ヴィンランド・サガ(VINLAND SAGA)のネタバレ解説・考察まとめ

『ヴィンランド・サガ』とは、幸村誠による漫画。講談社発刊・月刊アフタヌーンにて連載された。主な舞台は11世紀初頭の北欧。主人公のトルフィンは、幼い頃に父・トールズをヴァイキングに殺され、復讐を果たすために戦士となる。やがてその道程での心の成長と共に、平和な場所『ヴィンランド』を求める旅へ。戦乱や紛争、暴力や罪、愛の中を生き抜く人間たちを描いたアクション・ヒューマンドラマ。

『ヴィンランド・サガ』の概要

『ヴィンランド・サガ』とは、幸村誠による漫画作品である。舞台は11世紀初頭の北欧が中心で、ヴァイキング、王国、宗教、奴隷、民草が登場する西洋の時代劇でありアクション・ヒューマンドラマ。
文化や登場する兵器や武器や防具や馬具、農工具(農耕具)、その他の衣食住に関しては細かな時代考証がなされているが、台詞回しや言葉遣いに関しては現代的なものが殆どであり、当時の人物の会話やそのやりとりは専門的な知識を必要とせずに読むことができる。

2005年4月から講談社発刊・週刊少年マガジンで連載開始。週刊連載に執筆のペースが合わず、2005年10月に同誌での連載を終了し、同年12月から月刊アフタヌーンにて月刊ペースで連載を再開。単行本は週刊少年マガジン版で1~2巻が発売されたが、版型や収録話数を改めた月刊アフタヌーン版として新たに1巻から再版された。
2009年に平成21年度・第13回文化メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞。
2012年に平成24年度・第36回講談社漫画賞「一般部門」受賞。

西暦1002年、ヨーロッパの海や川は蛮族・ヴァイキングで溢れかえっており、人民の恐怖の対象となっていた。
そんな中、少年・トルフィンは父、母、姉と裕福ではないが幸せに暮らしていた。そんな家族の元へ北海最強の戦闘集団である『ヨーム戦士団』のフローキが現れる。実は父は以前ヨーム戦士団に所属しており、「戦鬼(トロル)」の名で恐れられた戦士だった。しかし、ある日突然、首領の娘と共に姿を消していた。フローキは断りもなく駆け落ちしたことを不問にする代わりに、イングランドと戦うように父親に告げた。父親はそれを了承し、数人の仲間と旅立った。戦いに憧れていたトルフィンは黙ってついて行くことにした。しかしそんな一行を待っていたのは、フローキからの依頼で父を殺さんとするアシェラッド兵団だった。父は人を殺さない誓いを守って素手で戦い、頭領以外を打ちのめす。しかしトルフィンが捕まってしまう。父は仲間に手を出さないことをアシェラッドに誓わせ、命を落とした。
約束どおり、一行は開放されたが、復讐に燃えるトルフィンはアシェラッド兵団に残るのだった。

『ヴィンランド・サガ』のあらすじ・ストーリー

アシェラッド兵団の復讐鬼

幼い頃のトルフィン(左)と、それを教え諭すトールズ(右)。

11世紀初頭。ヨーロッパ各地の海や川で襲撃や略奪を繰り返す北海の蛮族・ヴァイキング。彼らの存在は、人々の平穏とは対極にあり、恐怖そのものであった。ある時は大国の領土拡大や領地接収の為の傭兵として、ある時は彼らの信じる北欧神話の神々の名に於いて、凄惨な営みは続いていた。

そのヴァイキングの傭兵集団「アシェラッド兵団」に、トルフィンという少年が所属していた。トルフィンは2本の短剣を用いて戦う腕利きで、戦で手柄を挙げるたびに報酬として団長のアシェラッドとの決闘の権利を求める変わり者だった。
トルフィンの父であるトールズは、北海最強の「ヨーム戦士団」の大隊長の1人だったが、結婚して子供が生まれたことを機にそれまでの生き方を捨てて出奔。アイスランドで平和に暮らしていた。しかしヨーム戦士団のフローキは、政敵であるトールズを決して逃がすまいと執拗に追い続ける。ついに居所を突き止められたトールズは、フローキから依頼を受けたアシェラッド兵団の卑劣な策略によって命を落とす。父の仇討ちのために、トルフィンは故郷を捨ててアシェラッドの兵団に加わり、その首を虎視眈々と狙っていた。

