襲撃時、里家にいた蘭玉は殺されて、桂桂も郁也の銃で重傷を負った。

鈴は内乱を起こそうとする殊恩党の参謀たる夕暉の誘いで内乱に参加、祥瓊は垣魋に救われて内乱に協力する。陽子は遠甫を襲撃した者の足取りを追う中で昇紘打倒を誓う虎嘯らと出会う。鈴、祥瓊は宿で知り合い、景王に合うとの共通の目的や、年が近いこともあり距離が近づく。訳ありの者が止まるその宿で、鈴は複数の冬器を仕入れた。
祥瓊は荷物の中身が冬器であり、昇紘を討とうとしていることを見抜く。互いの真の目的が同じであるとし、それぞれの境遇を話す。ここで、鈴は祥瓊の言葉から昇紘を守っていたのは予王であり、今の景王ではないだろうとする。鈴はそれでも景王を許せないとした。それでも、祥瓊が芳国の元公主であること、父を諫めなかった自分を例にとり、王を諫める人物がいないと道を簡単に踏み外すことや、罪を捏造する官吏もいるとの話を聞き、景王への認識を改めた。

陽子は虎嘯らとともに昇紘の別宅を襲撃した。そこで郁也と再会し、彼から「この世界がゲームのようなもので、役割を与えられている」「昇紘はこの世界を壊し、陽子を救おうとしている」と告げる。陽子は郁也を捕らえさせ、「世界は役割など与えてはくれない」「私がここにいるのは、私がそうすべきだと思ったからだ」と言った。
郁也は他の捕虜と共に捕らえられるが、鈴に外に出してもらった。鈴から現状逃げることもできない状況にあると聞いた郁也は、垣魋らを思い出し援軍を連れてくると、鈴の騎獣を借りる。鈴は同じ海客の立場から郁也が逃げてくれればと思い、その案に乗った。郁也は鈴に「銃で子供を撃ったと陽子に伝えてほしい」と伝言を頼んでいた。森の中で、郁也は小司馬の一軍に出くわす。「命乞いをすれば助けてやる」と言われたが、陽子や鈴の言葉を思い出し銃を向け、刺される。

陽子は鈴、虎嘯らとともに昇紘を捕らえることに成功。しかし、和州候呀峰が自らの軍を送り、昇紘を庇おうとした。虎嘯らは一時劣勢に陥るも、祥瓊、垣魋らが加勢する。瀕死の郁也を看取ったのは彼らだった。
夜、三人の少女は言葉を交わし、鈴と祥瓊は景王に会いたくて慶国を目指していたと口にする。陽子は自分が景王だと告白。王宮に戻っても官に信用がなく、自分には何の権限もないとした。ふがいない王で済まない。陽子は二人に言った。鈴は、陽子の苦悩を聞き、王の孤独を思いやり、祥瓊共々一緒に戦おうと告げた。

民と州軍のにらみ合いの中、禁軍(王直属の軍隊)が仕わされた。王室の闇を知る祥瓊の言葉から、陽子は禁軍を動かしている人物が靖共であると思い至る。ここで陽子は鈴と祥瓊に後を託し、一旦都へ向かう。和州の民は内乱軍に逃がしてくれるよう頼むが、鈴、祥瓊は自分たちの素性を明かした。元公主の祥瓊から王が禁軍を動かさない、今禁軍を動かしているのが王ではないと言った。鈴は采王の書き付けを見せ、自分は采王の使いとして景王の下へ来たとし、王を待つよう皆に言う。
膠着状態の中、景麒が姿を現した。陽子は景麒に乗り、左将軍の頭上で王として、「誰の許可を得て禁軍を動かした」と尋ねた。黒幕が靖共であることも見抜かれていると知った軍の兵士は戦意を失い、その場にいた全員が王に平伏した。将軍は呀峰、靖共の逮捕と遠甫の救出を命じられる。それを行えば今回の乱は不問にするというのが、王として陽子が下した勅命であった。

内乱は終わり、垣魋、浩瀚は共に復職する。桂桂は一命をとりとめ、遠甫は王宮で陽子を教えることとなった。陽子は郁也の死を悼む。陽子、祥瓊、鈴は今までの自分を振り返って新たな道を歩くこととなった。景王陽子の初勅が決まった。それは平伏の禁止であった。