そのアシェラッドは、トールズを殺害したことに複雑な思いを抱いていた。そもそもフローキの依頼は半ば脅迫で、引き受けたかったわけではない。さらにトールズとの直接の決闘には破れながら、部下が勝手に人質を取ったため、今さら和睦もできずに無抵抗の彼を殺すしかなくなってしまったのである。
アシェラッドの母はウェールズの高貴な血筋の末裔で、いつか理想の主君と共に先祖の土地に凱旋して豊かな国を作ることが、彼の密かな夢だった。トールズの強さと高潔さは、アシェラッドをして「この男なら自分の理想の主君足りえるのではないか」という期待を抱かせるほどのもので、だからこそそんな男を殺してしまった無念が心から消えない。足掻けば足掻くほど遠退く夢への諦観と絶望を苛立ちに変えて、アシェラッドは父の仇を討つことしか頭にないトルフィンを嘲笑し、翻弄する。

クヌートの覚醒

己の周囲で次々と死んでいく者たちを見続けたクヌートは、王としての気質を開花させる。

ある日、トルフィンとアシェラッドの運命は大きな転変を迎える。イングランドとの戦争中、敵方についたヨーム戦士団屈指の猛者であるトルケルと、彼の率いるヴァイキングたちとの戦いで、トルフィンたちは捕虜となっていたデンマーク王スヴェンの次男クヌートを保護したのである。
期せずして王族との接点を得たアシェラッドは、クヌートがスヴェン王にほぼ見捨てられた立場であることを見抜くと、彼を利用して自分の夢を叶えることを画策。年頃の近かったトルフィンは、クヌートの世話役を任される。

勝利よりも戦いそのものを求めるトルケルは、「楽しい殺し合いができそうだ」と部下と共にアシェラッド兵団を執拗に追撃。クヌートを守るために奮闘するトルフィンたちだったが、次第に脱落者や離反者が相次ぎ、ついにトルフィンとアシェラッドを除いて壊滅してしまう。
しかしトルフィンたちも追い詰められたその時、凄惨な戦いを見続けたクヌートが、「自分が王となって全てを救う」という“王者としての気質”に覚醒。アシェラッドを本心から服従させるばかりか、その瞳の奥にかつてトールズの中にも見出した「本物の戦士の輝き」と同じものを感じたトルケルをも味方につける。

捕虜となっていたクヌートが、王者としての気質と屈強な戦士団を抱えて帰還したことにスヴェンは驚くが、その要となっているのがアシェラッドであることも見抜く。彼さえ切り離せばクヌートを潰せると判断したスヴェンは、アシェラッドがウェールズに固執しているという情報を手に入れるや「次の侵略の地はウェールズだ」と宣言。これを翻意させたいならクヌートを捨てて自分の傘下に入るようアシェラッドに揺さぶりをかける。
事実上“クヌートかウェールズか”の二択を迫られたアシェラッドは、「自分が死ぬ代わりにそのどちらも捨てない」道を選択。乱心した風を装って公然とスヴェンを殺害し、取り押さえようとした兵士たちも次々と切り殺し、最後はわざとクヌートの手にかかって命を落とす。王の死というアクシデントを挟むことでウェールズ侵略を断念させ、同時にクヌートに王位を継がせるという作戦だった。

トールズが殺されてからずっと追い続けたアシェラッドが目の前で死んだことを受け入れられず、トルフィンは錯乱。クヌートに斬りかかろうとして取り押さえられ、これまでの功績から処刑は免れるも奴隷として売り飛ばされることとなる。
王殺しの逆賊であるアシェラッドを自らの手で仕留めたクヌートは、転がる王冠を被り、全軍の指揮及びイングランドの統一は自分が代行すると諸侯達に宣言するのであった。