『乗月』

出典: www.netflix.com

仮王に就かない月渓に代わり、景王からの書状を受け取る冢宰。

『風の万里 黎明の空』から『東の海神 西の滄海』の間のエピソード。

峯王亡き今、芳国を統べるのは、先王を討った恵州候の月渓とされていた。和州の乱の後、陽子は月渓に使いと書状を送る。月渓は、禁軍の左将軍となった垣魋から「帰国を代表する方へ」との言葉を聞き、受け取るべき者が芳国の代表なら、自分ではなく冢宰(ちょうさい。官吏の長)に渡してほしいとした。自分は謀反を起こし、王を討ち取ったので、仮王の座に就かないというのが、月渓の言葉だった。
垣魋が託された書状の中には、祥瓊が月渓に宛てたものもあったのだが、「国の代表へ」との言葉により冢宰に手渡された。冢宰は月渓が仮王になるべきだと語る。垣魋は月渓の下に向かい、祥瓊が今景王に仕えていると告げた。
祥瓊の戸籍が未だ芳国にあり、慶国の民ではない為、祥瓊は正式に召し上げられたわけではないと垣魋は告げる。戸籍を移すには芳国の王の許可が必要だった。一時身を寄せた恭国の供王の御物(かんざしなど)を盗んだため、そちらの許しも必要だが、慶国からの使いが恭国へ向かっている。芳国で空席になっている玉座を埋めねば、祥瓊を慶国の民にはできなかった。それを聞いても尚玉座に着こうとしない月渓に、垣魋は自分が半獣で、少し前まで将軍どころか、軍職に就くことすら法的に許されていなかったことを月渓に打ち明け、「人は変われる」とも言った。
月渓は峯王から賜った硯を手に、王の清廉潔白さを愛していたと垣魋に告げ、民が法で締め付ける王を憎むのは当然で、自分もこのままでは王を憎んでしまうと思い、王を手にかけたと口にした。自分の所業を飽くまで謀反、許されぬことだと語る月渓に、垣魋は自分が内乱を起こした一味の者だと語った。月渓に偽王や仮王になる気がないなら、新王が登極するまでの間、月陰(げついん)の王になってはどうかと垣魋は提案する。月陰とは、月に乗じて日陽(にちよう)の王に国を託すまで、国を預かるとの意味である。祥瓊からの手紙を受け取り、そこに綴られた謝罪や反省の言葉から彼女が過去を悔いていることを知った月渓は、「人は変われる」との垣魋の言葉を思い出し、国を新王に渡す為の仮王となることを決意するのだった。
供王は慶国からの使いに対し、「自分の装飾品を盗んだ祥瓊は国外追放をした。二度と恭国に入るな」と言い放った。これは追放並びに入国禁止の形で祥瓊を放免したことを意味する。

陽子は楽俊と共に、延王のもとを訪ねていた。延王は年に一度、自らの私有地にある墓に向かうという。墓標すらないその墓には「罪人」と称される「もう一人の自分」が眠っていた。物語は、『東の海神 西の滄海』に続く。

『東の神海 西の滄海』

出典: www.happyon.jp

斡由に王以上の位を授ければ、内乱は起きないとする更夜。延麒は思い悩む。

延麒六太は、胎果として蓬莱の戦国時代に生まれ育った。六太たち民は、権力者たちが王となるために起こす争いで何もかも失い、口減らしで子供を捨てるといった憂き目に遭っていた。親に捨てられたところを保護され蓬山で静養していた延麒は、最大の権力者である王はいずれ雁を滅ぼすとの気持ちと、王を選ばなくてはならない使命との板挟みとなり蝕を起こしてしまう(「自分に王は選べない」と叫び、半ば無意識に蝕を起こした)、延麒は渡った蓬莱で延王となるべき人物である小松三郎尚隆(瀬戸内海の一領主)を見つけた。尚隆は行き倒れた子供に過ぎない六太にも気軽に声をかけてきたが、延麒は尚隆を王にして雁を滅ぼすわけにはいかないと感じて延麒は自分正体を明かさなかった。
尚隆は民から搾取するようなことはせず、自分には民を守る責任があるとの考えを持っていた。民と尚隆の間には主従関係を超えた確かな絆があった。尚隆は小松の土地を狙う村上水軍との戦で囮となり民を逃がそうとしたが、民たちは自ら「若と戦う」と戻り標的にされてしまう。延麒は自らの使令を出すも、守り切れたのは尚隆だけだった。延麒は未だ王を完全に信じたわけではないものの尚隆に「国と民が欲しいか」と尋ねて誓約を結び、尚隆を王にすべく共に十二国世界に渡ったのだった。先王たる梟王の暴政と、王がいないことで廃れた雁国を見た尚隆は「これならいっそやりやすい」とし、新たな雁国が建った。

『東の神海 西の滄海』 では、尚隆が延王に即位してから20年が経過し、雁国は緑を取り戻し復興を遂げつつあった。しかし、国の全てが復興できたわけではない。元州の治水の権限が梟王に奪われたままであり、漉水(元州に向かい流れる川。季節ごとに氾濫する)の堤防が破壊されたまま放置されていることに民が不満を抱いていた。西の元州では謀反の動きすらあると情報が入る。元州候は民の報復や王の罷免を怖れて城にこもっているとされるが、延王は元州候に切れ者の息子がいることを口にした。元州候の息子は名を斡由といい、梟王の頃より傑物と知られる官僚であった。梟王の崩御の後も、斡由は国の荒廃を押しとどめるために手腕を発揮し、国中にその名を知らしめていた。
事態は六太(延麒の蓬莱での名前)の旧友を名乗る駁更夜(ばく こうや)の登場で動き出す。更夜は幼い頃、六太と出会い名前をもらった。六太は妖魔の天犬と暮らす更夜に、街で暮らしたくなったら自分のもとを訪ねるように言って別れたのだ。

更夜が王宮を訪れ事態は動き出す。更夜は斡由に拾われて仙籍に入ったという。今も更夜は天犬と一緒で、六太の名を忘れぬよう天犬に「ろくた」と名付けたと語る。更夜は、慈悲深い麒麟の情に訴えるべく、自らの従者から受け取った赤子を天犬の口に入れて六太に同行を願った。赤子の命を見捨てることができない六太は、そのまま元州に連れ去られる。道中、更夜は赤子を殺すと脅してまで麒麟を連れに来たのは、斡由の為だと六太に語った。元州や斡由について六太に話す更夜の口調からは、斡由を慕う心情が垣間見えた。

六太こと延麒は、斡由の下で漉水の流れが断たれたことで、元州の民が水源に困り泣いている旨を聞く。王が漉水の件を中々取り上げないと聞いた延麒は、自分が王と交渉するための人質として連れて来られたと知る。元より王に対し完全な信頼を寄せているわけではなかった延麒は、人質になることを受け入れ自ら投獄された。更夜は麒麟の力の元である角を呪具で封じた。この呪具は単に力を封じるだけでなく、延麒自身にも人質を作る意味を持っていた。同じく捕らえられていた牧伯(州候の監視役)の驪媚にも々呪具がつけられており、延麒と驪媚のどちらかが自分の額に巻かれた呪具を切ると、相手の呪具が締まる仕組みであった。延麒はこの呪具により、牢から出ることも出来なくなった。
台補(延麒)がさらわれた、との情報は王に伝わった。延王は延麒を連れ去った者が何かの要求を突き付けてくると読み、慌てることなく、部下に(無事とは思えないとしながらも)驪媚に連絡を取るよう命じ、仙籍を当たり更夜というものがいないか調べるよう指示を下した。延麒は牢内で驪媚と会話をし、斡由がこのような手段に出たのは、尚隆が王の仕事をサボっているからだと言った。驪媚は「主上には主上のお考えがおあり」だと言う。

斡由は延王が朝議を欠席したり、街に出歩いたりしている旨を口にし、元州の自治権をよこすように言ってきた。その上で好きなだけ遊べばいい、とも続けた。それに対し延麒も反論するが、斡由は全権をゆだねる官を置くなど代案を出し、あくまで自分たちが漉水を管理するとして退かなかった。延麒は今の王が最善であると思うかと斡由に聞かれ「それはない」と答えた。元より、王や権力者は国を亡ぼす存在と考える延麒は、「ただ王の全権を取り上げろというなら協力したかもしれないが、民の主は、民自身でいいんじゃないか」とも答えた。
更夜と延麒は、互いの過去を語り合う。更夜は斡由に居場所を与えられたことで恩を感じ、延麒は麒麟の本能もあって、厭っていた王の選定を行った。かつての旧友は片や恩義で、片や使命とのちがいこそあれど、それぞれの主君を選び、仕える身であった。延麒は延王・尚隆の家臣としての立場ゆえ斡由が兵を上げれば敵同士になる、斡由や更夜と戦いたくはないとし、斡由の説得を頼んだ。更夜は、斡由が王との戦争になるかもしれないことを承知している、斡由を止められないと告げた。延麒は内乱になれば多くの犠牲者が出ることを憂えた。