奴隷としての日々、暴力との決別

奴隷の身分に落ちたトルフィンは、デンマークのユトランド半島の南部にある農場で働いていた。ここに広大な土地を有するケティルという富豪によりその身を買われていたのであった。
1015年6月下旬。そこへ新たに奴隷として買われてきたエイナルという男がやって来る。
ケティルはトルフィンとエイナルに、森林の開墾をしその後の収穫物を正規の値段で買い取り、その価格が2人の奴隷としての価格を上回れば自由の身とする事を語る。意志希薄なトルフィンに対し、この待遇に期待を持つエイナルは意気を挙げ、早速森林の開墾に取り掛かるのであった。

エイナルは善良にして心優しい男で、傭兵の略奪によって故郷を失い奴隷へと落ちた過去を持ち、戦士というものを嫌い抜いていた。そんな彼と過ごす内に、トルフィンは自分の過去を顧みて、ただ獣のように生きてきた己を悔いるようになる。
やがてエイナルは、トルフィンがかつて戦士だったことを知って葛藤。しかし悪夢にうなされる彼を放っておくこともできず、これを支えていく。エイナルとの間に友情を築いていく一方で、夢の中に現れたアシェラッドに背中を押される形で、トルフィンは暴力との決別と新たな人生を踏み出す決意を固めていく。

ケティル農場の崩壊

ケティル農場で共に過ごしたトルフィンとエイナル(下)は、兄弟と呼び合う間柄となる。

3年ほど経ち、トルフィンたちの畑は順調に収穫を挙げ、ついに任された土地の開墾も完成に近付いていた。次の収穫を待たずに、最後に開墾した土地への種蒔きを終えれば二人は自由の身だと、ケティルはトルフィンたちに告げる。

同年10月。デンマークはユトランド半島のイェリングにて、クヌートは兄王子ハラルドの居館に駐留していた。
そこへハラルドが病に伏せていると聞きつけたケティルは、見舞いの品々を以て謁見の為に訪れる。だが、この時既に、クヌートの奸計によりハラルドはこの世を去っていた。
思いがけずこのイェリングでトールギルという男と再会するケティル。トールギルはケティルの長男であり、今はクヌートの従士であった。ことの次第を聞き出すと、ケティルは自らの農場や財産を守るために、ハラルドの代わりの後ろ盾としてクヌートに口を利いてもらえる様に計らってくれとトールギルに頼み込む。
時を同じくしてケティルが連れて来た次男オルマルは、市場でレイフという男と出会っていた。レイフはトールズの友人で、父の仇を討つために村を捨てたトルフィンをずっと探し続けていたのだった。このひょんな出会いから、互いに倅には手を焼いている事などを話してレイフとケティルは意気投合する。
レイフがトルフィンを探していることを知ると、ケティルは自分の経営する農場にも同じ名前の奴隷が居る事を告げる。レイフはそれが探していたトルフィン本人であるかを確かめる為に、ケティル一行とともにユトランド南部の農場へ行く事を決意する。

だが、翌日。トールギルの計らいでクヌートへの謁見を実現させたケティルであったが、同行したオルマルがクヌートの従士になりたいと勝手な進言をしてしまう。自軍の兵力維持のための財政確保に領地の接収を画策していたクヌートは、腹心であるウルフという男とともに、このオルマルを利用してケティルの豊かな農場を手に入れようと画策する。
見事に踊らされて反逆者の汚名を被るオルマル。クヌートの策謀を見抜いて激昂し、父や弟と共に戦う決意を固めるトールギル。この緊急事態にケティルは慌てふためくが、もともと戦好きで血の気の多い猛将であるトールギルは既にクヌートの軍勢を農場で迎え撃つ事を決めていた。
どうにかレイフの船でイェリングを脱出したケティル一行。だが、到着した農場ではもう一騒動起こっていた。ケティルの情婦で、エイナルが想いを寄せているアルネイズという女奴隷を取り返そうと、彼女の元夫であるガルザルが乗り込んできたのである。
ガルザルは賞金のかけられた逃亡奴隷で、これを捕まえようとする農場の用心棒たちと交戦。大立ち回りの末に力尽き、ケティルの子を身ごもっていたアルネイズは涙を流す。