王宮では元州の州宰を務める院白沢が呼ばれていた。白沢は、王の上に帝位をもうけ、そこに斡由をつけてほしいと王に訴える。延王は自分のものをくれてやる気はないと言い、速やかに延麒を返せば自決させてやる、麒麟を盾にするなら処刑すると言った。白沢は首を落とされる覚悟で来ていたが、延王は白沢を帰した。斡由に王位簒奪を思いとどまるよう進言しろと、余裕を持ってのことであった。延王は禁軍7500で元州の城を包囲するよう命じた。
王が軍を動かしたとの情報は、斡由の口から延麒に伝えられる。延麒は「何故お前も尚隆も戦いたがる。7500というのは物の数じゃない、命の数だぞ」と訴えるが、斡由は漉水の氾濫でどれだけの民が死ぬかご存知かと尋ね、「明日万の民を死なせない為に今日千殺す必要があるなら、私は後者を選びます」と続ける。その言葉や、尚隆、斡由が「同じ」考えを持っていると痛感し、延麒は愕然とする。
王宮で民が戦に参加するために集い始める。皆、戦乱を経験しながら、それでも家族のために戦う決意をしたのだった。そんな中、中枢では尚隆が元州側の兵士になったとの報告が入る。もしこの内乱で殺されることになったとしても、それは覚悟の上であった。
驪媚は、王を軽んずる発言をする延麒に、自分が牧伯に選ばれた時の話をした上で、延王・尚隆は、延麒が思うような愚かな男ではなく、きちんと物事を考え行動する、と言った。延麒は、王とは国を滅ぼす存在だと見ていたが、驪媚はそれは逆で、国と民には王が必要だと言った。驪媚は延麒を逃がすべく、延麒の額につけられた呪具を断ち切った。そしてその結果、自身は額を呪具で潰されて死亡した。
王の軍は増え、近隣の州候も王の側についた。斡由は、白沢の「我々は天命を軽んじたのではないか、本当にこれで良かったのか」との後ろ向きになり始めた言葉や、王の軍が増えた事実に思わず声を荒げる。

元州側についた尚隆は、他の兵士が元州が夢のような土地だったのに、今や逆賊呼ばわりと嘆いているのを耳にする。その眼前で、堤防作りが始まった。これは、延王が城を離れる前に命じたものであった。斡由は、今まで無視していた堤防を作り始めることで王が機嫌を取るつもりかと勘繰るが、堤防を作っている個所から水攻めをする腹積もりだと悟る。斡由は白沢に籠城する旨を伝え、兵糧を集めるよう命じる。時間、量的に余裕があまりなかったが、斡由は兵糧を半ば強引に集めさせた。更に斡由は更夜に命じて、堤防の一部を破壊させる。水攻めによる被害を少しでも少なくする為であった。

七日間眠っていた延麒は目を覚まし、王師(王の軍勢)が堤防を作り始めたことを聞く。新しい呪具(麒麟の力を封じるもの)が付けられていたが、その呪具は角には触れておらず、延麒はさほど苦痛を感じなかった。延麒の看病をしていた女官は国を傾けるつもりはないと、延麒を逃がす。斡由の前に引き据えられながら、女官は斡由に降伏を勧める。斡由のそばに控えていた更夜と天犬は、女官を惨殺する。更夜は斡由から罪人の処遇を任されていた。
一方の延麒は、城の深層で舌を抜かれた囚人と見つけた。地下宮を探るうち、斡由の父である元州候と出会う。元州候は長らく飲まず食わずだが、仙籍にあるため上で死ぬことはなく生きながらえていた。元州候は、梟王の暴政にへつらう為に罪もない民を虐げたとして息子によって投獄されており、梟王の訃報を知らなかった。更に元州候は斡由を「地位が欲しいだけ」「失敗や恥辱を怖れている」「自分に非はないと信じたがっている」と評した。
延麒は、斡由が挙兵すること、斡由の言葉に今ひとつ説得力がなかったことを思い返し、彼の正義に実体がないと思い至る。舌を抜かれた囚人が元州候の身替わりだと知り、怒りを覚えるのだった。

軍に混じっていた尚隆は、腹痛を装い隊列から離れ延麒の捜索隊に加わっていた。延麒は尚隆に合図を送り、自ら捕らえられる。更夜に出くわした途端、延麒は震え出す。更夜が処刑させた女官の血の臭いに酔ってのことだった。延麒は初めて会った時の更夜が、天犬に人を食わないよう言っていたことを口にする。斡由に殺しを命じられていると指摘するが、更夜はもう人殺しは気にしない、自分は斡由の臣で、斡由が殺人を望むなら殺すと言った。更夜の「麒麟も王に命じられれば殺すだろう」との問いに、延麒は尚隆はそんなことを命じないと答えた。
その場にいた尚隆は自ら名乗りを上げ、延麒の友としての更夜に、延麒を帰すよう頼む。更夜、延麒共に大切な主を守るとの意思は一致していたが、延麒は更夜が血の臭いをまとい、人道に反して国を傾けることを良しとはしなかった。「自分と同じような子を作りたいのか」との延麒の言葉に「他人のことなど知らない。人はいつか死に、国は滅びる、斡由が良ければいい」「全部滅んでしまえば楽になる」と返した。尚隆はその言葉に怒り、「国を頼むと民から託されているからこそ俺は王でいられる」「ここはお前の国だ」と更夜に言い聞かせる。更夜はその言葉をはねのけ、部屋を後にする。「何も聞いていない、知らない」と自分に言い聞かせながら。

雨が降り、元州の兵士が完成した堤防を破壊し始め、民と乱戦になった。延麒は斡由の前に現れ「ここは血の臭いがするから帰る」と言い出し、「何故自分の父を幽閉した」と尋ねる。「誘拐するのを招くというのか」とも。麒麟の誘拐のことを問い詰められた斡由は、延麒を呼んだのは更夜だとし、繕うように父のことは知らない、部下に調べさせると言った。そこに白沢が現れて、堤防を切るとはどういうことかと問い詰めてきた。堤防を切ることは、その場の家臣も知らないことであった。元州の兵士と民が戦い、民が殺し合っている旨を、斡由は初めて聞いた。
堤防を作らせたのは、斡由を試す延王の策だったのだ。白沢は「元州はこのままでは終わり。王師(王直属の軍)に下り罪を告白して温情を測りなさい」とその場の家臣たちに言った。斡由は白沢やその場の家臣たちに責任を擦り付ける。延麒は、共に王宮に向かうと言ってきた斡由の申し出を断り、ことの顛末は自分から王に伝えるとした。遂に斡由は白沢、延麒が手を組んで自分を貶めようとしたとまで言い出す。
ここで、斡由の家臣のふりをしていた尚隆、延王が正体を現した。延王は「斡由が自分を討ったならそれも天命」だとし、斡由との決闘を申し出る。主(斡由)を守りたいなら体を張っても自分を止めても良いと言ったが、その場にいた家臣の誰も斡由を守らなかった。もはや家臣に見捨てられた上、剣を渡されても打ち合う度胸のない斡由と戦う意味はないと言った延王だが、斡由が後ろから斬りかかる。延麒の使令により斡由は致命傷を負い、延王によりとどめを刺された。主を失った更夜は延王から「お前や養い親(の天犬)が追われることのない土地をやる。時間をくれぬか。そんな世を作るために俺はあるのだ」と言われて落涙しながら「待っている」と述べ、放浪の旅に出た。
延麒は、更夜を許し、王としての度量を見せた尚隆に礼を言い、「俺にも居場所をくれるか。緑の山野、誰もが飢えないで済む豊かな国がほしい」と告げた。延王は約束通り国をくれたとし、今度は自分が約束を果たすと誓った。

『十二国記』の登場人物・キャラクター

慶東国(けいとうこく)

えどのゆうき
えどのゆうき
@edono78

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