ここへ帰って来たケティル一行。アルネイズの献身に依存していたケティルは、心の動揺を癒そうと真っ先にアルネイズ元へ足を向けるが、ガルザルの一件を知り豹変。彼女を棒で滅多打ちにする。怒りと疑心暗鬼が綯い交ぜになり錯乱したケティルは、追って来るクヌートの軍勢を迎撃しようと戦う準備を始める。
自由の身となりレイフに連れられ、瀕死の状態となったアルネイズの元を訪ねるトルフィンとエイナル。レイフはアルネイズをどうにか連れ出して戦になる前に離脱しようと提案するが、トルフィンはここが戦場になる事を黙って見過ごせず、また、アルネイズの容体が落ち着くまで時間がかかる事から、一同は身動きがとれないでいた。
そしてついに、ヨーム戦士団を引き連れてクヌートが上陸。農場は、そのまま戦場となった。クヌートの軍勢の圧倒的な強さの前に次々に兵力を失うケティルの軍勢。相手の強大さを知った寄せ集めのケティルの兵達は散り散りに退いていく。絶望の中で、ケティルはヨーム戦士団の兵により深手を負わされてしまう。また、従士の離れた隙を狙って敵本陣に奇襲を掛けたトールギルの剣も届かず、側近のウルフの横槍に遭い敗走。
その最中、アルネイズは臨終を迎えていた。何もかもを失い、生きる希望を失ったアルネイズに、トルフィンは自分が幼い頃にレイフから聞かされた、豊かで平和な土地「ヴィンランド」の話を語って聞かせる。俺たちと一緒にそこへ行こう、と。そのまま息を引き取るアルネイズに、涙を流す一行。アルネイズの復讐をと怒りを抑えきれないエイナルだが、トルフィンが彼を制する。

ケティル自身はからくも生き延びるも、戦は農場側の完全敗北で幕を下ろした。
アルネイズに胸を張って語れるものが欲しいと、ヴィンランドに平和な国を作るという新たな旅の目的を決意するトルフィンとエイナル。

故郷へ帰ろうと言うレイフだったが、トルフィンは忘れ物があると言い、クヌートの元へと向かった。エイナルも後を追う。
そして再会を果たすトルフィンとクヌート。
ヴァイキング達を束ねて、その力を楽土建設の為に用いる事こそ自らの使命だと語るクヌートに、エイナルはその路傍で踏みにじられた民草の嘆きと怒りを訴える。トルフィンは農場から手を引かないなら、ケティルの一家ごとその戦火から逃げると主張する。トルフィンは、クヌートの力の及ばない場所にクヌートとは違うやり方で平和な国を作ってみせると、暴力ではない方法で平和な世界を作ると、ただそれを伝える為にクヌートと謁見したのだ。
トルフィンの清々しく美しい決意を知ったクヌートは、ケティルの農場とその他の村々の接収を白紙に戻す事を約束し、軍を撤収していく。

接収を免れたものの、働き手の大半を失ったケティル農場の面々はこの度の災難を大いに反省し、生き残った用心棒達も一丸となり農場再興に向けて畑仕事に精を出していった。ケティルは虚脱感から立ち直れずに半ば隠居状態に。代わりにオルマルが心を入れ替えて、農場主として誰よりも働く姿があった。

ケティル農場を後にしたトルフィンは、エイナルやレイフとともに生まれ故郷であるアイスランドへと旅立っていく。

ヴィンランドを目指して

1018年12月。アイスランド南部の小村。
ついに生家へと帰って来たトルフィン。だが、生きている事も諦められていたトルフィンの突然の帰郷に、村民の誰もが目を疑い、姉のユルヴァでさえ一目見ただけでは本人だと信じない始末。だが、母親であるヘルガは、トルフィンの目を見て、トールズの面影を重ねながら、間違い無くトルフィンであると確信する。
フェロー諸島でのアシェラッドとの一件以降の事を皆に語るトルフィン。そして、新たな友と新たな目的を持ち、そのため旅へ出る事を語ると、ヘルガは激励してくれるのであった。
まずは建国に当たって出資者を探している旨を話すが、アイスランドで貯えをもつ人物と言えば、ハーフダンという男ぐらいのものだった。一行はハーフダンの農場へと向かった。

農場へ着くと船着き場には船が何隻も停泊しており、奇しくも、ハーフダンの倅が結婚式を挙げるというタイミングだった。借金の話をするにはどうなのかと思案しているところへ、樽を被った娘が一人やって来る。この娘はグズリーズという名で、レイフの義理の妹にあたる。船乗りに憧れるグズリーズは、ただ“女である”という理由からそれをレイフに拒まれ続けていた。どうしても船に乗せてもらいたいグズリーズは、自身の髪を切り落として“これでもう女ではない”とアピールするが、そのまま足を滑らせ、桟橋で頭を打ち気絶する。そこへ更に声を荒げる男が現れる。人攫いだと叫ぶその男は、ハーフダンの息子シグルズであり、なんとその結婚する相手というのがグズリーズでなのだ。髪を切られ気を失う自分の結婚相手を運ぼうとするトルフィン一行を、完全に人攫いだと勘違いして武器を抜くシグルズ。これを収めたのは、騒ぎを聞いて駆け付けたハーフダンであった。
ひとまず人攫い云々の件は落着し、ハーフダンにヴィンランド開拓資金の融資の交渉を持ち掛けるトルフィン一行。ハーフダンは失敗の可能性を言及し、かつてレイフの弟ソルヴァルドが開拓団を率いてヴィンランドに渡り、先住民との戦闘で命を落とした事を語る。レイフは自身はこのソルヴァルドの開拓団に参加していない。だが、ソルヴァルドは攻撃的な性格で先住民との最初の接触で戦闘になったが、トルフィンが開拓団の指導者ならそんな事にはならないと信じていた。
結局ハーフダンは首を縦に振らず、金を借りる事は出来なかった。ハーフダンの息子シグルドの結婚式に出席するという条件で祝いの礼としてイッカクの角24本を受け取ったが、これはアイスランド一帯ではありふれた工芸品の材料でしかなかった。だが、レイフはこれをハーフダンの挑戦状であると語る。イッカクの角は、遠いグリッシャランド(ギリシャ)では伝説上の生き物ユニコーンの角として珍重され、商いを上手に出来れば、この角と同じ重さの黄金と換えられる程の高値で売れる。しかし、ギリシャはヴィンランドとは正反対の方向に位置し、また、その道程は決して楽なものではなく、片道で1年はかかる距離である。つまり、これはトルフィンの熱意を試すハーフダンなりのメッセージでもあったのだ。
改めて互いの覚悟を再確認し、ギリシャへの旅を決心するトルフィン一行であった。

一方。
グズリーズは、幼い頃から、広くて未知なる世界への自由な旅を夢見続けている。
何度もレイフに船に乗せろとせっついてはその度に「女だから」と断られていた。グズリーズはこの「女だから」という縛りに納得しておらず、ハーフダンの息子シグルドとの結婚も半ば政略結婚であり、ここで求められる「女としての役割」は本人の意思とは反していた。
それでもシグルドとの結婚式そのものは滞り無く進み、実感の無いままに宴は進行。結婚初夜の営みのためシグルドと二人きりになる。浮かない顔をしているグズリーズだが、これも「女の役割」として割り切ろうと、シグルドを受け入れる事にした。

だが、気が付くと、グズリーズはシグルドの脚に短刀を突き刺していた。
これにより、追われる身となってしまった。船着き場のレイフ達の元へ駆けつけるグズリーズは事の次第を告げる。そして「花嫁に足を刺された」という事実がシグルドをはじめハーフダンの一家にとって如何な汚名であるかその深刻さを知るトルフィンは、このまま帰してはただでは済まない事を懸念し、同時にここからの航海が険しいものになる事を説いた上で乗船の意思をグズリーズに問う。グズリーズの答えは「船に乗る」であった。
こうしてグズリーズを乗せてギリシャ行きの船は走り出した。だがこの航海は、シグルドが追っ手となる、逃避行でもあるのだった。

贖罪のための猶予

父をトルフィンに殺されたヒルド(上)は、その仇討ちのために彼を追い詰める。

船酔いに苦しむグズリーズだが、航海は続く。追っ手であるシグルドを躱しながら。

て船は進み、シェトランド諸島へ。
レイフの友人アルングリムの一家が、戦に巻き込まれて死んでいた。脅威は未だ去っていない事を懸念したトルフィンは、自分以外を船に残して偵察に出る。
女や子供まで殺され、焼かれた村の中で、一赤子を抱く一人の女性と出会う。女性は致命傷を受けており、赤子の名前がカルリである事を告げると、トルフィンに託して息絶えた。トルフィンはこの赤子カルリを育ててくれる親を探すため連れて行く事にする。
まず、レイフはカルリの親戚を探そうと提案。赤子の世話などした事のない一行は四苦八苦しながら情報を辿り、ようやくアルングリムのいとこの家へ。
だが、カルリがアルングリムの血縁だと知ると扉は閉められる。事の発端はアルングリムの一族と他の一族との諍いが原因で、何年もの間もめにもめて死人が出て、その報復のためにまた死人が出て、ついに戦にまでなってしまったのだという。更なる報復の連鎖を絶つための皆殺しであって、ここでアルングリムの血族が生きていたと知れればまた血を見る結果になる。カルリは、この一族同士の争いの届かないところで育てるべきなのだった。
そうこうしているうちに追っ手となったシグルドに追いつかれるも、口八丁手八丁でなんとか撒いていく。

1019年1月。ノルウェーはスカンジナビア半島西岸部。いよいよ大陸の一端に差し掛かった。
この森で、トルフィンは冬眠していない熊に遭い、襲われてしまう。短刀一本で抵抗するが苦戦を強いられる。その窮地を救うために鍋を叩き注意を引き受けるエイナルだったが、間一髪で熊は倒れる。それは、ある女狩人の放った弩(いしゆみ)の一矢で仕留められていた。

女狩人は「凪の入り江」のフラヴンケルの娘、ヒルドであると名乗る。解体した熊の肉で鍋を囲み会話をしていると、かつて、「凪の入り江」の地を治めていた首領フラヴンケルの首を狙う兵団の襲撃を受け、その首領の名がアシェラッドであり、森へ逃げたフラヴンケルとヒルドは一人の若い戦士に見つかり、フラヴンケルは喉を割かれて死んだ。そして2本の短剣を携えたその若い戦士は仲間から「トルフィン」と呼ばれていた事をよく覚えていると語った。つまり、ヒルドの父フラヴンケルを殺したのは、トルフィン本人に違いないのである。
自作の強力な弩を構え、この場で復讐を果たすと言うヒルド。だが、トルフィンはフラヴンケルのことを覚えていなかった。
トルフィンを庇おうとするエイナル。今はそんな人間じゃないと説得を試みるグズリーズ。だが「昔の事」で済ませられるかとヒルドは迫る。そして鍋に毒を盛ったと言って、解毒剤が欲しければ一対一で決着をつけさせろと迫る。エイナルは止めるが、トルフィンはこの勝負を拒む権利が自分には無いと言い、武器を持たずにヒルドが待ち構える森へ向かった。自分はまだ死ねない、生きて罪を償いたいと懇願するトルフィン。だがヒルドの恨みは深く、簡単には退いてくれない。足に何本もの矢を受けたトルフィンは、ついに動けなくなってしまう。
だがトドメに放ったはずの矢は、空に向かって飛んで行く。ヒルド自身が誰よりも驚いた。そしてヒルドは、殺された父親と狩りを教えてくれた師を傍らに感じていた。
「赦せと、おっしゃるのですか」

トルフィンは、ヴィンランドという新天地に自分が壊した平和よりも平和な国を作り、自分が殺した人よりも多くの人を育む事で、生きて償うのだと訴えた。
ヒルドは、やってみせろと応える。だがトルフィンが口先だけの男なら、即座にその頭を射抜くのだと続ける。
こうしてヒルドは「監視者」として度に同行する事となった。

ヨーム戦士団の後継争い

トルフィンが受けた矢傷は深く、満足に動けるようになるためには春まで静養しなければならなかった。

1019年4月。ノルウェー南西部のベルゲンにて。
静かなこの土地で静養し、春を迎えたトルフィン一行。トルフィンは自在に動けるまでに回復し、赤子のカルリは自力で立ち上がれるようになった。
逗留先のこの地で世話になった夫妻がおり、里親としてカルリを預ける事になる。
だが、既に情が移ってしまったグズリーズは別れに耐えられず、結局カルリを連れ出してしまう。トルフィンもそれを受け入れた。

同年同月。デンマーク。王の拠点イェリングに寄港。
レイフの提案で、ここイェリングで商いの基本をメンバー達に体験させる事が目的だった。
賑わう市を見学する一同だったが、トルフィンに声を掛けてくる男が居た。男はヴァイキングらしく、アシェラッドの下にいた頃のトルフィンのこともトルケルのことも知っていた。何が起きているのかを知るために、トルフィンは単身トルケルの元へと赴く。
トルフィンと再会したトルケルは、そこで彼にフローキを紹介する。お互いに初対面であり、トルフィンは自分の父親が殺された一件の首謀者がフローキである事はまだ知らない。
フローキは、先代のヨーム戦士団の首領シグヴァルディが跡継ぎを指名しないままに急死し、現在首領の座が空席となっており、その座をヴァグンという野心家が力を蓄えつつ狙っている事を語る。そして軍団の規定で50歳以上の人間は該当せず、若すぎても入団資格が無い。フローキ本人は前者の理由で首領の座に就けないが、孫が出自血統で最適だと主張する。しかしトルケルは、トルフィンがトールズの子であり、シグヴァルディの孫に当たる事に目を付け、トルフィンこそ首領に相応しいと持ち掛ける。跡目争いを引っ掻き回し、“楽しい戦”をするのが目的である。トルフィンは跡目争いに興味は無く、ヨーム戦士団と関わること自体を拒否し、城をあとにした。
トールズの子が生きている事を知ったフローキは、トルフィンの暗殺を企む。

急いでイェリングを出港するトルフィン一行。しかし、それを軍船が追って来た。
自分が狙いである事を知っているトルフィンは自分一人でこれを引き受けると提案するが、ヒルドはトルフィンの生死を監視するために共に船を下りる。
ヒルドの助けもあり、素手で粗方の相手を倒すトルフィンだったが、相手が仲間割れを起こす。
フローキの手下を殺した戦士二人は、自分達がヴァグンの使者である事を明かし、トルフィンにヴァグンの派閥に力を貸して欲しいと伝える。
今や自分は商人であり、戦士ではない。争いに関わりたくないという旨で返すトルフィン。
だが、その場に居合わせた村民は、恐怖の目でトルフィンを見つめていた。

ヴァグンの使者はトルフィンに語る。フローキが再び刺客を送り、今日のような事が何度も起こる。
トルフィンは、もう羊の中では暮らせない。少なくとも、ここバルト海では。
そう、告げるのであった。

『ヴィンランド・サガ』の登場人物・キャラクター

トルフィン

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